第49話 次なる標的


 ザッキーは三瓶どんと意気投合した浜辺の村(魔)改造計画に本腰をいれる為、しばらく現地駐留するそうだ。

 三瓶どんの提唱する“地形と調和した改造論”が程よい縛りプレイになるらしく中々にエキセントリックにエキサイトしていた。

 三瓶どんも三瓶どんで「マジクラベースだと機械的な仕組みを実現せんなば、どうにも大掛かりな作り物になるべさなぁ」とザッキーの提供する不思議科学便利アイテムを魔改造計画に取り込み、村の発展が急加速するのは予想に難くない。

 夜な夜な三瓶どんとザッキーを中心に繰り広げられる聞き込みヒアリングを建前とした宴会で村民達も立派な技術至上主義テックイズム信者にジョブチェンジする事だろう。


 混ぜるな危険ゴールデンコンビの事は取り敢えず置いといて、俺ちゃん達は分岐点に来ていた。

 俺ちゃん達の本拠地はドワーフ自治区御本尊の鉱山内部の秘密基地だが最初に造った大型炉はドワーフに明け渡してる。

 更にザッキー先生による技術指導アドバイスもあり諸々を纏めて技術顧問料という報酬が発生してるのだが、これが揉めた。

 ドワーフは自治区全ての予算プラス不足分を借入金として計上して、ややもすれば一族郎党隷属しようとしてきたのだ。

 別に報酬として金銭を徴収するのは構わないのだが、そーすると根が真面目なドワーフ連中の事だ、必死で金策に走るのは目に見えている。

 金策に走った結果、市場にドワーフ製品、しかも従来より遥かに高品質なものが溢れるのは想像に難くない。

 結果としてドワーフの技術ブーストの謎が記録として残り、耳目を集めてしまうのである。

 そーなると困るのは我々なのである、確固たる地盤を固める前に既存勢力に我々の持ちうる技術レベルは秘匿しておきたいのだ。

 其の為、掘り広げた御山内部の賃貸料をはじめ、宿泊費用、飲食代、ニシノマチドワーフ同郷団によるボディガード料等々、様々な項目をでっち上げて相殺という涙ぐましい努力をしてきたのである。

 それでも値千金の技術指導に対して対価が少な過ぎるといった逆突き上げの声もいよいよ無視できなくなっていた。

 いち早くドワーフ連中を宇宙開拓軍に取り込んで会計を1本化したのは無理も無い事だし、ある意味大金星だったのである。

 そーゆーわけで「独立採算制と成し得た成果の内容提出で義務は果たしている、諸君は今後、情報漏洩防止を念頭に置き、存分に我軍の輜重部隊生産本部として力を奮いたまえ」とゆー完璧な指揮の元、無駄な折衝をしなくて良くなったのだ。

 おまけに新規拠点を繋ぐ物流ラインも空輸の形でスムーズに連結し、新規拠点開拓用の資材作成をノルマとして科す事で余剰生産力の捌け口も出来たのである。

 

 しかし新たな問題も顕在化している。

 そもそもの生産における資材はダンジョンからの供給であり、現時点の稼ぎ頭は強化ゴーレム軍団であるのだが、コイツらも秘匿技術の塊であり運用にも細心の注意を要する。

 具体的にはドワーフ自治区周辺のメタル・インセクトによる完璧な監視網下で余人の耳目に触れない様に運用しているのだ。

 ニシノマチ周辺と比べて不人気とは言え訪れる者は皆無ではないのだ。

 本来ならニシノマチ周辺のダンジョンも軒並み荒らし…開拓したいのだが時期尚早と判断している。

 少なくとも周辺国の意思決定機関にまで諜報網が食い込むまでは判断材料に欠けると言うものだ。

 諜報網の拡大も急がれるが広げた分だけインセクトが等比級数的に必要になってくるのだから仕方が無い。

 まー、出来る事からコツコツと、とゆーワケでゴーレム軍団を投下出来ない様なダンジョンには俺ちゃんやパイセンが乗り出してたんだが、それだって限界があるのですよ。

 遺跡ダンジョンみたいな人知れずゴーレム軍団で荒稼ぎできる知られざるダンジョンなんて、そうそう無いですから。

 そんなワケで無い物は作れば良い、取ってくれば良い、なんて段階は過ぎてしまった我々は外貨が必要となってしまったのである、世知辛いね。

 最終的にスケープゴートにする商会を何個か立ち上げて少しずつ拡大して問題ないようなら統合してコングロマリットなシンジケートを形成、商人ギルドに食い込むなり取り込むなりと長期的展望気の長い話を計画してたんですよ、暁告社ヘンリーと愉快な仲間達もその一環だったんですけどね。

 

 ちなみにニシノマチは能動的情報収集・制御を暁告社に、貧民街の裏社会をカジュー組に1本化させて定例会議を隠れ蓑に領主と商人ギルドとのパイプを強化させた。

 “街を守る為”非公式にでも上から下まで風通し良く情報共有できる体制は、貴族制統治では先進的なものだろう。

 問題が発生しそうな案件は早期にリークして議題に登る様に陰ながら支援しているが、ここまでやって潰れる様なら時期を見て物理的に支配下に置く事になる。

 が、正直これ以上手をかけたくない、ニシノマチは色んな意味で安定して発展していて欲しいのだ。

 

 話を戻そう、外貨が必要なのである。

 金で買える物は買った方が早いし、金があれば手札も増えるのである。

 で、他人の米びつに手を突っ込む様な真似してくれた困ったちゃん…なんつったっけ?“こちらの何処からでも切れます”みたいなキレやすい若者を揶揄した感じのヤツ。

 そいつも含めた困った連中は、挙げ足取られて顔に泥塗られたってゆー貴族達に裁かれて小分けにされて色んなヤバい所に収監されるそーな。

 女に飢えて男に走る人達が幅を利かせてる刑務所みたいな場所が各地に点在してるんだとか…切れ痔には注意しろよー。

 あ!マッドカッターとかゆー名前だったわー。


 そんで、困った連中が違法奴隷を売りつけてた先が、どうやら西の帝国に蔓延る組織の様で。

 なんだ、あるじゃん、居抜きの商業組織が。


 我々の次のターゲットは帝国に在り、なのだ。 




 

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