第29話 バグと言う名の仕様


 ショートが俺ちゃんに滑る様に襲いかかる。


「いきなりクライマックスだね〜w」リフレクターでショートを弾き返す俺ちゃん。


「おや?近接戦は苦手ですか?」弾かれながらもダメージ自体は攻撃と相殺したと見えるショートが構えをとる。


「やれない事も無いけどソコが俺の距離さ」脱力し、レバーニュートラル状態になる俺ちゃん。


「偶然ですね、私もなんです」構えたショートの周辺に浮遊する無数の光る矢が展開され、次の瞬間降り注いでくる。

 奇しくも同じ好戦距離フェイバリットレンジ…カカッとバックステッポで後ずさると矢の雨を振り撒きながら距離を詰めてくるショート。

 手数が違いすぎる!?ひたすらステップで避け続ける俺ちゃんの退路を読み始めたのか横から上から回り込んで飛んでくる矢が混ざり始める!


「チェックメイトです!」感情の乗らない声が終焉を宣言し、壁際に追い詰めた獲物へ容赦の無い飽和攻撃を下す…崩れる壁の粉塵に紛れ、破れかぶれだろう反撃が見当外れの方向に飛んでいくのを横目に眺め、弾幕を厚くして確実なトドメとする。

 ついでとばかりに展開した残りの弾幕をもう一つの獲物に放とうとしたその時、初撃を阻んだ円盤状の障壁が死角から襲い来る。

 咄嗟に弾幕を向けて対処…矢が反射してくる?残りの弾幕で相殺…仕切れない!

 被弾しながら弾き飛ばされ、初手は連撃が薄かった為相殺出来たと分析する。

 仕切り直しだ、体勢を立て直したら牽制攻撃から入り反撃手段を一つずつ潰して圧殺してくれよう、彼我の手数の差は歴然なのだから…

 次の攻撃プランを練りつつ、着地すると同時に足元からの連続する衝撃波が身体を浮かし光の珠が身体を包む。



 ――――サエキボール・スフィア――――



 球形に身体を包んだ空間の内部に間断の無い衝撃波が走る、だがこれなら耐えられる…破れかぶれと思われた反撃は地雷の様なもので、そこにまんまと弾き飛ばされて罠に囚われたのだ。

 どうと言うこともない、今の攻撃さえ凌ぎきれば体勢を立て直し、すり潰してくれる。


 多分そんな風に考えているんだろうな…戦力は向こうが上なのは確定的に明らかだ…けれど、けれどね。


 超必殺技“サエキボール・スフィア”


 光珠の檻は多段ヒットの結界だ、それにコイツは重ね掛けが出来るんだよ。

 重ねられた二重のスフィアに初めて目を見開くショート。

 しかしまだだ、まだまだ続きがあるんだよ、二重のスフィアダブル・スフィアは単純に超必殺技二回分のダメージなんだけど、そこに吹き飛ばし属性のあるリフレクターをぶち込むとヒット数が倍以上に跳ね上がるんだよ。

 タイミングはシビアだけどトレモで超練習したやりこみは裏切らないからな。

 喰らった方は永遠とも思える数秒だろうがまだまだ終わらない。

 

 Q:格ゲーでヒット数が跳ね上がるとどーなるでしょーか?

 A:超必殺技ゲージが貯まります、スフィアマルチヒットバグの場合はモリモリ貯まります、更に重ねると瞬間でゲージ三本貯まります。


 説明しよう!本来サエキボール・スフィアは球状の結界を射出し相手を拘束、内部に乱反射する衝撃波を発生させて多段ヒットする超必殺技である。

 拘束時間、即ち被弾側が動けず攻撃側が動ける時間が発生する為ダメージは総合的に少なめにデザインされていたが、その分ゲージさえあれば重ね掛けしてダメージを稼げる仕様になっていた。

 稀に落下中や吹き飛び中などの対象の座標が安定しないと変な当たり方をして衝撃波がエグい角度で反射して異常にヒット数が増えるバグがあった。

 再現性が低くスルーされていたのだが、被弾側の存在軸を意図的に動かせる必殺技が存在した。

 そう、サエキ・リフレクターである。

 単発のスフィアにリフレクターを一定のタイミングで重ねると、通常の二倍程度のヒット数が発生する事が判明したのである。

 だがヒット数を稼いでも連続ヒットのダメージは減衰していくのは格ゲーあるあるの仕様であり総ダメージの伸びもギリぶっ壊れと言う程でもない、ゲージ回収も一本弱程度貯められる程度、そういった仕様バグであった。

 俗に言うスフィアマルチヒットバグと言う名の仕様である。


 ん?ちょっと待てよ?…そうなのだ、勘の良い方はお気づきであろう。

 サエキ・スフィアは重ね掛け出来る超必殺技なのだ、そこにマルチヒットバグが発生すると…お察しの通りである。


 おわかり頂けただろうか?永久パターン・ハメ技連携の完成である。


「おかわり頂いてますか〜?こちとら“ボクの考えた最強のキャラ”とか“理不尽CPU”とか“全画面攻撃”とかに散々揉まれてるんだよ!」次々とスフィア継ぎ足し、追いリフレクターで隠してない隠し味を潤沢なオリーブオイルの如く注ぎ込むとダメージは更に加速した。

 追撃の手を緩めずに煽りNDKを入れるのは古の格闘ゲーマーの嗜みである。


 相手の体力ゲージがドットも残さず霧散するのを確認して勝利のポーズを決める。



 

『YOU WIN!!』


 久々のC.O.Mちゃんである。




 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る