第12話:島での生活の最後
「いよいよ島の中央部だな。どんな魔獣がいることやら」
「今のお前なら大概の魔獣は倒せるだろうが油断はするなよ」
「いざとなれば私が守ります。余計な心配は無用です。ジ・・・桐生」
「今、完全にジジイって言おうとしたよな!?」
ぎゃあぎゃあと騒がしい2人を置いて海人はこれまでの島での生活を思い出していた。もうすぐ3ヵ月か。実に色々なことがあった。魔獣に殺されかけ、変人の爺さん(桐生)に会い、変なメイド(ゼロ)とも出会った。何度も死にかけたがこれまでの人生で1番の充実感を覚えていた。それにはやはり氣をコントロールできたことにある。心氣顕現を身に着けたことは何よりも大きい。
「(この島を出て瑞穂の護衛になったところで、面倒事だらけだろうしな)」
判りやすく戦いだけで済ませられるなら手っ取り早いのだが、本当の自由を得るにはそれだけではだめだ。焔木海人という存在を認めさせる必要がある。力で屈服させるのも面白いがそれだけでは面白くない。
「マスター。巨大な魔獣の反応があります」
海人が頭を悩ませていると、魔獣の存在に気付いたゼロが声をかけてきた。巨大な魔獣か・・・それがこの島での最後の戦いになるかもな。
「頼むから強敵であってくれよ。試したい技があ一杯あるんだ」
海人は早足となり魔獣がいるというポイントに向かった。するとそこには巨大なイノシシのような魔獣がいた。向こうもこちらの接近に気付いたのかすでに戦闘体勢に入っていた。
「・・・こいつは大物だぜ。ジャイアントブラックボアかよ。初めて見たぜ」
「桐生。この魔獣は強いのか?」
「ああ。本来なら当主か。その側近レベルが出動するレベルだぜ。本当に一人で戦うのか?」
「もちろんだ。それほどの魔獣ならありがたい。全力で戦わせてもらう。お前から教えてもらった技も試させてもらうぞ。心氣顕現【奪焔神刀(ダエンシントウ)】」
海人の手に血の様に赤い刀が現れる。そして全身の氣が一気に膨れ上がった。心氣を会得してから多くの魔獣を葬りその力を吸収してきた。今の海人の氣は以前の比ではなかった。あまりの氣に大地が揺れ動いていた。
「・・・こいつは凄いわ。余計な心配だったかもな」
桐生が呆れたようにつぶやく声を聞きながら、海人は魔獣へ向かって走り出した。
「まずはシンプルに力技だ。焔木流「爆炎切り」!」
海人は心氣を向かってくるジャイアントブラックボアに叩きつけた。爆炎切りは焔木流の初歩の技でただ氣をまとわせただけの斬撃である。だが桁違いの氣を持つ海人の一撃はただの斬撃ではない。爆発が起きたかの音が響き渡りジャイアントブラックボアが後退した。だがかなり効いているのかその場で動かなくなった。
「流石にこれくらいでは倒れないか。次でとどめだ。焔木流「焔閃光(ほむらせんこう)」」
刀から炎をまとった斬撃が飛びジャイアントブラックボアへと向かっていき、そのまま相手を一刀両断してしまった。
「・・・これで終わりか。思ったよりあっけなかったな・・・おお!」
ジャイアントブラックボアを倒したことで氣が心氣に流れ込んできた。大物といわれるだけあって、これまでの魔獣とは比較似ならない量の氣が流れ込んできため海人は苦しそうにうずくまった。
「おい。大丈夫か海人は?」
「大丈夫でしょう。大量の氣を吸収したことで戸惑っているのでしょう。ほら」
桐生とゼロが見ている中で海人はゆっくりと立ち上がった。そして空をジッと眺めていた。
「これでこの島とはお別れだな。そう思うと寂しくなるな」
「普通の奴はそんな発言しないぜ。この島から出るのが寂しいなんてな」
「・・・ありがとう桐生。そしてゼロ。お前たちのおかげで俺は強くなれた。この恩は一生忘れない」
「へっ・・・やめろよムズかゆいぜ。」
「私も封印から解いて頂いた恩があります。お気になさらずに」
「さあ島を出る準備をしなくてはな。拠点に戻るぞ」
この島を出た後に何が待っているのか。もしかするとドロドロのお家騒動に巻き込まれるかもしれない。だが今の俺にはそれらを跳ね除ける力がある。待っていろよ焔木一族。成長した俺の力を見せつけてやる!
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