幕間:焔木刹那の回想
「海人の奴はちゃんと生きてるのかな?」
刹那は現在謹慎中の身だ。そしてひたすらに道場で鍛錬を積んでいた。そうしないと怒りを抑えきれなかったからだ。そもそも自分が謹慎となったのは焔木健太とその取り巻きの悪辣な行為を我慢できなかったからだ。彼らと殴り合いの争いとなりお互いが謹慎という処分を受けたがどうにも納得できていなかった。
「何で私まで謹慎されるのよ。どう考えてもあいつらが悪いのに!」
当主は今回の海人の件に関しては沈黙を貫いているので当てにはならない。健太達の親は一族の中でも発言権が強いため、こちらの意見も通らなかった。
「あいつが嫌われてるからなのか。・・・いや、そもそも一族の練習が腐っているんだ。やっぱ瑞穂に一族の当主になってもらわないと」
だが瑞穂の上にはまだ3人の兄弟がいる。その3人を出し抜いて当主になるのは並大抵のことではない。それでも瑞穂が当主にこだわるのは・・・。
「海人の解放か。やっぱそれが狙いだよね」
正直知らない仲ではないし、幼い頃から誰よりも訓練に明け暮れていた海人のことを悪くは思っていなかった。だが絶望的に才能がないことも理解できていたので戦士になることは諦めた方が良いとも思っていた。まさか幽閉されるとは思っていなかったが。数年ぶりに会った海人はどこか達観した空気をまとっていた。なぜかその姿を見るとイラついてくる自分もいた。昔の希望を失わずに訓練に明け暮れていたあいつはどこにいったのか。長い幽閉生活が彼の心を腐らせてしまったのか。
「・・・でも訓練は続けてた。体つきを見ればわかる」
瑞穂は海人を自分の護衛にするという名目で幽閉からの解放というところまで持ち込むことはできたが、例え島から生きて帰っても護衛が務まるとは刹那も思っていなかった。だが危険がないと判れば幽閉から解放させることはいつかできるかもしれない。それこそ瑞穂が当主となれば必ず達成できる。
「問題は海人が生き残れるのかだけど・・・いくらなんでも厳しすぎる」
あの夢幻島の恐ろしさは自分も知っている。あそこの魔獣はレベルが違う。海人なんて襲われれば一たまりもないはず。解放の条件についてはかなり粘ったがあれ以上条件を下げることはできなかったのだ。
「生きて戻ってきなさいよね。そうしたら私が鍛え直してやってもいい」
刹那はまだ知らなかった。海人が島でとてつもない力を手に入れていたことを。
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