第2話:解放への絶望的な条件
「死地だと?どういうことだ?」
海人は疑問の顔を浮かべ瑞穂を見た。
「夢幻島にあなたを送り込みます。期限は3か月です。その期間生き残ることができればあなたは力ある者として一族に認められ自由になります。」
「・・・死地ってそういうことね。それはもう処刑と同じだろ」
夢幻島(むげんとう)・・・。そこははるか昔より焔の一族で管理されていた島。島には凶悪な魔獣がひしめいているが強力な結界が張られているため魔獣が島の外に出ることはないが、時折結界に穴が空いて魔獣が出てくるときがある。その魔獣を討ち果たすのも一族の役目なのだ。
だが剣も術もロクに使えない俺が島で3か月も生き抜くなど不可能に近い。というか不可能だ。3日ですら怪しい。
「そんなに俺を殺したいか。クソどもが」
「・・・申し訳ありません。他に方法がなかったのです。別の場所も提案したのですが却下されました。一族の中にはあなたを嫌っている者も多いのです」
「まあ当主の娘の1人とはいえ、ただの小娘の意見なんて通るわけないか」
「あんたねぇ言い方に気をつけなさいよ!」
刹那がまた激高しそうになったが被せるように海人が返答した。
「・・・いいよ。行くよ夢幻島」
「「え?」」
「行くといったんだ。俺の死に場所には丁度いい・・・」
「海人・・・」
海人の顔には諦めが見えた。もう生きることに希望も見えないかのように。
瑞穂はその顔を見て胸が締め付けられる想いだった。
「・・・もちろん強制ではありません。このままここで生活することも望めばできるのですよ。私があなたを管理すれば・・・」
瑞穂が何かを言うより先に海人が言葉を遮った。
「余計なことだ。飼われる生活などもうウンザリだ。もう帰れ。島に行く日が決まったら教えてくれ」
海人はもう話すことはないといわんばかりに背を向けた。
瑞穂はその背中を少し見つめた後、言葉を発した。
「・・・わかりました。当主には私から伝えておきます。いつでも島に行けるよう準備しておいてください」
「ああ」
瑞穂はそれだけいうと背を向けて入り口の方へ歩いて行った。
「ちょっちょっと瑞穂!本当にいいの!?」
刹那が慌てて瑞穂の後を追いそのまま出ていった。
2人が出ていった部屋には静寂のみが残った。
「ふぅ。やっと静かになったか」
2人とは何年振りに会っただろうか。俺が幽閉されてからは一度も会ってなかったから
6年振りになるのか。流石にこれだけたつと女らしい体つきになっており2人とも美女という部類には入るだろう。だからといって好きにはなれないが。
「なんで今さら会いに来たんだか。使いで嫌々来たって感じか?師匠達にでも頼めばいいだろうに」
海人は先程の瑞穂達の話を思い出していた。
まさか最後が島流しになるとは。しかも魔獣ひしめく夢幻島。
ロクな最後にはならないだろう。
「瑞穂は俺の力に枷があるとか言ってたが、そんなご都合よく強くなれるはずがない。剣だけはずっと修行してきたがそれだけだ。肝心の術が使えなくては魔獣と対抗できる訳がない」
海人は考えれば考えるほど絶望的な状況にもう考えることをやめた。
「準備だけはしておくか。といってもそんなに持っていくものもないがな」
そのころ瑞穂と刹那は・・・
「瑞穂。本当にいいの?あいつ間違いなく死ぬよ」
「・・・仕方ありません。あの人が選んだことですから」
「でも!」
「もういいんです!」
「瑞穂・・・」
瑞穂は感情を表には出さなかったが内心では海人に会えたことを喜んでいた。
彼に過酷な使命を出す時も、彼が望めば助け舟を出すつもりだった。
だけど・・・
「海人の眼には光がなかった・・・この6年という歳月は思った以上に彼の心を削ってしまったのかもしれない。もっと早く来れていれば・・・」
「それは・・・瑞穂のせいじゃないよ。両親たちも認めてくれなかったし・・・」
「それでも来るべきでした。彼をいつか解放できればと行動するだけでは駄目なことを思い知らされました・・・随分と嫌われてしまいましたね・・・」
「・・・」
海人から向けられた視線が忘れられない・・・。
あれはもう怒りとかでもなく無関心な眼だ。もう私たちに興味すら持っていない。
「私の方でも出来る限りの準備はします。術が使えない海人のために術符を大量に準備しましょう」
「わかった!」
2人が決意を露わに歩いていると、前に数名の男たちが待ち構えていた。その顔には見覚えがあった。
「よう瑞穂。ちゃんと伝えたのか海人の処刑日を?」
中心にいた男。焔木健太(ほむらぎ けんた)が嫌らしい笑いを浮かべながら話しかけてきた。
「処刑ではありません。試練です」
瑞穂がムッとした顔で言い返した。
「処刑だろ?あの島に送り込まれて助かるはずがない。やっとあの無能者が処分されると思うと清々するぜ」
刹那が怒った顔で前に出てきた。
「それ以上いうとタダじゃおかないよ!」
「おー怖い怖い。俺もこんなところに用はないんだ。じゃあな」
男たちはそのまま去っていった。
「瑞穂・・・」
「悔しいですが今の焔木一族は腐っています。海人の死を望む者も多いでしょう」
瑞穂は改めて当主になる決断を固めた。
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