第21話 メタモルフォーゼ


 夫々が遮へい物の陰に退避するとハンター357で赤いドラム缶を撃ち抜く…

「赤いドラム缶はシャレにならない爆発物」なのは万国共通の常識的なコモンセンスだ。

 ふと思い立ち岩の陰から飛び出し、迫りくる爆風に向かいサエキリフレクターを張る。

 サエキリフレクター…出の早い円盤状の人間大の障壁を作り出し飛び道具を跳ね返す必殺技で直当てすると吹き飛ばし攻撃になる、弾の差し合いの変化にコンボパーツに間合い調整にと使い勝手のよい技である。


「うっはwwwいきなりハメ技で作業モード入ったと思ったらトドメの爆風跳ね返して往復ビンタさせるとかwww死体蹴りキョーレツwww」


「赤ドラム缶置いたの俺だけど控えめに言ってヒくわ…」


 ノリノリで十字砲火してた連中の台詞とは思えない酷い言い掛かりだ。

 ジト目で返してやると二人揃って鳴らない口笛吹いて明後日の方向に視線を逸らす、こいつら何時の間に意外と仲良しさん!?


「ダウン追い打ちなんて基本中の基本だぜ?本気を出した俺の七色の死体蹴りはまだまだこんなもんぢゃねーぞ?w」


 信じらんないものを見るよーな目つきの二人は放っといてドロップを回収してると、じんわりと部屋の奥にあった魔法陣が光り出す。

 異世界あるあるのボス部屋から地上直通転移魔法陣はゲーム時代から変わらない。

 地上に戻ると、おっさんの仲間が待ち構えていた…あー、なんか若造君が泣きながら詫び入れてるよ。

 さしずめ、異世界来たけど憧れてた強いギルマスがトチ狂ったキャラになっちゃってるから自分が少しでも背伸びして強くなってとか思って空回りしちゃった風味なんかねー。

 だがしかし若造君よ、キミの憧れた背中は相変わらず高い壁の様だぞ?w


「なぁ、草の」


「どうした?藁のwww」


「ちょっと見てくれ」


「おけwww」


 徐ろにカッコイイポーズを取ると影が全身を包み、仮想器官“厨二erチューナー”の発光により左眼が紅く輝く。

 影が掻き消えると、そこには村人Aな俺ちゃん。

 そう、厳選に厳選を重ねたロッカールーム機能のお着替えエフェクトのお披露目である。

「ヤベーwwwナニソレwww」大興奮のパイセンにドヤ顔ご満悦のご尊顔下賜である。

 するとパイセンの指先から全身にパチパチとアーク放電の様な光が包んで稲光る!ナニソレ!カッコイイ!

 光が消えるとご満悦フェイスの村人Bがそこに…ぐぬぬぬぬ、パイセン!侮れないコ!




 ――――――――



 

「そんでな?昔近所に「エジプト屋」って店があったのよ、そんな名前なのに普通の飯屋でエジプト料理とか欠片も関係ないのw」


「またなんかエッジの効いた名前だなwww」


「じゃあ何料理屋なんだ?」


 エイプ・ハントを華麗に熟した数日後、ニシノマチのとある酒場で何故かおっさんを交えて飲んでる俺ちゃん達、若ドワ衆は近くのテーブルを占拠しながら此方を窺ってる。


「強いて言えば洋食屋?けど和食系の定食もあったなー、んでエビフライとか結構身が大振りな割に味も良くて良心的な店だったなー」


「いいねぇ…大振りなエビは身がパサパサでガッカリって話も良く聞くからなwww」


「エビなんてシュリンプカクテルの小さいのしか食った事ないぞ」


「そんでさ、ある日大将に聞いたのよ「なんでエジプト屋なの?」ってさ、そしたら最初は仕入れが強みで旨いエビが太い店“エビ太い屋”だったんだけど近所の大学の学生連中が“エジプト屋”とか言い出したら他の常連連中まで伝染したらしくてさ?んで開き直って店名変えたんだとよw」


「ナニソレwww」


「言われてみれば確かに学生さん的なネーミングセンスだな…」


 大将的には「エビ、太いや」と屋号の「屋」を掛けた渾身の名付けだったらしいんだがw

 そんな馬鹿話に花を咲かせてると、フワリと良いニホヒが…


「あら〜?私とのデートを袖にして男の付き合い?」おっさんの首元に後ろから腕を絡めるブロンド美女が突如乱入。

 俺の“厨二erチューナー”が囁く…アレは「ボンッキュッボン」だと。

 そう、彼女こそホリー・ホリデイ警部、ニトログリセリン刑事の2Pキャラである。

 偶々同じゲームの1Pと2Pのキャラでコンバートした?そんな偶然が起きる確率は、学生時代付き合ってた彼女が十年後再開したら信じられないくらい綺麗になってて且つフリーで少し学生時代の彼氏に未練が残ってるなんて状況の発生率と同じ位なのだ。

 つまり、おっさんとブロンドの関係は推して知るべしなのである。

 空気を読んだブロンドがおっさんに「今度のシュリンプカクテルは貴方の奢りね?」と空気を読まずに手を振って去っていった。

 一拍置いて軽く口笛を吹き、敢えて関係を聞かずにスルーする俺達に必死に言い訳するおっさんの戯言なんぞ聞き流して話を続ける。

 どうも俺達はプレイヤー勢に密かに注目されていたらしい。

 ゲームだった世界がリアルになって紆余曲折、牽制や思い入れ等などが相まって余所者が悪目立ちする様になったニシノマチ。

 そこにどー見ても雑魚い村人っぽい格好した新参者がドワーフに敬われながら毎晩飲み歩いてる。

 そんな中、落ちぶれた(と思われてた)おっさんと中級ダンジョンを、たった3人で踏破したなんて噂がたったもんで俄に注目度急上昇中らすぃ。

 んで、おっさんは変なのに絡まれるかも知れないから気をつけろと忠告しに今夜現れたそーな。



 

 ちなみに既存キャラのプレイヤー達は村人コスなんかしないらしい、ユーモア欠乏症なんかな?w

 

 

 

 

 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る