第4話 冒険者ギルド
「エマ様、そちらにお掛けください。」
リンに連れられ冒険者ギルドの奥の部屋に通された。
「ワッ!」
「どうかしましたか?」
「いや、足首についていたのが移動してきたから驚いただけ。特に気にしないでいいよ。」
少年は先程まで足首を掴んでいたが、スルスルと上るように手が上がってきて私の腰回りに腕を回すようにしてつかまってきた。絶対に片手は私の服を掴んでいたので逃げることもできなかったし。
「私はこれを取ってもらったら帰ろうと思っているんだけれど。」
私は腰に両手を回して引っ付いている少年を指差しながら言った。
「はずしはしますが、置いていかれると困るのでマスターが来るまでそのままでお待ちください。」
リンはそう言うと部屋を出ていった。
「ねえ、離れない?」
私は少年の頭に触れながら聞いてみた。
しかし、首を横に振って拒否された。
「そっか。別にあなたの両親の遺品類は全て返すよ。何ならしばらく生活できるぐらいの支援はしてあげるよ。だから、離れない?」
私は離れてほしいという思いを込めて言ってみたが、少年はさらに力強く私のことを抱き締めるだけで決して離れようとはしなかった。
仕方がない、諦めよう。どうせすぐにはずしてもらえるだろうしね。
コンコン
「はい!」
「リンです。マスターを連れてきました。」
「どうぞ!」
声を掛けるとリンと一緒に大男が入ってきた。
「エマ様、お久しぶりですね。トニーです。」
男は私に対して深々と頭を下げて、言ってきた。
「久しぶりだね。」
私は右手を挙げて会釈をした。
「さて、本日はそちらの子供をなんとかするというのがエマ様の願いということでよろしいでしょうか?」
トニーは私の前に座ると私をしっかりと抱き締めて離そうとしない少年を指差しながら聞いてきた。
「うん。そうだよ。これを私から外して引き取ってほしいんだ。」
私は少年を指差しながら言った。すると、少年はさらに力強く私のことを抱き締めた。
「この子が自立するまでのお金は私のギルド口座から引き落としておいてくれていいからさ。」
「エマ様、その少年を外すのはできるでしょうが、引き取ることはできません。」
トニーはキッパリと言い切った。
「なんで?絶対に私が連れてるよりも良いと思うんだけれど。あなただって私の目的は知っているでしょ?」
私はトニーの目を見ながら聞き返した。
「ええ、知っています。ですから、引き取れないのです。」
「なんで?」
「そうですね。昔、あなたが言ってくれたではないですか。」
トニーは遠い目をしながら答えた。
「何を?」
確かに私がトニーに会うのは初めてではない。2回目のはずだ。ただ、前会ったのはまだ彼がやんちゃ坊主だった時だ。その時に何か言ったっけ?などと私が考えているとトニーが再び口を開いた。
「私が、何故助けてくれたのかという問いに対して、あなたは人を助ければ、いずれ困ったときに私を助けてくれるようになると遠い昔言われたから。私は困っているからあなたが私の困り事を解決できるようになったら今回のお礼に助けて。と言いました。」
トニーは笑顔で言ってきた。
「言ったっけ?」
「言いましたよ。」
覚えていなかったので聞いてみたが強い口調で言ってきた。これは言っていなかったとしても言ったことになるやつだ。
「ですが、今の私ではあなたを助けることはできません。なので、その少年を育ててください。」
トニーは身を乗り出して、真剣な顔で私を見つめてきた。
「なんで、そこから育てることにつながるの?」
私は色々と聞きたいことがあったがとりあえず一番聞きたかったことを聞いてみた。
「それは……育ててもらうということは非常に恩を感じることですし、あなたが育てれば世界一強い武人にも世界一の大魔法使いにもなれる可能性が高まるということで…なので、その、育ててください。」
トニーはしばらく考え込んでから、言い訳をする子供のような口ぶりで言ってきた。
「えっと…いやだ!」
「そう言わずに!」
「無理!」
「無理なんかではありません!」
「無理!」
私とトニーは最初は小さな声で言っていたが、ついには非常に大きな声で言い合いになった。
「2人とも落ち着いてください!」
そして、リンの怒鳴り声で言い合いは終了した。
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