第6話 哀詩


 思考もニュートラルだと発想も自在だなと自己評価を高めている隙に二人は順次南門の内側に怪我人を引きずり込んでいく。

 しまった、止血には洗ってない靴下がいいぞ?と生活の知恵を披露するのを忘れていたぜと苦み走るイイヲトコ臭を匂わせるニヒルな表情で仁王立ち。

 

 怪我人回収は終わった?おけ。ここまで撃たれなかったんだから大丈夫なのかなー?と俺ちゃんも華麗に撤収しようかと後ずさると、少し離れた繁みに隠れる様に倒れてる人影が…何か鶏冠みたいな兜と派手なマントを被ってらっしゃる。隊長クラスの人かな?

 想定しうる射線から外れてるし俺ちゃんが回収しようかな?背負えばバリア圏内になるっしょ、隊長さ〜ん体調はどう?生きてるぅ?勘違い貴族ムーブかましたら投げ捨てるからね〜♪と。

 ペロリとめくったマントの下から、こちらに向いた銃口さんがコンニチワ?

 

 やべっ、俺、死んだ?バリア間に合わねーわー。


 色んな成分を含んだ脳汁が分泌されたせいか、やけにスローモーションで左眼に飛び込んでくる銃弾。

 もう少し目を凝らしたら弾丸の回転まで視認できそう、とか思考が先走る傍ら「左眼の奥には厨二的電波受信器“厨二erチューナー”があるんだから撃っちゃらめぇえ!」と自己防衛本能が警鐘をガンガン鳴らす。

 長くて短い走馬灯が駆け抜ける中に割り込んできた銃弾を透明な壁が受け止める。



 

 ───刹那───



 

 透明な壁に走る白いグリッドが赤く変色し、そして壁が砕ける。

 あー、コレってオートガードからのガードクラッシュってヤツだわー。とか頭の隅で感心しつつ、身体ごと首を捻り妙に乾いた音がパリンと響くのを聴きながら後ろに跳ぶ。


 知覚できる時間の流れが急速に戻るのを感じつつ後転しながら視界を確保。

 すかさず反撃と踏み込んだ時には、ニャロー脱兎の如く逃げ出してやがるわ、流石にテレポでも追いつけんわ。

 俺ちゃんのサエキテレポートは格ゲーベースだから最大でも一発10メートルも跳ばないんじゃないかな?

 伏兵に気を配りながら南門まで帰還、心配そうな二人に軽く状況説明してると視界の左半分が紅く染まる。

 どうやらガークラした弾丸が掠って左眉辺りの額から流血してる様だ。ヤベー、顔のキズとか超疼くわー。




 ――――――――




 その技、放つは不動の如し。

 その技、気配は霞の如し。

 その技、色無く影も残さず。

 その技、音無くされど髄に染む。

 その技、風下に立つは虎口の如し。


 目にも映さず加齢に舞い散れ。

 いざ、忍法“臭う立ち”



「どう?少年誌の忍者漫画持ち込んで編集さんにウケないかな?」

 

「つか死にかけながら何受信してたん?ダブダブダブ」

 

「普通に封印案件ですねぇ」


 えー、只今南門の地下牢で御座います。

 各自個室対応の軟禁サービスを受けております、寝床は地ベタだしトイレも腰までの高さの衝立で目隠しされた謎の穴開き椅子を紹介されただけだけどな!

 何でもプレイヤーの中でもコンバート勢は信用ならないとゆー意見が台頭しましてね、まーあんな感じで襲われりゃーそーなりますわなー。

 ジョバンニ氏は最後まで喰い下がってくれましたけどね、貴族系の隊長さんが元気にブチ切れちゃってねー。


 あ、隊長さんは乱射ヤロウにお気に入りの鶏冠とマント剥かれてスッ転がされてたそーな。

 この隊長さんお城からのお迎えで来てたんだけど、発砲音に誘われたジョバンニ氏と合流してそのまま門外で撃たれたらしいのよ、んでもって異世界あるあるの城務め気位高い系の高慢貴族属らしいっす、無駄に元気なのは謎品質ポーションで偉い人から原状復帰なのだそーです。

 俺ちゃんにも分けてくれて、おかげ様でニューチャーミングポイントの天下御免の向こう傷も綺麗サッパリだけどな!


「はーい、第二回俺達の会議しま〜す」

 

「もっと会議のタイトルにプライドとかコダワリ持てよ、二回目で限りなく省略すんなよ、草」

 

「そんなパイセンは草にコダワリ持ち過ぎじゃないですか?…いや、今私の灰色の脳細胞が囁きました、草と臭を掛けましたね!」

 

「エアメガネクイッ決めんなし、リアルメガネフェチ舐めんなよ?コラ」

 

「そこなの?マジ草」

 

「個人的には自分を褒めてあげたい加齢なクオリティなんですが…取り敢えず置いといて会議進めますか」


「(置いといてと老いといてを加齢に掛けたのはツッコまないからな!)まー、ここで大人しくするかしないかってのがあるけど、どっちにしろ自分の能力を把握しといた方がいーよな?俺もまだ超必殺技試してないし…」

 

「装備はスニーキングスーツに仕込んであるワイヤーアンカーくらいか?後はCQCジュードーくらいしか出来ないぞ?そしてハラヘッタ」

 

「初期装備のスペオペスーツは極地生存特化なので特には…あー、スペクトル分析とか出来ますねぇ。後は多少の耐衝撃耐刃耐摩耗ですかね?あ、それとしばらくしゃがんでると光学迷彩出来ます、動けないですけど」

 

「そっかー、超必はここで試すのはリスキーだし、頑張れば檻くらいは破壊出来そうだけど3つ壊す前に音とかでバレるわなー」

 

「2つ目壊すのが俺のトコならそこから衛兵は受け持つぜ?ま、出口が地上だから先が厳しいな」

 

「普通、転生ならもっとこう…チートで楽勝したいんですけどねぇ」


 

「(テロン!)個別UIが実装されました」


 

 その時、煮詰まった変態共の脳内に救いのご都合主義的アナウンスが流れた。


 

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