完璧で幸福に至るまでの住処
長月瓦礫
完璧で幸福に至るまでの住処
ホームズは完璧で幸福なセカンドライフを送るために、かつて家族と暮らした家を賃貸に出すことにした。妻に先立たれ、天涯孤独となった身の上だ。
心残りがあるとするなら、長年過ごしたこの家である。
最初はこの家を売り払おうとも思ったが、姿かたちがなくなると思うと寂しくなるものだ。そういった経緯もあり、彼は自宅を貸すことにしたのである。
その後の彼の行動は早かった。
住処は大事だ。今後の人生を左右すると言っても過言ではない。
住めば都というが、居心地の良さは大切だ。
毎日を気持ちよく過ごしてもらいたい。
ホームズはまず、害虫を一匹残らず駆除した。
羽虫一匹逃がさないよう徹底的に掃除した。
使わなくなった家具や古くなった家電も処分した。
生活において必要最低限の物のみを手元に残した。
するとどうだろう、心も体も軽くなったではないか。
次に来るであろう誰かのために、彼は心を込めて掃除をした。
次はしみがついた壁紙や毛羽だったカーペットが目についた。
これも古臭いし、とにもかくにも不潔で非常に気持ちが悪い。
これらもすべて取り払い、今風のおしゃれなものに取り換えた。
新しく家が生まれ変わっていく。それだけで胸が躍る。
屋根や壁の隙間も残らず埋め、掃除を徹底的にした。
丁寧に丁寧に家を片付け、ついに家は完璧になった。
そのとき、彼はようやく眠りについた。
「こちらですね、最寄りの駅から競歩で5分。
南向きなので日当たりもバッチリ、ご近所さんも静かで変な輩が通ることもめったにありません。自転車やお車を置くスペースもございますし、いかがでしょう?」
数年後、若い夫婦が生まれ変わった自宅の内見に来た。
結婚して間もないのか、どこか初々しい。
「確かに職場からも近いし、雰囲気も悪くないですね」
「商店街も後で行ってみようよ」
不動産屋の営業マンもにっこりと笑顔を見せている。
あともう一押しといったところだろうか。
ホームズは微笑みながら窓から眺めていた。
完璧で幸福に至るまでの住処 長月瓦礫 @debrisbottle00
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