第41話 反撃材料
元西々新聞編集長ヘンリーは、その昔インディアンと呼ばれた大陸先住民族の様な見た目をしていた。
彼の隠れ家に招待されたのは姉妹も含めて、ある程度信用されたって事かな?
「クライトン姉妹から話は聞いている。だがニシノマチでの活動は勧められない」元々口数が少ないのか端的に語ると口を噤む。
「それはこのギルドが幅を利かせてるからかい?」丸めてた西々新聞の号外を広げて示す。
「今はギルド名を“公平社”と改めたらしい、冒涜以外の何物でも無いネーミングだな。そいつらはヤクザより質が悪い、その号外だって下町の自警団を暴力団に仕立て上げたデッチ上げ記事だ」眉間に皺を寄せ、苦虫を噛み潰したように吐き捨てるヘンリー。
「商業ギルドと暴力団の黒い関係、貧民街に蔓延る夜の支配者達の終わりなき搾取…随分仰々しいタイトルだなw」
「バカバカしい、ワケアリの女が稼げる働き口なんざ限られてる。そのテの接客業は売り上げだけ見ればそれなりだが従業員の安全や就業中の子供の居場所、諸々手配すれば儲けは多くない、つまりマトモな営業してたらワイロが払えないから法整備もされないのさ、貴族相手の高級娼館とは話が違う。暴力?女給の帰り道に付き纏う酔客相手に腕っぷしがいいのを準備しないでどうする、ソイツらだって大体が手弁当だよ。治安が悪くなり過ぎりゃ景気も悪くなる、商業ギルドだって分かってる奴なら多少は身銭を切るさ…ここの領主だって其れを理解してるから取れる処から取って、手が届かない処は自助努力が認められれば締め付けずに放置してるのさ。ま、何世代も放置しとけば立派なヤクザ組織が出来上がるだろうがな」思いの外饒舌だった、と言うか相当溜まってるのだろう、親の仇の様に紙屑を睨みつけながら吐露する。
「先んじて公平社さんがヤクザ屋さんも兼業してるとか?」笑えない流行の先取りだな。
「言っただろう、ヤクザより質が悪い。相手の都合もプライバシーも考慮しない突撃取材、欲しいコメントが出るまで繰り返される質問なんざ拷問と同じだ。付き纏いくらいなら可愛い方で御近所で怪文書やビラ撒き、街宣座り込みデモ行進。本来弱者に許された数少ない表明方法を物の見事に一般市民の心を折る凶器に転用しやがった」ヘンリーの表情は更に暗くなる。
「なぁ“跳躍”って冊子知ってるか?」空気を変えるべく唐突な話を降ってみる。
「…確か公平社の社報だったと思うが…それが?」
「それがいつの間にか民間団体の会報誌に変わってるんだよね、内容は据え置き、お値段はそれなり。んでコチラが謎の民間団体の会則と収支の一覧、一言で言えばネズミ講だね、二部あるのは会報に載せる分と実態の分。んで差分の金の動きの帳簿がコッチで幹部連中のスキャンダル一式がこの束で下っ端連中の非合法活動が…とりあえずレジメだけでいいかな?ちと多過ぎてw」次々と書類を種類別に積み上げてくとヘンリーさんの顔色が
「コイツは…薄々やってはいるだろうとアタリは付けてたが…予想以上に腐ってやがる…しかしどうやってこんな細部まで…」次々と資料に目を通すヘンリー。流石に勘所が分かっていて理解が早いわw
「虫の知らせってヤツかな?まー、企業秘密ってヤツだ…あー、後は釣りだな」
「…釣り?」
「カジュー組の酒場訪問とクライトン姉妹との有名店でのお茶会、出待ちは控えてたみたいだけど興味津々な記者さん達が裏通り入ると突撃取材してくんのw」
「馬鹿な!まさか“
「入・れ・喰・いw」今日イチの
無謀な記者達は帰社できずに今頃はパイセンと地味子に簀巻きにされてる筈だ…地味子の方は後で別途料金請求してやろうか。
「弊社の新規情報発信部門の記念すべき創刊号の目玉記事は“人権団体を騙る犯罪組織の闇!暴力により市民の明日を摘み取る終わりなき搾取”って感じで企画しております。どうでしょう?やり甲斐は充分かと…」
「地下に潜らせてるスタッフも纏めて面倒を見て欲しい、気心のしれた即戦力だ」ヘンリーの瞳に宿る光は力強くなっている。
「どうぞどうぞ、現場のノウハウはサッパリなので人事権も纏めて丸投げさせて頂きますよw」
「うむ、助かる…改めて名乗らせてもらおう。ギルド“
「あ、えぇ、宜しくお願いします」力強い握手に少々戸惑いながら整理する。
“ヘン酋長”だったのか〜w
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