幕間:焔木瑞穂の憂鬱

「海人が夢幻島へ行って早1か月・・・元気でやっているでしょうか」




焔木瑞穂は正直なところ、海人とあまり親しい訳ではなかった。だがそれは当然のことだった。自分は当主の娘であり相手は一族の落ちこぼれと言われていた男だった。当然のことながら2人の間には距離があったが瑞穂はずっと海人のことが気になっていた。




自身の氣を扱うために努力を重ねていた姿をずっとみていたからです。周りの一族からは無駄な努力だと冷やかしの言葉を浴びても誰よりも早く誰よりも遅くまで修行していた。だが焔木一族は生まれながらにしてほとんどの者が氣を操れる。それができない海人は異物でしかなかったのだろう。




それでも努力している姿を見て海人を認めている者もチラホヤいたが決定的に嫌われる事件がが起きてしまった。




「・・・不覚でした。私が攫われそうになどならなければ・・・」




瑞穂はあの日のことをずっと悔やんでいた。海人は必死に私のことを守ろうとしてくれが、それが結果として多くの重症人を出してしまった。海人の行為は仕方のなかったことだと当主である父にも何度も直談判したが結果が覆ることはなかった。死罪はまぬがれたが幽閉処分となった。




海人が幽閉されるとき彼と目を合わせることができなかった。向こうからしたら目をそらして拒絶したように見えただろう。あの時の海人の目にはあきらかに失望が混じっていた。




「・・・謝るべきでした。他の者に何といわれようと・・・」




6年もの間、会えなかったのも想定外だった。面会をずっと禁止されていたからである。今回の当主候補を決める争いが始まってやっと会えることができたが彼の目にはもう何も映っていなかった。




「最低ですね私は・・・禁止されていたとはいえ無理をすれば謝るくらいはできたはず」




それでも瑞穂が社に近づかなかったのは怖かったからである。彼から明確な拒絶をされるのが何よりも恐怖だった。気丈な姿で海人に会いに行ったが実際は心臓がはち切れんばかりに緊張していた。




「刹那には感謝しないといけませんね。彼女が付き合ってくれたから勇気がわいた」




刹那は実直な性格で正直言って口も悪い。喧嘩にでもなるんじゃないかと気が気ではなかったがその心配はなかった。だがその彼女は今は近くにいない。




島に渡る際に焔木健太が荷物から呪符を抜いたことに怒り大喧嘩になったからだ。今はどちらも自宅で謹慎処分となっていた。




「黙っていれば。健太だけが謹慎処分を受けたでしょうに黙ってられる性格ではありませんしね」




そんな彼女のことが瑞穂はちょっとうらやましかった。正直自分も彼の行為には怒りくるっていたからだ。だがここで問題を起こしたら当主候補での大きな減点もありえた。それゆえに静観を決めていた。




「私にできることはもう何もありません。海人があと2か月の間生き抜いてくれさえすれば」




海人の生還を信じ瑞穂は海をずっと眺めていた。


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