第31話 秘密

 ナオキが闘技場の試合が終わった後にトイレに行くと言って数分が経ったが、未だに帰ってこない。

「あいつ遅いなぁ・・・。」

「・・・まぁ、気長に待とうではないか。そういえば我もトイレに行きたいんだが、ここで待っててくれるか?」

「え?あっちょっと!」

 ウルニもトイレへ行ってしまった。見慣れない場所で1人にされるのは若干不安ではあるのだけど。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 僕はただトイレに行きたかっただけなんだけど。何で今、僕は喉元に剣を突き立てられているんでしょうか。

 下手に動いて刺されるのが一番最悪だから身動き取れない・・・。というか何でこんな状態になっちゃってるんだろ・・・。

「アンタ今ここで誓いなさい。アタシのことをバラさないって。」

「なんの話~~!?別になんもする気無いけど!?!?」

「嘘よ、アンタもアタシのこと馬鹿にするんでしょ・・・!あのクズ共みたいにアタシのこと馬鹿にして・・・!」

 なんか色々とかなり訳アリな感じがする。とにかくその剣を早く納めてほしい・・・。

「と、とにかく僕はマルクさんのことなんも知らないし、それに話すような人もそんないないから・・・。というかバラさないってホントに何の話・・・?」

「そこの女、その剣を納めてもらおうか。」

 そう話していると、横からウルニちゃんがやってきた。良かった、これで助かる・・・!

「・・・アンタ誰?一応、ここ関係者以外立ち入り禁止なんだけど。」

「貴様の問答に答えるのは後だ。その剣を、納めてもらおうか。」

 まるでオーラが見えそうなほどの威圧感をマルクさんに向けて放つ。その威圧が僕に向けられているわけでは無いのは分かっているのだけれど、その眼光が酷く恐ろしく感じ、ちょっと漏れそうになった。

「ッ・・・アンタ、ただモンじゃないね。どう、アンタも闘士に・・・」

「一体何度言わせる気だ?その剣を、納めろと言っているんだ。」

「分かった分かった。分かったよ。だからその威圧をやめてくれ。目つきだけで押っ死んじまいそうだ。」

 マルクさんが剣を納め、僕から離れる。慌てて立ち上がり、ウルニちゃんの後ろへと逃げ込んだ。漏れかけて気づいたけど僕トイレ行こうとしてたんだった・・・。

「さて、帰ろうかナオキ。女、今回は特別だ。その首がまだつながっていることを感謝しておけ。」

「う、うん・・・。あの、マルクさん!俺ホントに誰にもなんも話さないから!大丈夫だからー!」

 とりあえずそれだけ伝えてウルニちゃんと一緒に戻る。とにかく彼女自身のことについて話されたくないみたいなので、キョーヤたちと話すとき気を付けなきゃなぁ・・・。

 その後トイレへ行くためにウルニちゃんに先に戻っていて良いと伝えたのだが、「大丈夫だ」とだけ言われて頑なに戻ろうとしなかった。いや、ついてきてくれるのは良いんだけど、トイレの中まで入ってこないで・・・。


「あ、やっと帰ってきた・・・。そんなにトイレ並んでたのか?」

「あ、あ~~まぁ、うん。思ったより並んでて~~」

「・・・?まぁ、なんも無かったなら良いけど、とりあえず宿探そうぜ。今日はもう遅いし。」

「あぁ・・・あれ、お金とかって大丈夫なの?」

「え?」

「いや、世界違うからお金も違うかったりするんじゃ・・・。」

「・・・あ・・・」

 お金の事を失念していた僕たちは都市に来たのに、結局野宿をすることになった。この世界に来てからことごとく運が無いというか、何というか。







「くぁ~~~~~・・・ねっむ・・・」

「おはよ。とりあえず朝飯どっか食いに行こうぜ。」

「キョーヤおはよぉ・・・。ウルニちゃんもおはよ。」

「うむ、良い朝だ。」

 キョーヤとウルニちゃんと一緒に朝ごはんを食べに行く。

 この世界はパンの種類が多くて、見ているだけでも楽しい。とりあえず朝ごはんなのでサンドイッチを注文する。他にも朝ごはんを食べに来た人が続々と来て、だんだんと店内がにぎわってきた。

「こうやってさ、だんだん人が来るのってなんか良いよね。見てて楽しいって言うかさ。」

「あー、何となく分かるな。」

 そう話していると、注文していたサンドイッチとセットのドリンクが運ばれてくる。挟んである具は潰した芋に焼いてほぐしたトゥナを混ぜ、キャベジが挟んである。量も満足感もしっかりあって、美味しそうだ。キョーヤもサンドイッチで、パンは少し固め、具材は燻製にした肉を薄切りにしたやつを多めに、キャベジ、トムトを挟んだものにしたようだ。

「ウルニちゃんは?」

「む、前に言わなかったか?我は食事を必要としない。味覚はあるが、ほとんど娯楽として楽しむくらいだ。」

「あれ、そうだったのか。」

「ただまぁ・・・最近は食事が楽しく思えているよ。キョーヤ達とする食事は、前よりもいくらか美味しく感じる。」

「・・・嬉しいこと言ってくれるねぇ~。へへへ、僕もウルニちゃんと一緒に食べれるのうれしいよ!」

 運ばれてきたサンドイッチを頬張り、口の中をサンドイッチでいっぱいにする。芋が少し粗目に潰されており、ゴロゴロとした感じが食感にアクセントを与える。トゥナの塩味がちょうどよく、次へ次へと口の中へ運びたくなる。意図せず一口が大きくなっていき、量はあったはずだがいつの間にか食べ終えてしまっていた。

「やっぱり学院の食堂とかとは比べ物にならないよねぇ・・・。満足感っていうかさ・・・。」

「はやっ、お前もう食い終わってんのかよ。俺まだあんのに。」

「ふふ、焦らなくとも良い、ゆっくり味わえ。我らは茶を飲んで待っておるからな。」

 美味しい朝食は良い一日の始まりにつながる。きっと今日も良い日になるはずだ。そう思っていると、後ろから何か強めの圧というか視線を感じた。何だと思い振り返るが、誰もこちらを見ている様子はない。不思議に思いしばらくあたりを見渡していると、カウンターで朝食を持ち帰りで頼んだのか紙袋をもらっているマルクさんが居た。思わず目を逸らし、できる限り気配を消す。

「む、どうしたナオキ?」

「う、後ろ・・・。昨日の人いる・・・。」

 何でこんなところにとも思ったが、そりゃ人なんだから朝食くらい食べに来るに決まっている。そうそう会う事は無いと思っていたがまさかこんなに早い再開になるとは思わなかった。

「・・・あの女か。まぁ、何かをしてくることも無かろう。それにあの女に負けるようなナオキたちでは無いだろう?」

「?なんの話してんだ?」

「あぁ~いやその・・・」

「へぇ?聞き捨てならねぇ言葉が聞こえたな?」

 肩にポンッと手を置かれ、思わず肩が跳ねる。後ろを振り向くと、マルクさんが片手に紙袋を抱えながらウルニちゃんにガンを飛ばしていた。

「誰が・・・誰に負けないって?」

「それよりも、ナオキからその手をどけてもらおうかカス女が。」

「おー怖い怖い・・・。で、テメェあの事言ってねぇだろうな?」

 今度は僕の顔を掴んで、顔を近づけて睨んでくる。

「い、言ってない言ってないからぁ・・・。言う人いないし・・・。」

「ふん、なら良いんだ・・・。」

「やはり貴様、今ここで殺しておくべきか。」

「ちょちょちょストップストップ!貴方も早く手放して!」

 キョーヤが慌てて僕とマルクさんを剥がし、ウルニちゃんを落ち着ける。サンドイッチはどうやら食べ終わったらしい。

「やるんだったらまず外に出るぞ、めっちゃ見られてるから。」

 紅茶を飲み干し、勘定をして外に出る。店の人達に悪いことしたなぁ・・・。

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