第3話 商店街の復活
ゴロウは虎太郎先輩と弁護士事務所を訪ねていた。お金はかかるが仕方がない。できるだけ安くすむ弁護士の先生を選んだ。岩水弁護士事務所という看板の同世代位の先生だった。
「プレミアム付き商品券ですか。なるほど、そう悪い手ではないと思いますよ。ただ思うより難しいとは思いますが。商店街だけの資金力ではとても実現しませんね」
「そうですか…ではどうしたらいいのでしょうか?」
「自治体に働きかけてはどうです?商店街の活性化は何も商店街だけの問題ではなく市や町の問題と言えますし。行政としても何かしたいと言うと思いますよ」
「そうですか!なるほど、それはありがたいですね」
「ただ審査はそう簡単ではなくてですね」
そう言うと岩水弁護士は資料棚から資料を持ってきた。
「最近の成功例としてこういう場合があるのですが」
資料には米原という商店街のプレミアム付き商品券の取り組みについて書かれていた。
「この米原商店街の場合、自治体がバックアップしてお金の不足を補った例でして」
「ふんふん」
虎太郎先輩も自治体になんとかしてもらえないかと言っていたので、まさにそのケースが出たので食いつきがいい。
「まずはプレゼンテーションのためのビジョンです。ビジョンがしっかりしていればちゃんと応えてもらえます。ビジョンを考えましょう」
岩水弁護士とは自治体との交渉に協力してもらうと約束してその日は終わった。必要だろう。虎太郎先輩と飲みながら話していた。
「岩水先生は頼りがいがありそうだよな」
「そうですね。商店街の復興の案件を勤めていたみたいですし」
「けどお金はかかるけどな」
「まあそりゃそうでしょう。ボランティアとはいきませんし」
「なかなか大変だよな」
「まあそうですね。でも道筋は見えてきたと思いますよ」
「だな。俺達だけで考えていたらこうはならないよな」
「ですね。ビジョンがいるって言われてましたね」
「ビジョンねぇ…どうするんだい知恵者ゴロウ」
「宿題になりますね。お互いもうちょい考えてみましょうよ」
「だな!まあ飲め」
「はい、いただきます」
ビジョン、目指す目標や光景、たどり着きたい場所の事になるが黒山商店街のビジョンとは遊びのある商店街だった。
家族連れがやってきて子供の欲しがるガチャやお菓子、ゲーム等をプレミアム付き商品券で沢山買って喜ぶというそんな商店街になった。
はじめそれはどうだろう、上手くいかないんじゃないかという慎重派もいたが企画が前進し、プレミアム付き商品券のデザインが上がってくる頃になるとその意見は変わりだした。
これはいける、楽しそうな企画だと皆認識を改めだした。市の職員もその熱意と情熱を訴える事で、何とかお金を出してもらえた。岩水弁護士も肯定的で、後押ししてくれた。今回は幸運だった、案外上手くいったとはゴロウの談だった。そして…
「この靴見てご覧!ゲームの中と一緒なんだよ!すごくない!」
「おおー!すげー!おもしれー!ねぇ母ちゃん買って!買って!」
「もうねえ…うーんと靴として大丈夫なのかい?」
「それは当然ですよ、お母さん。履き心地も完璧ですよ」
「そうなのかい?」
「うん!すごく良いよ!買ってよー!」
「もうしょうがないね。買いましょうか、プレミアム付き商品券でいいですか?」
「ありがとうございます!これは展示用なので箱を持ってきますね」
「やったー!ありがとう母ちゃん!」
「もう、ちゃんと勉強もするんだよ」
「はーい!」
黒山商店街にお客が少し戻ってきた。家族連れが多い。狙い通りの結果だった。売り上げも上昇傾向にある。うちは子供受けする靴を置いたり、お菓子をサービスしたりして子供連れに訴えていて、他にもガチャを置いたりしている。
虎太郎先輩も健一郎も感触がいいと言っていた。頑張ってみるものだな、商売は面白い。遊びを入れようと言っていたのは俺からだったが、こう上手くハマると策士っぽくて嬉しい。
自分に才能がある気がする。何かに活かせるような立場を探しても見つからないが、まだまだ人生は長い。このしがない靴屋の倅がどこかに大輪の華を咲かせられたら、咲くならいいな。
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