第4話 危機の足音

最近の商店街は順風満帆だ。皆そこそこ繁盛している。いいことだ。健一郎も安心したらしく、この間飲んだ時には大分感謝された。


趣味のゲームブックやTRPG(テーブルトークアールピージー)(会話で進んでいくロールプレイを含む人力ゲーム)の売上が上がっているそうだ。ゲーム人口俺のおかげで上がるんじゃねえの!とか調子に乗っていた。


ゲーム人口が増えるのはついでだが商店街が盛り上がるのはいいことだ。頑張った甲斐はあった。やはり順風満帆だ。虎太郎先輩も喜んでいた。全体的に儲けは上がったそうだ。今度は皆で飲みに行こうと約束した。良かった良かった。


「ゴロウ!入庫した靴をよろしく!確認してサインしといて!私先に昼食とるから」

「はーい。わかった」



昼過ぎに虎太郎先輩がやってきた。実家の和菓子屋の大福を持ってきた。


「よう、ゴロウ」

「あ、こんにちは虎太郎先輩」

「最近どうだ?」

「順調ですよ。いい感じです」

「だな!これも知恵者ゴロウと岩水先生のおかげ、そしてこの俺のおかげだな!」

「虎太郎先輩何かしましたっけ?」

「なにい!司会とかしてたじゃん!プレゼンテーションも一緒にやったろ!」

「はは、そうでしたね。忘れてました」

「おいおい、大丈夫かよ。ボケるには早すぎるぞ」

「その大福は?」

「ああ、お土産。そして市役所まで今日はお前1人で行ってもらっていいか?長女が熱出してな」

「大丈夫なんですか?桜ちゃん」

「なあに。大丈夫だろう。ただの風邪だ」

「じゃあ、行ってきますね。桜ちゃんに、あ、そうだ。これを持っていって下さい」


ゴロウは店の奥からスポーツドリンクを持ってきて虎太郎に渡した。


「ありがとな」

「じゃあ、あとちょっと片付いたら行きますんで。お大事に」

「おう」



市役所は人が多い。普通そうなんだろう。最近は通い慣れて来て気にならない。まあいつも通りだ。通い慣れた俺は二階の企画制作課に行く。


「どうも、黒山商店街のものです」

「あっはい、糸島さん呼びますね」

「はい、お願いします」


担当の糸島さんはプレミアム付き商品券の発行の頃からの担当だ。頭がいい男性で、話すことが的を得ている。


「今日は何のようですか?」

「今日は定期的に通って欲しいとおっしゃっていましたよね?」

「そうでしたかね。特に用はないようでしたら切り上げますが」

「?そんなひどい。せめて最近の商店街のこととか」

「必要ありませんね。お帰りください」

「はあ?!ちょっと待って下さいよ」

「では、忙しいのでこれで」



「という事があったんですよ。どう思います?」

「お前が何か悪いことしたんだろ?」

「いやあ、心当たりはないですけど。虎太郎先輩はどうなんてすか?」

「俺も…特にはないな」

「何故なんでしょうか?」

「わからん。日を改めてまたそのうち行ってみるか」

「はい、今度は二人で行きましょう」

「うんうん、そうしよう」


虎太郎先輩と話しても特に何も出なかった。これはおかしい。


何かあるな、と考えていて。


もし自分に未来予知能力があればこのことは危機の足音だとわかるかもしれない。


そしてその対処に乗り出したかもしれない。でも当時の俺には未来予知能力もない、対処の仕方も、何もわからない事だった。

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