第6話 賢者現る
とりあえずの情報収集としてネットに上がるニュースサイトを見た。大型ショッピングセンターは来年に開店予定らしい。準備する時間は割とあると言える。
だが、相手は大きい。どうしたものか。コーヒーを飲みながら考えつつ、何か着想を探す。
市は当てにならないだろう。こうなるのを知っていたからだろうし。岩水弁護士に相談に行くか?けど法律家の出る幕でもないし。どうしようか。
店番をしていると珍しいタイプのお客さんが来た。どこかで見た顔で、アメリカ人の哲学者っぽい落ち着きがある老人だった。店に興味があるのか、革靴を探して品定めしているようだ。
「いらっしゃいませ。革靴をお探しですか?」
「はい。履き着心地がいいのを探しているんですが」
「では、これとかどうでしょう」
「履いてみても?」
「もちろんどうぞ」
「ふむ。いいね」
その老人は履いてみて感触を確かめていた。
「いいでしょう。買います」
「ありがとうございます!七千三百円になります」
「はい。ありがとう」
老人はじっとこちらを見て何か言いたげだった。
「どうしましたか?」
「まずは顧客を創造せよ。客の新たなニーズを引き出すのが企業の勝ち方だ」
「はあ」
「この商店街も勝てる。まだまだ負けてないよ」
「?ありがとうございます」
今日も無事仕事は終わり、夕食を食べ、風呂に入っている。湯の感覚が気持ち良い。今日のことが思い出される。
あの老人はこの商店街が危機に近いのを知っていたのだろうか。顧客を創造せよ、か。どうしろと言っているのだろう。わからない。
「ふう、あー、いい湯だ」
どうすればいいんだろう。どう動けばいいんだろう。どうなればいいんだろう。わからない。
知恵者ねえ。俺はそんなん違うんだよなあ。ああいう老人こそ賢者、知恵者って言うんだろうな。あの老人が言っていた事は本当にヒントなのだろうか。
「もう!わからん!」
とりあえず風呂から出てバナナオレを飲んだ。
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