第32話 お人好し
「さて、貴方は何の用で俺たちに挑発したんだ?」
先ほどナオキの肩に手を置きながらウルニにガンを飛ばした女と向かい合う。かなり深くフードを被っているため、顔が見えづらい。ただ、ナオキとウルニの先ほどの会話と態度から、知り合いとも言い難いと感じた。
「別に、アンタには用は無いさ。それよりかはこの男と女に1個秘密ができてしまったんでね・・・。」
「それで朝からガンを飛ばして脅迫か?随分と隠したいことなんだな。少なくとも俺からは、貴方が俺の仲間たちを脅迫して、何かしらの約束を破れば今にでも手を出すんじゃないのかっていう風にしか見えない。印象としては最悪なんだ。」
もし戦闘に発展しそうな場合、何時でも魔術を撃てるように一応杖を抜いて手に持っておく。
「・・・いや、そうだな。ごめん。確かに、朝から気分を悪くしてしまった。だから、これで手を打っておいてくれ。」
そう言ってそいつが出してきたのは、3枚の紙きれだった。・・・何だこれ。
「次の闘技場の特別席のチケットだ。もし時間があるんだったら見に来てくれよ。それじゃあ。」
俺の胸にそれを押し付け、瞬きをするとその女はいつの間にか目の前から消えていた。
「・・・は?」
「なんだったんだあいつは・・・。勝手に喧嘩売ってきたと思ったら勝手に消えたし・・・。」
「あれは無視すればよい・・・それよりも、そろそろ分身の我について聞いていくとするか。情報があるかもわからんがな。」
ひとまず、さっきみたいに何かあっても大丈夫なように3人で固まって情報収集をした。とりあえず、今日朝ごはんを食べに行ったパン屋の周りから聞いていくことにした。このウェールーツ市の全員に1回聞いて回ることにしよう、一体どのくらいの時間がかかるかは分からないが、まぁ時間は無限にある訳だし。
そうやって7日ほどが経った。朝起きて、サンドイッチを食べに行き、分身のことを聞きに行く。昼になったら昼食を取り、また聞きに行って、夕食を取って・・・。あと3日に1回、闘技場で試合が開かれているらしく、その女が渡してきたチケットを使って闘技場を見に行ったりもした。毎回マルク・ネアルストが出場しており、毎回圧勝しているのを覚えている。
そして後からナオキに内緒だと言われて聞いたのだが、あの時ウルニ達に喧嘩を売ってきていたあの女がマルクだったらしい。ちなみにそのマルクとは毎回朝食をとる場所が同じなので、毎朝顔を合わせている。毎日ナオキに確認をして、ウルニに怒られて、俺が全員を落ち着ける。それがもはや日常と化していた。
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マルクさんと毎朝顔を合わせるのが日常となってから何日かが経ったある日、いつものように昼食を取ると、キョーヤに勘定しておくから外に出ておいてと言われ、ウルニちゃんと外でキョーヤが出てくるのを待っていた。
もはや見慣れた路地をキョロキョロと見回していると、向かいの路地裏へと何人かが入っていこうところが見えてしまった。
(・・・モメてる?)
フードを深く被った人が周りを囲まれている。あ、腕掴まれてる・・・もしかしてあの人・・・。
「あ奴を助けるのか?」
「・・・流石に見ないふりは、できないからっ!!」
例え相手が誰だろうと、誰かが襲われそうになってるところを見捨てるわけにはいかない・・・!そこまで腐りきってるつもりは、無いもんね!
フードを被って、顔を見られないようにして路地裏へと僕も走っていった。
「なぁお前のそれ、奴隷の紋様だよなぁ?何で人様の服着て道歩いてんだよ?」
「・・・」
「・・・何とか言えよおい、奴隷が人様の言葉無視すんのか?」
「・・・アタシは―」
「ねぇっ、そこの人達、何するつもりなのかな・・・!?」
ギリ間に合った・・・。あんま騒ぎは起こしたくはないんだけど、しょうがないよね・・・。
「・・・」
「あん?お前がコレの飼い主か?」
「いや、そうじゃないけど・・・」
「じゃあ何だ、コレを庇うのか?奴隷だぞ?」
「・・・奴隷だって人だよね。人を庇って何が悪いの?」
「ハァ?奴隷は人じゃなくて見世物だろ?何言ってんだお前?」
「・・・はぁ。いや、そうだね。価値観が世界では異なるからね。うん、分かった。確かに見世物かもね。」
「なら、
「でも僕の気分は悪いんだ。だからその手、放して?」
奴隷が当たり前の世界の人達に、奴隷でも人間だとか、見世物になってる人は奴隷以外にもいるとか、ただの屁理屈にしか聞こえないんだろう。だからこの人達に諭したって何の意味も無い。意味で言えば、この世界にとって部外者である僕のすることは、全て必要が無い。だから、今からするのは、僕の勝手な自己満足のためだ。
素早く腰に差していた杖を抜き、左に居た人の眉間に軽めの魔術を放つ。
「ウィンドショット!」
杖を向けられた相手は何が起きたのかわからないまま、顔を押さえて蹲る。
「なっ、おま、今何した!?」
静かに、被害も全く出さずにこの場を収めるために、最小限の動きでできるだけ小さめの魔術を放つ。相手は何が起きたのかわからないまま固まっている。残った方には魔術を使わず、姿勢を低くして懐に潜り込み、鳩尾に勢いをつけて正拳突きを食らわせる。制圧は完了。とりあえず動けないようにしておきたいけど・・・。こいつらの服使って柱にでも括りつけとくか・・・。
倒れているやつらの服をはぎ取り、柱に縛っておこうとすると、フードを被った女性が立ち上がった。
「あの・・・何で、アタシを助けたの?」
「ん・・・だからさっき言ったでしょ。見てて気分が良くないだけだって。」
「でも・・・」
「何度も言わせないで、僕が嫌だったからしただけなの。それが例え僕たちに何度も突っかかってきてた人でもね。それじゃ、騒ぎになりたくないしばいばーい!」
とりあえずこれ以上ここに居たらさすがに見つかりそうなのと、その問答はしたくなかったのでその場から抜け出すようにウルニちゃんたちの元へと戻る。
「あれ、ナオキどこ行ってたんだ?」
「あ、あ~いや~あっちの方に綺麗なアクセサリーあったから・・・」
キョーヤも戻ってきていたので適当な嘘でごまかす。ウルニちゃんにはなぜか微笑まれてる。
「あ奴を助けたのか?」
「・・・うん。」
キョーヤが聞き込みを再開しようと歩き出し、僕たちがその後ろをついていく途中で、ウルニちゃんに小声でそう聞かれた。
「・・・ダメだった?」
「ふふ、いや良い。それがナオキの良さでもあるのだからな。」
別に、僕は嫌いな奴をわざわざ助けるほどのお人好しって訳じゃ無い。ただマルクさんは、あの時はホントに驚いたし怖かったけど、何かに怯えてる顔っていうか、本人が一番何かに怖がってたし。事情があるんだろうなって思ったんだ。それにあの時は迷ってあそこに入った僕が悪いのもあるし・・・。
ウルニちゃんがこちらを見てずっと微笑んでいる。マルクさん、あの後大丈夫だったかな。
翌日、同じ店でサンドイッチを店内で食べていると、マルクさんがいつも通り近寄ってきた。ただ何となくしおらしいというか、昨日まで見たいに挑発的な態度ではない。何をしに来たのか黙って見ているとようやく口を開いた。
「そ・・・・・・・う・・・。」
いつもの感じで話すと思っていたが繰り出された声は思っていたよりも小さく、何を言っているのかが全く聞き取れなかった。
「ごめん、なんて?」
「あ、ありがとうって言ったの!それじゃ!!」
失礼かと思いながらも聞きなおすと顔を赤くして大声でそう言われた。そしてそう言い残すと足早に店から出ていき、先ほどの大声で静まり返っていた店内が再びガヤガヤと賑わい始めた。
「ナオキお前何したんだ?」
「い、いやぁう~ん・・・」
先日あったことを言っていいものか分からなかったので一応濁して答える。けどまぁとりあえず朝から厄介な絡まれ方をするのは確実に減ったので、一歩前進と言えるだろう。
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