第33話 横綱伝説


 そこには偉丈夫が佇んでいた。

 明らかに強靭な、そして計り知れぬ馬力を秘めた大樹のような脚。

 はち切れんばかりの体躯と巌を思わせる背中、そのかいなは振るわれたなら剛力とも万力とも称えられるであろう。

 無機質に映る眼は一度スイッチが入れば獲物を追い詰めるマシーンに変貌する危うさすら匂わせる。

 全身を覆うメタリックな装甲、そしてその頭頂部には見事な大銀杏。


「ライデン…サイボーグ力士ライデンじゃないか!?」


「知ってるのか?…って知ってるかwww」


「アダマンタイト・ゴーレムのドロップをベースに賢者アメイの研究成果を活かしました」


 サイボーグ力士ライデンはサイボーグ相撲の横綱である。

 そしてコイツは「ときめきバトルロワイヤル gotta 2」のラスボスである。

 どのキャラも永パ・ハメ・バグを搭載してる中で尚、文句なしの最強…否、最凶キャラの地位に君臨していた。

 

「12.7㍉速射砲ラピッド・ハンド・ガン」「メガ・ビーム・ポイ目からビームのようなもの」「相撲力炉直結式言霊砲セイ・ハロー・リキシ・キャノン」「不知火型力士天翔リキシ・スカイ・ハイ」「相撲力場バリアフォース・フィールド」「電磁加速式電車道レール・トレイン

 

 ざっと有名ドコロの技名を羅列してみたのだが、これだけでどの辺が最凶なのか御理解頂けると思う。

 え?技名じゃなくて装備名じゃないかだって?

 否、インストカードに書いてあったんだから間違いない。

 まー、正式名称なんてマニアの集う大会で司会者が必死に早口で実況する時にしか使われないけどなー。

 何にしろ名を聞くだけで、対応一つ間違えれば開幕で瞬殺K.O.されるのが誇張では無いと納得頂けるだろう。

「12.7㍉速射砲ラピッド・ハンド・ガン」とか掌が展開して現れる銃口から放たれるんだけど「鉄砲テッポウってそーゆー意味じゃないから!」と叫びながら退場するまでがワンセットの様式美である。

 ついでに言うとハンド・ガンもそーゆー意味ではない。

 

 だがしかし、これだけ殺意高い系の装備わざを備えていても、まだ本気じゃないんですよ。

 サイボーグ相撲の巡業は世界各国を渡り歩くのだが、例えば有名な“アフガン場所”では特別ルールとなる。


 そう、“航空相撲”である。


 己の相撲力炉リアクターを動力源とする大小併せて12箇所のスラスターを誇る飛行ユニットで大空舞うドッグファイトは風物詩として名高い。

 もちろん相撲なので数秒から数十秒で勝負が決まるのであるが時には一分を超える大相撲になる取組もある。

 そんな時は通常、水入りになるのだが三役の場合に限り、お互いの闘志が尽きるまで続行される事が稀にあった。

 歴史上数える程だが、尽きたエネルギーの代わりに命を燃やし大空を舞う力士は強くはかなく(注釈:マワシは締めてます)、そして美しかったと伝えられている。


 つまり各巡業先に合わせて特別兵装スペシャル・カスタムで臨むのが一般的なサイボーグ力士のスタイルなのである。

 けどな、稀代の大横綱ライデンは全環境対応オール・イン・ワンサイボーグなのである。

 即ち、陸・空・海いつでもどこでもナウ・オン・セールなのである。


 一説によると秘密裏に開催された、地下サイボーグ大相撲「月面場所」でも異種格闘技を迎えて尚、他者を寄せ付けなかったとも関係筋でまことしやかに囁かれてる。

 有識者によれば「地下なのか宇宙なのか曖昧過ぎて眉唾ものだ」と言われているが、横綱単独で大気圏突入して帰還したらしき形跡も観測されている…


 本場所ですら、まず解放されない色んな法則とか揺らぎかねない横綱の本気ガチなのだが通常は封印されている。

 封印されていて尚、特級危険物なのだがその片鱗だけでも再現出来ていたら、この上なく頼もしい味方となってくれるだろう。

 横綱カメラ・アイも静かに点滅し、強者の眼差しを向けてくる…え?起動してるの?


「(ゴクリ)…コイツ…動くぞ?」


「言いたかった奴いただきました~www」


「ハリボテ作っても仕方ないでしょう…現時点のスペックでは理論値で、そこら辺のボスとか単騎で落とせますよ、その後のメンテが大変だからやらせませんけど」


「いや、パイセンならダンボールにマジックでGから始まる名前書いた“着れるモビルなスーツ”のハリボテでも喝采するだろ。つか、ライデンにしたらマイルドな強さだなw」


「いや、流石にそれは見くびり過ぎだ。ダンボールは直方体に限る」やけにキリッとした表情でクレームをつけるパイセン。


「ライデンをボディガードにして更にメタル・インセクトを護衛に付けて漸く単独の外出許可がおりましたよ(苦笑)」


「マジか…過保護過ぎくね?w」


「確かにザッキー乙ったらゲームオーバー待った無しだからなwww」


「何とでも言って下さい、ちなみにM.O.M謹製のA.I.制御なので運転も楽々ですよ、ちょっと憧れてたんですよねぇ専用機ってヤツに」


 え?運転?と理解し難い単語を咀嚼していたら、ザッキーは徐ろにライデンの化粧デコレイテッドマワシの後方に回り背部から座席を引き出し座り込んだ。


 軽く前傾姿勢になったライデンに「ゴー!ライデン!」とザッキーがノリノリで合図すると踵部分のローラーが回転して割りかし静かに走り出す…

 やべぇ…是非とも超合金で、少なくともプラモデルで発売して欲しいわw




 そう、この日、文字通り“伝説が走り出した”のである。




 

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