第30話 パイセンの対戦
飛び込んで来たジャーヘッドが危険な角度で急所狙いの打撃を浴びせる。
「捌き方、知ってるね〜」
唇を歪め挑発する目つきで重たい連撃を矢継ぎ早に放つ。
虚実織り交ぜつつ、しかし遊びの無いそれは紛れもなく戦場格闘術である。
連撃の隙をつき手首を極め、投げるパイセン。
自ら飛び投げを殺し、手首を極め投げ返すジャーヘッド。
受け身で衝撃を逃がし距離を取るとニヤつくジャーヘッドが見下ろしながら口を開く。
「奇しくも同じ
無造作に見える踏み込みから大振りなパンチを放ちながら相手の足の甲を踏み抜こうとする奇襲から各急所を満遍なく、そして躊躇いなく狙うジャーヘッド。
捌き、躱し、隙を見てはカウンターを狙うが決定打が入れられないパイセン。
「ハッハー!ヌルイ!ヌルイぞ!」哄笑をあげながら攻め続けるジャーヘッド。
「差し詰め道場拳法と言ったところか?お勉強したって命に届かないぞ〜?んっん〜?HAHAHAHA〜!」煽りながらも呼吸を乱さず追い詰めてくる。
目突きの手首を捕り、フォローで飛び込んでくるフック気味の付きを躱し捕った腕を絡める、ここで相手の重心を掬い上げる様に投げれば古流で言う十字投げになるのだが濁流の様な踏み込みで頭突きをカマしてくる。
「トラッピングからの関節投げかい?お上品な技だな!ハッ!」大きく振り下ろしてくる顔面狙いの虎爪から巻き込む様な肘打ち、その腕で隠れた角度から逆手が金的の角度から鳩尾、喉へと軌道を変えながら襲いかかる。
まるで獣の様な攻撃だ。
一つ一つが致命傷、あるいは大きな損傷を狙う殺人術である。
不意に距離を取り極端な半身に構えるジャーヘッド。
「よくよく訓練してるみたいだが…訓練は訓練だ。奪った命を重ねなければ強くなれない、殺しを躊躇う技など戦場では只のお遊戯よ!貴様もオレの糧にしてやる!」
独特な貫手が幻惑を誘う動きでユラユラと揺れる。
体捌きもそれまでの強引な突破を狙うものではなく流れる様に距離を詰めて複数の撫でるような攻撃予測軌道を想起させる。
交差する刹那。
低い姿勢から、うねる波の如き変形貫手がコメカミを襲う!…否、ギリギリまで手の内に隠された暗器、親指に長い爪を生やした様な指輪が貫手の影から眼球に飛び込む。
離れた時には眼球は辛うじて躱したものの目元を深く抉られていた。
「よく躱したね〜?大した反射神経だ。だが読みが甘けりゃ宝の持ち腐れだぜ?」ジャーヘッドは暗器を仕込んだ逆の手でナイフを弄びながらパイセンのダメージを見積もる。
視線の先には深く切り裂かれた太腿、本来なら貫手と逆の手の内に隠したナイフで内腿の血管を切り裂く筈であったが、何時の間にか抜かれてたナイフで軌道を逸らされた。
「次、行くぜ〜?テメェは嬲り殺してやんよ」暗にジリ貧である事を認識させて起死回生の大技を誘う、ここまで来れば経験上勝利は揺るがない、後は丁寧に詰めて行けば良い。
案の定、強い踏み込みで突っ込んできやがった!…が大きくナイフを振るうが身体が追いついてない?脚が見た目以上の深手か?
相手のダメージを再評価する為に間合いを外すと、獲物は大きく体勢を崩す。
チキショウ!死に体かよ、さっさと殺してやる!
勝利を確信し、踏み出しかけた脚が大きく引かれ、重心が流されたまま相手の間合いに引き込まれる。
刹那、天地が逆転し意識が飛ぶ…否、口内を強く噛み意識は繋ぐ、が、しかし強く叩きつけられ?恐らく地面に?ダメだ、視界が揺れる?揺れてる?俺が?ナゼ?何が?ホワイ?ハハッ!ほら獲物が倒れてるじゃないか!俺が仕留めたんだよ!見てみろ!獲物がおれを見下ろして…?
「しばらく立てない、そういう落とし方をした」
パイセンは冷たく言い放つと手際よくジャーヘッドを武装解除して拘束する。
通常の投げの間合いの外から対象を吸い込み投げる、通称“真空投げ”は他のゲームでも割と良く見かける類のバグであった。
パイソンズ・ストーリーでは開発当初より見つけられ、いくらデバッグしても解決しなかったバグであった。
修正すればする程に挙動は怪しくなり遂にはキャラクター周辺のマップデータにも干渉し、白いワイヤーフレームがチラつく始末であった。
が、後に制作に合流した監督により「パイセンは時系列的に次の作品からワイヤーアンカーを内蔵したスニーキングスーツでビルから脱出するんだ。勿論そのギミックは他にも魅せ場は作るんだけどさ、今作品はプロトタイプスーツと言うことでワイヤーアンカーで敵を引き寄せてるって設定にしちゃえば、どう?」の一声で解決してしまった。
監督自身によるパイセン呼ばわりはともかく、特定の操作で真空投げが出来る仕様となり、チラついてたワイヤーフレームも演出として見直され、その方向で洗練された。
発売後は、その絶妙な操作感と攻略の幅を広げるアクションは広く受け入れられ、次回作に予定されてる、よりアグレッシブなワイヤーワーク関連のアクションに期待が高まった。
「よく意識が保ったな、大したタフネスだ。だが読みが甘い、宝の持ち腐れだ」
拘束したジャーヘッドに上から目線で言い放つパイセン。
言葉の死体蹴り、ナイスでーす。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます