第23話 ダーク・ホース


「普通さ?都市周辺の砦とか落としたら芋づる式に実行犯と癒着してる貴族とかとの戦いで3話くらい引っ張れるモンじゃないのかい?」


「それなwww」


 そう、俺達が半壊させた砦ってのはネトゲ時代のGvGで取り合いしてた拠点なんだ。

 設定的には大貴族、ここでゆーニシノマチを治めてる侯爵監督の下に模擬戦としてGvGを行い実力を示す事でゲットした砦周辺の治安維持を任せられるって話だったんよね。

 まー、ギルド砦にプレイヤーが屯せば自然と周辺のモンスターなんかは普通に狩るもんなー。

 つまりは外注とは言え国防の担い手と施設を破壊しちゃった俺ちゃん達は少々立場がマズくてデンジャーな筈だった…筈だったんですよ。

 俺ちゃん達はさー、若造君の仲間達とか追加で拐われたら面倒くさいなーってだけでドワーフ衆に彼等の保護をお願いしたんだけどさー。

 お客人の保護依頼って事で保護対象からの聞き取りから誘拐の事実確認とか目撃者の確保、衛兵隊への事件の時系列確認とかぜ〜んぶ抜かりなくやってくれてさ。

 しかもドワーフコミュニティとかお約束の如く街の経済活動を支える一柱なのでおいそれと無視出来ない。

 トドメが少人数で砦を落とせる武力を持ってる集団である事、しかも単純な力押しじゃなくて隠密活動による破壊工作でしたって事も少〜し調べれば分かっちゃう系なんだよねー。

 要は筋が通ってて後ろ盾もあって説得力武力もあるもんだから軽い注意あんまやりすぎないでねで済んでしまったのですよ。

 まー、名ばかりとは言え治安維持任せられてた立場なのに犯罪行為をしちゃいましたってのはテヘペロでは済まない案件なので、やらかしたギルドの系列は勿論、他のトップギルドとか其の辺の担当してる貴族のお偉いさんとかは少々てんやわんやらしいけどな。


おっさんブルースも呼び出されて忙しいらしいねー、礼したいから待っててくれって言われても暇だよなー…そうだ!盗賊狩りしよう!」


「京都行こう!みたいなノリやめぃwwwそれに行く前から無駄足ピクニックになるの目に見えてるじゃんwww」


「ですよねー」


「(苦草)」


 人気の少ないバーの片隅でクダを巻く俺ちゃん達、パイセンなんかは葉巻型ヴェイパーを燻らしてる。


「葉巻ってソレなん?」


「あぁ、健康を害しないってヤツな、それに本物は匂いが付くからスニーキングミッションには向かないからな…ジャングルの蛇除けに使えるくらいか?www」


「ん?そしたらおっさんブルースに火貸せなかったじゃんw」


「サエキさんだって吸わねーのに「今は切らしてる」とか雰囲気でソレっぽい事言ってたじゃねーかwwwそもそも超能力で火とか点けられないんか?www」


「あー、パイロキネシスね…俺はソレ使えないんよ。なんかテレポとかテレキネシスとか空間系全振り?みたいな?」


「まー、格ゲーで炎使いとかキャラ被りが激しいんかwww」


 俺ちゃんだって指先に炎ともして「燃え太郎?ボクの名前はモエタロウ?」とかやってみたかったよん。

 そんなアンニュイな空気に浸っていた時に空気を読まずにアイツがやって来たんだ…

 西部劇によくあるスイングドアをゆっくり開き、入るシルエットはレスラー体系マッチョマン、目深に被ったテンガロンハット、ご丁寧に足元のブーツには拍車付きだ。

 カウンターに腰掛けバーボンをショットで注文してコインを転がす。

 グラスを前にテンガロンハットを脱ぐとそこには馬の被り物…そう、ヤツこそは


「「マスク=ド=馬之介うまのすけ!!」」


 声を合わせる俺ちゃん達にチラリと視線を送ると多分ニヒルな笑顔(見えないけれど)で軽くグラスを掲げる。

 マスク=ド=馬之介、通称「マスケ」とか「ウマ」とかの愛称で呼ばれるプロレスラーである。

 ファンタジーアクションRPG「ファンタジック・ファンタジー〜伝説のレジェンド〜」に登場し、剣と魔法の世界でプロレス技のみで闘い続ける孤高の戦士なのである。

 グラス片手にフラリと俺ちゃん達のテーブルに近づくと「御一緒してもいいかい?スパイ&エスパー」無駄にいい声だ。

 ちなみに事件以降は目立ち過ぎてあんまり意味無くなったから村人コスはしていない。

 面白そーだし席を勧めて話を聞くと南の方から流れてきたらしい。


「南はよぅ、コンバート勢が個性を伸ばしてブイブイ言わせてんのよ。それでも俺ほどウマい事言えるヤツはいなかったけどな!なんてったってウマい上にヒンがある!ヒヒ〜ンてな!何かあれば頼ってくれても構わないぜ?ぁ貸せる力はどんなに頑張っても、一馬力だけどな!ホースの力、感じるかい?そんな感じで一端の有名人だったもんで偽名でも名乗ろうと思ったんだけど“キャプテン尾栗”ってなのはどうよ?“ブライアン業田なりた”はNGだったんだがよ!あ、馬と人との境見たい?タテガミとムナゲが融合した感じなんだけどな!」


 ウゼェw

 取り敢えず安酒をしこたま飲ませて潰したら他人のフリである。


「パイセン…」


「サエキさん…」


「「今日は誰とも出会いのない暇な一日だったな♪いやー、平和って何よりだな」」


 これよりしばらく、謎のマイクパフォーマンスしながら狩り場で暴走する暴れ馬の情報を耳にする事になるが「へー、流石異世界だね。ツチノコみたいな生き物もいるんだねー」と一頻り感心するのみであった。

 

 


 

 

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