第40話 記者姉妹
「突然の事で驚いたのですよ。ねぇ?ヤカーマちゃん」
「そうなのですよ、地味なメイクとメガネで擬装したクールビューティがアポなし直撃訪問だったのですよ。ねぇ?カマビスちゃん」
目の前には間断無く喋り続ける女が二人。
何を隠そう西々新聞の元ツートップの自称敏腕記者、カマビス=クライトン嬢とヤカーマ=クライトン嬢のクライトン姉妹だ。
俺ちゃん達がカジュー組の酒場でカーシラと御商談してる間に地味子にコンタクトを取ってもらったのである。
「悪いね、時間取らせちゃって。ココは奢らせてもらうから遠慮なくやっちゃって」地味子チョイスの甘味からハードリカーまで手広いメニュー構成のチョイとオサレめな飯屋…カフェレストラン?そんな感じの店だ。まだ夕食には早いけどお茶するには丁度いーんじゃね?
「あら、気前のいいお兄さんですことよ?ヤカーマちゃん」
「ケーキの魅力は抗い難いけど甘い話には裏があるのよ?カマビスちゃん」
うん、大体わかった。このコ達は二人でワンセットだわ。
「確かに頼み事はあるけど、返事如何に関わらずココは持つから安心してよ。結構美味しいらしいよ?ここの店。まー、二人みたいな情報通ならとっくにご存知だとは思うけどね」
「既に十四回取材させて頂いてますわね?ヤカーマちゃん」
「十四回目の経費を請求したら十五回目からは自腹と言われましたわね?カマビスちゃん」
〈あー、地味子さんや、このコ達はホントに敏腕記者なの?喋り倒してるだけで相手の話とか聞き出して取材とか出来るんか?〉少し不安になり確認してみる。
『質問モードに入ったら怒涛の質問ラッシュが始まります、さながら質問の十字砲火です。こちらから話しかけ続けて下さい』やや早口の念話が返ってくる…オーケー、ルールは分かったぜ。
「まずはリクルートなんだけど、前みたいな記者の仕事をやってみたくない?」軽くジャブから入ろう。
「ユーモアの欠片も無い提灯記事や視野狭窄な思想カブれの意思表明や扇動記事なんかはコリゴリですわ、ねぇ?ヤカーマちゃん」
「そうですわ、ワタクシ達は情報媒体を通じたエンターテイナーですの。目を惹くキャッチーさと心を擽る遊びゴコロ、文字を通じて読者さんの一時に笑顔を運べればソレに勝るものはありませんわ。ねぇ?カマビスちゃん」
なるほど、それなりに美学を持ってやってたワケなのね、それなら話は早い。
「実は弊社で情報発信部門の発足を企画しておりましてね。何、流行の創造みたいな市場コントロールなんかは考えてなくてね。むしろ今何が流行っていてどんな需要が見込めるのか、つまりマーケティング的な情報収集が主なのさ。ついでに集めた情報をネタにした雑誌なんかで資金回収できれば、と考えていてね。そこにお二人のエンターテイメントで花添えて頂ければ部数も伸びるかな?とね。読みましたよ?怪奇馬男の記事、あれは中々面白かった」
「まぁ!お読みになられたのですね。お馬さんはネタとしては秀逸でしたから筆が進みましてよ、むしろ盛るトコロが無くて張り合いが無かったくらいでしたわ、ねぇ?ヤカーマちゃん」
「ホントにホントにホントにですわ、あんな珍妙な生き物が天然モノで存在するなんて世の中ホントにホントにホントにですわよね?カマビスちゃん」
「えぇ、アレは私達の持ちネタ“井戸端会議ダイエット”に匹敵する
「そうですわね、ワタクシ達の記事をネタに井戸端会議で盛り上がりカロリー消費も狙える一石二鳥のマッチポンプ!奥様の心と身体の健康を支えるのもワタクシ達の崇高なる使命ですわ!ねぇ?カマビスちゃん」
会話の節々に見逃さない方がいいのか微妙な不穏さを垣間見るがスルーしとこう、多分ソレらは地雷に違いない。
「前向きに御検討頂けると受け止めておきますね?改めて雇用条件と具体的な労働内容を纏めた書類を送付させて頂きます。で、一つ相談なんですが…実は優秀な編集者も探しておりましてね、出来るなら部門の責任者として貴女達の上司になれる様な方をご存知なら御紹介頂けないか、と」
「あら?あらあら?ワタクシ達に聞いたら一人しか名前が挙がりませんわよ?ねぇ?ヤカーマちゃん」
「そうですわね、むしろ推薦して快適な職場環境を整えて頂きたいくらいですわ、ねぇ?カマビスちゃん」
「お名前をお伺いしても?」
「以前の上司で西々新聞編集長でしたヘンリーですわ、ヘンリーがオススメですわ!ねぇ?ヤカーマちゃん」
「勿論ですわ!同じ場所で十四回も飲み食いして取材経費で落とさせてくれるチョロい編集長なんてヘンリーしかいませんわ!多分二月も開ければカウントリセットも見込めますもの!今度は頻度を見誤らないで
こうして俺ちゃん達は元西々新聞編集長ヘンリーとのツテを手にしたのであった。
些かの不安を残しながら。
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