第3話:社からの解放
あれやこれやと夢幻島に行く日があっという間に決定していた。
瑞穂と刹那が来てから1週間後に島へと運ばれることになり今日はついに6年振りに社を出ることになった。
「海人、準備はできましたか?」
「ああ問題ない。行くぞ」
案内人として社に現れた瑞穂と刹那に連れられ社の前に来ていた。
「それではあなたの封印を解きます。先に言っておきますが逃げ出しても無駄です。周りに配置した焔木の者があなたをすぐに捕縛します。そうなればあなたがの立場はかなり苦しいものになりますので短気的な行動をとらないように」
「わかったよ。どうせ俺の力では逃げられん」
瑞穂は1枚の呪符を取り出した。
「これは?」
「封印解除の札です。文字はあなたの血で書かれています。これの対となる呪符があなたの体の中に埋め込まれています。それがあなたをこの地に縛りつけているのです」
「体の中だと。いつの間にそんなものを」
「それでは封印を解きますよ。少し苦しいかもしれません」
瑞穂が手に持った呪符を海人の体に張ると一瞬で呪符が消えた。まるで海人の体に吸い込まれたかのように。
「う!?ぐぅぅぅぅ!!!」
海人の体が燃えるように熱くなり何とも言えない不快感が襲った。
だがそれも一瞬のことで、しばらくすると熱も落ち着き平常に戻った。
「これで封印は解除されました。社の外に自由に出ることができます」
「もうちょっと優しく解除できないのか?」
「贅沢いってんじゃないわよ。焔木の中でも最高レベルの封印の解除なんだから仕方ないでしょ」
「そうなのか?何で俺なんかにこんな強力な封印をしたんだ」
「さあ?また暴走されるのを防ぐためじゃない?」
刹那も不思議そうな顔をしていたが、当主の意向なんてわかるはずもない。
「さあ行きましょう。社を出ますよ」
「・・・ああ、そうだな」
6年ぶりに社を出ることになる。出口となる階段の前に来ると少し緊張した。
以前だったらこれ以上先に進もうとすると雷に打たれたような電撃が走ったのだ。
海人はおそるおそる手を伸ばしてみたが痛みが走ることはなかった。そしてそのまま社の外に出た。
「6年振りの外か・・・」
何も感じるものもないかと思ったが案外そうでもなかった。
何ともいえない解放感を味わっていた。
「行きますよ。これからすぐに海に出て島に向かうことになります」
階段を下りて車に乗り込もうとすると後ろから声をかけられた。
以前瑞穂にからんできた焔木健太であった。
「よう無能者。逃げ出さないのか?逃げれば安心して痛めつけてやれるんだがな」
「・・・誰だ?」
「貴様・・・俺の顔を忘れたのか!この顔の傷はお前につけられたんだ!」
海人は健太の顔をやっと思い出した。ことあるごとに稽古と称して海人を痛めつけてきた男だった。そして力を暴走させた時に半殺しにしてしまった一人でもある。
「できればこの手で殺してやりたいんだがな。お前は島で魔獣のエサになる方がお似合いだ」
「健太!控えなさい!手を出すことは当主から固く禁じられています」
「わかってるさ。だから逃げるのを期待したんだがな。臆病者にはそんな気もないか。あばよ!」
健太はもう興味を失ったように去っていった。
「すいません。気を悪くしないでください」
「本当に陰険な奴!」
「気にしてないさ。ほら行くんだろ」
「ええ、車に乗ってください」
海人と瑞穂と刹那を乗せた車が動き出した。
島へと向かう船に乗るために。
健太のその車を見ながら胸元に手を入れ紙の束を取り出した。
それは海人のために瑞穂が準備しておいた呪符であった。
「こんな高価なものをご苦労なこった。あんな出来損ないにはもったいない俺がもらっておくぜ。ちゃんと言われた通り手を出してはいないぜ。へっへっへ。これで確実に死んだなアイツ」
健太はニヤリと邪な笑いを浮かべていた。
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