第7話:修行のため旅立ち
心氣顕現の修行に入り1週間が過ぎた。海人は異常な集中力でほとんど飲まず食わずで修行を続けていた。
「おーい、流石にちょっとは休まないと体がもたんぞ」
巨大な魔獣を狩ってきた桐生が声をかけると海人はようやく立ち上がった。
「どれくらい経った?」
「もう1週間だぞ。集中すると没頭するタイプか?食い物を持ってきてやったから食いな。」
桐生が持ってきた魔獣を見ると怪訝な顔をした。狼の魔獣だったが頭が2つある異形の魔獣だった。
「・・・食べられるのかコレ?」
「もちろんだ。ちょっとスジ張ってるが結構イケるぞ」
桐生は手慣れた様子で獲物の皮をはぎ内臓を取り出していった。それを串にさして焼きだしたところで海人は話かけた。
「なあアンタは心氣顕現を会得するまでのどのくらい時間がかかったんだ?」
「そうだな。10年くらいはかかったな」
「10年!?そんなにかかったのか」
「儂の場合は氣が少ないというハンデがあったからな。お前にはそれがないからキッカケさえあれば会得できそうではある」
「キッカケか・・・」
海人は空を見上げ考え始めた。今のままでは会得までにどのくらいかかるか想像できない。この島での試練は3か月。それまでには何としても会得したい。海人は焔木一族との約束事を信用していなかった。試練を乗り越えてもまた幽閉される可能性は存分にあり得ると思っていた。それを防ぐためには自分の力を制御する必要があった。場合によっては一族と戦う可能性もあるからだ。
「やはり守られながら修行するというのが甘えなのかもしれないな」
「うん?何か言ったか?」
「ああ、これを食べたら俺はここを出て島を探索する」
「無理を言うな。この島の魔獣をナメるんじゃない。今のお前ではあっという間に魔獣のエサだ」
「そこまで追い詰める必要がある。それで死ぬなら俺はそこまでの人間ということだ」
桐生は焼けた魔獣の串焼きを海人に差し出してきた。
「・・・お前がどんな人生を歩んできたか知らないが。儂と同じくらいイカれてるな」
「これまでの俺の人生なんて有って無いようなものだ。いい思い出などほとんどない」
「ふむ。まあやりたいというなら止めはしない」
「ああ、世話になった。生きていたらまた会おう」
桐生はしばし考え後に奥に積んである荷物から地図らしきもの持ってきた。
「これは餞別代りにやろう」
「これは?」
「儂が作ったこの島の地図だ。これを見れば危険なエリアは避けられる」
「この禁止を書かれた区域は?」
地図を見るとこの島の中央あたりにある山近辺は禁止区域とされていた。
「この山の近くには近づくな。儂ですらここに入れば命はないかもしれん」
「そんなに強い魔獣がいるのか?」
「そうだ。何度か足を踏み入れようとしたが断念してきた。この付近の魔物はレベルが違う」
「わかった。そこには近づかないようにしよう。ありがとう桐生。世話になった」
「おう。死ぬなよ海人」
海人は島の探索に出た。もらった地図を参考に島を練り歩いた。途中で魔獣に何度も襲われかけもしたが何とか撃退できていた。もともと剣術はずっと修行を続けていたので大群にでも会わない限りは
何とか対処できていた。
「さて、どこで修行するか。やはり水辺の近くがいいな」
地図を頼りに川の近くまで行くと巨大な滝が見えてきた。
「これはすごいな・・・。修行の場所はここにするか」
海人は滝の下を拠点にしようと決めた。テントを張り魔獣が近寄ってこないよう魔獣が嫌がる匂いを発する薬草をいぶし罠も大量に張った。
「幽閉されてる間、時間だけはあったからな。本でサバイバルの勉強をしていたのが役立ったな」
修行場の準備が整ったところで水と汲むために川へと近づくと改めて滝を見上げた。
「綺麗だ・・・そういうば滝なんて人生で初めて見たな」
ずっと幽閉生活をしていた海人にとってこの島で見るものはすべて目新しかった。だが滝に見とれていると何かが足に巻き付き水の中に引きずり込まれた。
「(んぐぅっ!何が!?)」
状況を確認すると巨大なトカゲの様な魔獣のしっぽが足に巻き付いているのに気づいた。
「(マズった!水中にも魔獣がいることを失念していたとは!)」
魔獣は大きな口を広げて海人に迫ってきた。慌てて刀を抜いて魔獣を突き刺そうとしたが水中では力が入らなく刺さらなかった。
「(ぐっ!まずい息もできない!一か八か心氣錬成をやるしかない!)」
意識を集中させて手に刀を持つイメージをする。この1週間で何とかイメージ化の前兆は現れていたが顕現させたとまではいかなかった。一瞬だけでも顕現させることができればこの魔獣を撃退できると考えさらに意識を集中させた。魔獣が肩に嚙みついたがそれすらも無視した。すると手に次第に刀が顕現されズブリと魔獣の腹を貫いた。
「ギャワ!」
魔獣は断末魔の声をあげて川を流れていった。だが海人にそれを気にする余裕はなかった。何とか顕現できたが不安定で今にも爆発しそうだったからである。そして限界をむかえると顕現した刀は爆発し吹き飛ばされた海人は滝に叩きつけられた。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
そこで海人の意識は途絶えてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます