第33話 奴隷闘士
マルクさんの態度が軟化してから2日ほど経った。毎朝パン屋で出会うのは変わらないが、おはようと言うと小さい声でおはようと返してくれるようになっている。普通にこうやって挨拶を返してくれたり、話していると可愛い女性だとは思う。ただ初手の印象が最悪だったので、未だにキョーヤとウルニちゃんから警戒されてしまっている。
ある日、キョーヤがマルクさんに情報収集のために知人がいないかと聞くと、マルクさんは何人か闘技場で情報通がいるから、そいつらに聞いてみると言っていた。その人達に聞くために自分たちも同行したいとキョーヤが申し出たが、一応闘技場の控室は関係者以外立ち入り禁止となっており、入れても1人くらいしか入れないと言われ、公平にジャンケンをして、負けた僕がマルクさんに同行することになった。
闘技場へと移動していたが、会話が全くなくて少し気まずい。前のことを聞いても良いのかもわからないので、あまり下手な話題は振れない。そう思っていると、マルクさんの方から口を開いてきた。
「その、改めてありがとう。前、助けてくれて・・・。」
「あぁ~いや、うん。・・・その、何でああなったのかって聞いても良いかな・・・?もちろん話したくなかったら話さなくていいんだけど。」
「・・・まぁもういいか。アンタになら、話してもいいかもね・・・。」
闘技場へと向かいながらマルクさんがぽつぽつと語り始めた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
アタシね、元奴隷闘士だったの。どんな者よりも最も底辺の人、人扱いなんかされなくて、良くてペット扱い。アタシも奴隷として生きて、何回殺されかけたかわかんなかった。でもどんなに酷い目にあっても死なせてはくれなかった。奴隷は商品だから、見世物だから。それでね、ある日アタシが奴隷闘士として選ばれたの。奴隷闘士は、奴隷の中でもう商品価値が無い奴から選ばれるの。アタシももう選ばれたその時には14歳を超えてたから、奴隷は子どもの方が喜ばれるしね。だから闘技場で見世物になってくたばれってことだったんだろうね。
でもその時はね、本当に運が良かったんだと思う。うん、奴隷闘士としてアタシが出場したんだけど、勝っちゃったんだ。そこに居た誰もが奴隷が冒険者に勝てるなんて思わなかったと思う。勝った後に闘技場の人に殺されかけちゃった。お前のせいで段取りが台無しだって、何で死ななかったんだって言われちゃった。でも、その時闘技場のオーナーの人がね、そのまま奴隷闘士じゃなく、普通の闘士として闘技場に出場させ続けろって言ってきたの。
その日から闘士としてずっと戦ってきたんだ。最初こそ奴隷が闘士を名乗るなみたいな野次もあったんだけど、戦って勝てばその野次もいつの間にか歓声に変わってた。それで嬉しかったんだ。褒められるっていうか、応援されるのが。このまま戦って勝ち続けれたら良かったんだけどね、ある日調子が悪くて、何回か負けちゃったんだ。その時に観客の人からさ、やっぱり元奴隷闘士だなって聞こえてきて。負けが許されないんだって思っちゃった。
例えどれだけ頑張っても数回のミスで失望されちゃう。だからアタシは絶対に負けないためにホントのアタシを隠した。ホントのアタシは弱さでしかない。周りが求めてるのは闘士として最強のアタシだけで。ホントのアタシは誰にも求められてないし、認められない。
でも最近ね、もう戦うのが嫌になってきちゃったの。皆が最強のアタシを求めてるのに。最近のアタシは何でかあの場所に立つだけで、胸が痛くて、吐きそうになる。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
・・・真面目すぎでしょ」
「え?」
あれ、声に出てた。まぁ良いや言っちゃえ。
「その、マルクさんは考えすぎっていうか・・・。言い方は悪いんだけど、観客の人たちは多分そこまで期待してないと思うよ。」
実際そうだろう。別にマルクさんがいなくなってもこの闘技場に来る人が全員いなくなるわけでは無いはずだし。
「き、期待してない・・・?」
「マルクさんが負けた時にやっぱり元奴隷闘士だから~って言ってた人は多分、マルクさんが元奴隷だろうと普通の人だろうと、似たようなこと言ってたと思う。結局自分が試合に出る訳じゃ無いから、何とでも言えるじゃん?」
「そ、そんな・・・。アタシは、じゃあ何のために・・・。」
「それこそ死にたくないためなんじゃないの?みんなに持て囃されて人気者になったはいいけど、結局いつ死ぬか・・・っていうか負けるかは分からないじゃん。」
「う、うぅ・・・。」
な、泣いちゃった・・・。言いすぎちゃったかな・・・。でもあのステージに立つだけでそんなに苦しくなってるんだったら、自分の為にも早めに辞めた方が良いんじゃないかなって思うけど、多分それはマルクさん的に許さないんだろうなぁ。戦って勝つことで自分の証明ができてた子に、戦うのを今すぐやめろっていうのは言いづらいしなぁ・・・。
「おや、ナオキが女を泣かしているとはな。」
「あぇっ!?ウルニちゃん!?」
「キョーヤが遅いと心配していたぞ。ところで、その女はどうした?」
「え~とね・・・。」
なぜここに居るのかの疑問が大きかったが、とりあえず質問に答える。
ウルニちゃんにマルクさんが話してくれたことや、その話を聞いて自分が考えたことをある程度伝えた。
「その、だから今立ってるのが辛いんだったらもうやめた方が良いんじゃないのかな、って思って・・・。そしたら泣いちゃって・・・。」
「ふぅむ・・・。」
そう言うとウルニちゃんは黙って考え込んでしまった。泣いてるマルクさんの背中をさすってあげるくらいしかできることがない・・・。
「我は人間が嫌いだ。特にこういった自分の事を自分で決められないような者は特に面倒で苦手だ。」
ウルニちゃんがついに口を開いたと思ったら、その口からでてきたのはまさかの罵倒だった。
「貴様の実力は誰にも見劣りするようなものではない。我の世界でも十分生きていけるような力を持っているはずだ。なのにそれを何故自分のために使わないのだ?」
「グスッ・・・え・・・?」
「今貴様には自分の我儘を貫き通すその剣があるではないか?何故それを使わんのだ?」
「・・・ウ、ウルニちゃん。まさかそれ・・・」
「何故自らのために力を奮わん、お前の剣が泣いているぞ。」
ウルニちゃんがそう言ってマルクさんに背を向ける。
この後この雰囲気のまま行くの僕しんどいんだけどなぁ・・・。
あの後、マルクさんは泣き止んで闘技場へと向かい、情報通の人達に話を聞くとここでは見ていないが、別の商人がそれっぽい人物を見たと伝えてくれた。その商人の名前をリストアップして、マルクさんはこの後闘技場のスケジュールの合わせがあるらしく、そこで解散した。とりあえず有益な情報はもらえたので進展があった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ウルニさんが言ってくれた言葉を思い出す。褒めてくれたのかな。自分の為に力を奮え、か・・・。
「オーイマルク!」
あ、オーナー・・・。
「今日のバトルも最高だったぞ。ただあぁやって一瞬で終わらせるのも良いんだがな、もう少し泳がすことはできないのか?速度で圧倒させるのは良いんだがな、戦いが見えなければ観客は何を見ていいのかわからないだろう?新規客へのインパクトを与えるのは良いんだ。ただたまにはあれ以外の戦い方をだな・・・」
・・・ごめんオーナー、アタシ闘士やめるね。
「おぉそう・・・は?」
アタシもう闘士やるの嫌になっちゃったんだ。だから、やめるね。
「・・・ハッなるほど。で、いつ戻ってくるんだ?できる限り早く戻ってこいよ?」
戻る気無いよ。やめるって言ったじゃん。
「・・・オイオイオイオイ、いつからそんなこと言えるほど偉くなったんだテメェ。あの時生かしてやった恩をもう忘れたか?」
オーナーがアタシを生かしてくれたのは今でも感謝してる。でも、もう誰かの言いなりはヤダ。
「なめやがって・・・テメェみたいなやつが今更マトモに生きれるとでも思ってんのか?」
わかんない。でももう闘技場で戦うのはもう嫌。
「よし分かった。二度とそんななめた口叩けねぇように、もう一度ボコしてやる。明日の試合は俺とだ。オーナーだと思ってなめてんじゃねーぞ。」
・・・良いよ。ここで戦うのはそれで最後にしてあげる。
「もう勝つ気でいやがんのかボケ野郎が!覚悟しとけよクソガキ!」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「キョーヤ!分身っぽい人見たって情報もらってきたよー!」
「おっ!じゃあ今度その人達に聞いてみることにするか。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます