第10話:すべてを奪い取る

「早速この力を試してみたい。まずは手頃そうな魔物から試してみるか。ゼロ手を出すんじゃないぞ」

「承知しましたマスター」


海人は魔獣を探すために森へと入っていった。しばらくすると狼風の魔獣が集団で襲ってきた。この島に入った直後で散々な目に合わされた魔物を見つけたことで海人は口元を緩ませた。奪焔神刀(ダエンシントウ)を持った手に力を込めて魔獣を切ると、まるで豆腐でも切ったかのようにあっさりと魔獣が両断された。


「すごい切れ味だ。これが俺の武器・・・ん?」


海人は違和感を覚えていた。魔獣を切った後に何か自分の力が膨れ上がっていくような感覚があった。まるで魔獣の力を吸い取ったように。


「マスター。あなたの氣がさらに上昇しました。どうやらそれがあなたの心氣の能力のようですね。相手の氣を奪い取ったようです。」

「やはりそうか・・・ふふふ・・・ずっと奪われてきた俺だからこそ顕現できた能力だ。俺はこの能力で最強になる。そして誰にも縛られない。俺は自由を得る!」


海人は全身から力が満ち溢れるのを感じていた。今なら何でもできる気がする。


「さあ魔獣狩りを継続だ。どんどん行くぞ」

「はい。森の奥に強力な魔獣がいるようです。行きましょう」


<数刻後>


海人の前には大量の魔獣の死体が転がっていた。目につく魔獣を片っ端から切り捨てていったが、途中から襲われなくなってきた。魔獣が俺に恐れをなして近寄ってこなくなったのである。


「ち・・・魔獣が襲ってこなくなった。もっと奥へ行かないと駄目か」

「そうですね。氣を抑える訓練もした方が良いかもしれません。今の垂れ流しの状態では生活にも支障が出ます。

「そうだな・・・もっとこの力を試してみたいが氣だけが高くなっても持て余すだけだ。修行も必要だな」

「それが良いかと」

「よーし。最後にこの氣を全力で放出してみるか。どのくらいの力が出るか試してやる」


海人は全身全霊の氣を刀に込め始めた。その凄まじい氣の力に大地が揺れ大気が荒れ始める。その溜めた氣を森の中央に向けて一気に解き放つととてつもない大爆発が起こった。


ズドォォオォォォォォオォ!!!!!


「おおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!」


その爆発で森の一部が消失した。以前の自分ならこの爆風で吹き飛んでいるところだが今は一歩も後退していない。心氣を得たことで身体能力も向上しているのかもしれない。


「・・・我ながら凄いな。ここまでの威力が出るとは・・・」

「森の一部が消し飛んでしまいましたね。いい眺めになりました」


ゼロが呑気な発言をしていたが、正直それに突っ込むどころではなかった。ここまでの爆発が起きるとは思っていなかったからである。やはり早急に力をコントロールする修行が必要である。できれば焔木の技を会得したいが俺の知識だけでは厳しい。どうするかと海人が考えていると聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「おーーーーい!」

「あれ?桐生じゃないか。どうした」


自分の命の恩人ともいえる人物との再会であった。桐生であれば焔木の技のことも知っているはず。彼から技を教わればいいのだ。何で忘れてたんだろう。


「さっきの爆発は何だ!?死ぬところだったぞ!」


どうやら爆発に巻き込まれそうになっていたらしい。危うく恩人を殺すところだった。


「すまん。俺の心氣の力で全力で解放したらああなった」

「なに?心氣をもう身に付けたのか。それにしてもデタラメな力だったな。それにそっちのメイドは何だ?」

「私はマスターのメイドです。何者ですか。殺しますよジジイ」

「こわっ!何だこのバイオレンスなメイドは!?」

「話すと長くなるんだが、彼女のおかげで俺は心氣顕現を会得することができたよ」

「そ・・・そうか。よく判らんが良かったな」

「ゼロ。彼は俺の命の恩人である焔木桐生(ほむらぎきりゅう)だ。仲良くしてやってくれ」

「承知しました。よろしくお願いします桐生」

「お・・・おう」


毒舌から急にしおらしくなったメイドを見てあの桐生が戸惑っていた。まぁ無理もないよなこんな魔獣だらけの島でこんなメイドがいること自体変だもんな。


「桐生。思ったより早く再会できたな。早速のお願いで申し訳ないのだが俺に焔木の剣術と術を教えてくれないか。この力をコントロールしたいんだ」

「え・・・面倒だなっ・・・っておい!何で笑顔で拳を振り上げてるんだこのメイドは!?」

「マスターの命令です。さっさと教えてください桐生。殴りますよ。教えるまで殴り続けますよ」

「こえーよこのメイド・・・敬語使っても内容が物騒すぎる・・・」

「ま・・・まぁ色々と説明したいこともあるし、俺の拠点まで移動しよう。これまでのことを全部説明するよ」

「そうしてくれ・・・」


ゼロを何とかなだめると、拠点である滝裏へと向かって3人で移動し始めた。この2人とはこれからも長い付き合いとなってことになるとはこの時は思ってもいなかった。

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