第15話:さらば夢幻島

瑞穂と刹那は驚いていた。海人が強くなったのは気づいていたがここまで圧倒的な実力で健太を倒すとは思っていなかったからだ。


「・・・最後の技。私は知らないけど海人のオリジナル技かな。そもそも術が使えなかったはずだけど」

「おそらくあの桐生という者が師事したのでしょう。氣をコントロールできたのなら術を使えるようになっていてもおかしくはありません。それより先に健太の治療を!死んでは大問題になります」

「・・・もう問題になってる気がするけどね。あんた達!健太を船に運んで治療を!」


様子を伺っていた健太の取り巻き達がその言葉を聞いて動きだし、健太を小舟に乗せて先に船へ戻っていった。健太は完全に意識を失っており急がねば命も危ういだろう。


「海人。やりすぎです。おそらく今後問題になりますよ」

「望むところだ。俺はもう一族の連中に媚びるつもりはない。また来るなら叩き潰すまで」


海人はニヤリと笑いながらそう語ってきた。島に来る前の空虚な顔はもうそこにはなかった。この島で力で得たことで自信を得たのか。まるで別人のような空気をまとっていた。


「あんたいくら強くなったからって、問題を起こしたら焔木一族に戻れないわよ」

「それならそれでいい。もう俺は一族のことなんて興味がないのだからな。瑞穂の護衛の件は受けてやるがそれはあくまで俺の力を見せつけるためだ」

「海人・・・」


瑞穂は悲しい眼をしていた。判っていたことではあるが海人はとっくに焔木一族を見限っている。これからの生活で少しでも凍り付いた心を溶かせていけば・・・。


「ゼロと桐生も護衛に加えてもらうぞ。俺の仲間だ」

「それは・・・いえ、何とかします。当主には私から話してみます」

「だそうだゼロ、桐生。お前たちも護衛入りだ」


「そりゃ助かる儂は罪人だからな。でももう時効だろう。俺が勝手にこの島に残り続けただけだしな」

「私はマスターに従います。許可がでないというなら強行突破するまでです」

「さあさっさと島を出ようぜ」


海人、ゼロ、桐生はさっさと小舟の方へと移動していった。


「刹那。あの2人をどう見ますか?かなりの実力者とみますが」

「そうだね。かなり強いと思うよ。メイドの方は得体もしれないしね」

「護衛としては心強いですが、かなりクセの強い方たちのようです。前途多難ではありますね」


あの2人のことはともかく直下の問題は健太のことだ。あれだけの大怪我を負わせてしまっては両親達がだまってはいまい。なにかしらの抗議はしてくるはず。その時にあの3人がどんな行動をとるのか。いきなり戦闘になってもおかしくはない。


「・・・当主にどう話したものか。頭が痛いですね・・・」

「そこは私には何もできないね・・・でも意外と許してくれるんじゃない?当主はそんなに厳しい方でもないし」


確かに現当主である瑞穂の父親は温厚な性格ではある。だが罰を犯した者には苛烈な処罰を下す顔もある。どのような行動に出るかは瑞穂にも想像がつかなかった。


「ここで考えていても仕方ありません。私達も船に戻りましょう。どうせすぐに当主とか顔合わせすることになります」

「そうだね。じゃあ行こうか」


瑞穂と刹那も小舟に乗り込み船へと移動しだした。しばらくすると海人が話し始めた。


「ずいぶんと遅かったな。何を話してたんだ?」

「今後のあなた達のことをです。本島に戻ったら当主との面談があります。そこには一族の他の面々もいるはずです。暴れたりしないでくださいよ」

「それは向こうの出方次第だな。まあしばらくと大人しくしてるさ」


船に到着し小舟から乗り換えると、治療中だった健太が罵声を浴びせてきた。顔を包帯でミイラみたいにグルグル巻きにされてはいたが。


「海人てめえ!覚悟はできてるんだろうな!!」」

「そんな無様な恰好で何を言われても響かんぞ。随分と色男になったじゃないか」

「俺の顔をよくも!このことは一族に報告するからなお前はまた幽閉か島流しだ!」

「好きにしろ。そろそろ黙れよ。また痛めつけられたいのか?」


海人が歩みを進めると健太はひるんだように後退し罵声を飛ばしながら船内に入っていった。


「うるさいですね、あのガキ。処分しましょうか?」


ゼロが物騒な提案をしてきたが却下した。どうもこいつは極端で良くない。


「まあ俺も処分には賛成だがね。あの手の奴は生かしておいてもロクなことにならない。今なら魔獣のせいにできるしな」


桐生もゼロに同調していた。それなりに健太にはムカついていたのかもしれない。


「ほっとけ。あんな小物を相手にするだけ時間の無駄だ」


海人は本島を見つめた。いよいよ自分の人生がこれから動きだす。邪魔する者は誰だろうと叩き潰すとすでに心に決めていた。



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