第30話 闘技場

 どうやらあの村で強奪した地図によると、あの村の名前はゴルア村という名前らしい。ゴルア村はほぼほぼ森に囲まれており、昨日戦っている最中でも感じてはいたが文化というか、儀式とかをまだしてそうな村だなという印象を受けた。実際子どもに厄災とかつけてるし、閉鎖的な村だったのだろう。

 ウルニの魔法で移動だったり野宿に関しては不自由な点があまり無く、特に不便も無くゴルア村から一番近い都市であるウェールーツ市に着いた。レンガや木を使った建物が多く、耐久性はかなり低そうにも見えるが、何としても目を引くのは、この市の中心にある大きな円状の建物だろう。

 どうやらこの世界では戦いが見世物として披露されているらしい。

「戦いを見世物としているとはな、よほど平和だったということか。」

「ん?どういうこと?」

「キョーヤたちの世界では魔獣の被害が多く、戦う者もキョーヤたちのような魔術師しかいなかっただろう。だから戦闘を見世物にするような余裕も無い。それに比べてこの世界では人同士の戦闘を見世物にできるほど、戦争やモンスターによる民衆への被害といったものが少ないということだろう?」

 確かにそうなのかもしれない。ゴルア村の人たちも魔獣は流石に見たことは無かったみたいだけど、他のバケモノたちの剥製みたいなものが長の家の壁に飾ってあったし。ああやって飾って楽しめるくらいの余裕は前まではあったみたいだ。


「ふ~ん、というか何の違和感もなく文字読めてるけどさ、こんな文字見たこと無いけど。何で僕たちこれ読めてんの?」

「あぁ、それも我の魔法だ。世界を渡るとなると、どの世界でも文字や文化が違ってな、その度新しい言語を習得するのが面倒で仕方が無かったのだ。だから我の魔法で、全ての言語を自分が一番馴染みのある言語に変換される魔法を作ったのだ。」

「さらっとかなり凄いことしてるな・・・。さすが魔法というか・・・。」

 ナオキがどこで貰ったのか、ウェールーツ市の観光スポットをまとめたガイドブックを持ってキョロキョロと周りを見渡していた。

「へ~、あの円形のやつ、メルセスコ闘技場って名前らしいよ。ちょうど今から始まるみたいだし見に行こうよ!」

「ふむ、確かに人同士の決闘は我も気になるな。よし、行こうか。」

「あっちょっとおい!」

 ナオキとウルニが闘技場に向けて歩いていく。分身のウルニの情報を集めるためにここに来たというのに・・・。


『偶には、その荷物を降ろしてみても良いのではないか?』


 ナオキたちに呆れていたが、昨日の夜に言われたことをふと思い出す。・・・少しくらいは、いいか。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「お金持ってないから入れないかもとか思ったけど、入場は無料で良かったね~。」

「どうやら賭博の場でもあるみたいだからな。そちらで金を払って見る者もいるのだろう。」

 受付で渡された今日のプログラムに目を通す。前座として奴隷闘士と冒険者との戦いがあるらしい。

 この世界には奴隷が存在する。闘技場へと向かう際中でも、ちらほらと首輪に繋がれた人を見た。馴染みの無い制度のため、少し驚いたがこれがこの世界での日常なのだろう。ただ見ていて気分のいい物でも無かったので、そうまじまじと見ることも無かったが。

 プログラムを読み込んでいると会場の歓声が大きくなる。どうやらそろそろ始まるようだ。中央にあるステージの南側から、首輪を繋がれた痩せた男が出てきた。あれが奴隷闘士だろう。あの細腕では剣を振ることも難しそうだ。

「・・・奴隷闘士って体のいいサンドバッグとどう違うんだろうね。」

「それを見て楽しむ者がおるからな。この制度はおそらくこの先も無くなることはないだろう。」

 戦いとは到底言えない、ただ奴隷を虐げるだけの試合が始まる。周りの観客はそれを囃し立て、もっと斬れだの、血を見せろなどと野次を飛ばす様に思わず顔をしかめてしまう。

「・・・命を賭した戦いを味わったことが無いのだろう、こういった輩はキョーヤたちの世界にもいたはずだ。この世界では、そういった者が他よりも多い。ただそれだけだ。それよりも本命の試合が始まるようだぞ。」

 奴隷闘士はボロボロになりながら退場していき、ステージに司会が立つ。

「さぁ今日のメイン!!お前たちもこれを待ち望んでいたはずだ!!!南は、このウェールーツのメルセスコ闘技場が誇る最速最強の女闘士!マルク・ネアルスト!!!」

 先ほど奴隷闘士が出てきた方から、剣を2本腰に差し身軽そうな服を着た女性の剣士が現れた。どこかムギを彷彿とさせるような見た目をしている。あいつと違うのは甲冑と髪を結っていないところだろう。

「対する北側が今回の挑戦者!!我が国の最強重装騎士として名を揚げたこの男!!ヘルス・ヴォガードォ!!!!」

 今度は北の入場門から、いかにも硬そうな甲冑に身を包み、女闘士に比べると圧倒的に巨体の男が現れる。随分と重そうだが、あれでまともに動けるのだろうか・・・。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「また随分と重そうなもの着けてんじゃないか。それでアタシとマトモに闘えるんだろうね?」

「ふん、負けた時に吐くセリフを考えておけ。」

 今日も強いアタシを演じる。皆が求めているのは最速最強のアタシ。弱い自分は要らない。


 位置に着き、試合が始まる。

 スキルはそう使えるものじゃない。すぐに手の内を晒し、耐久されて考える時間を与えてしまうと勝率は圧倒的に低くなる。考える暇もなく、一瞬でケリをつける。そうやって勝ってきた。

「そぉらっ!!」

 槍による圧倒的なリーチと、左手に構えているあの大きな盾が厄介だろうと考えていると、かなりの速度で突っ込んでくる。全身を甲冑に包んでいるとは思えない速さの突きだ。横に避けるも、連続で突きを繰り出してくる。相手も速度に関するスキルを使っているのか?にしては少し遅いような気がしなくもない。

「避けてばかりか!?それでも最強の闘士か!」

 安い挑発には乗らない。最強のアタシはいつだって冷静に、かつ迅速に終わらせる。

「なら当ててみなよオッサン。それでも最強重装騎士?」

「ふん!安い挑発だな!」

 盾を前に構えて突進をしてくる。速さに関するスキルなら、突進のスピードを途中で変えたりしてくるはず・・・。でもそれをしないのかできないのか、簡単に避けれる。突進を避けられてもすぐに槍を使った攻撃を繰り出してくるこの手数の多さは目を見張るものがある。重さを物ともしない動き・・・。そうか、重さか。なら怖くないな。

 2本目の剣を抜き、両手に構える。だらんと肩の力を抜き、リラックスする。

「よし、オッサン。そろそろアタシから行くよ。」

「・・・来い!」

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 一瞬の勝負だった。最初こそヘルスのあの重さを感じさせないステップと連撃で、勝利は目前かと思われた。ヘルスの槍も盾を使った突進も決して簡単に避けれるものではないように見えたが、それらも華麗に回避し、1度距離を取ったかと思った次の瞬間、何かが爆発したかのような轟音が聞こえた。それがマルクが出した音とは全く思えなかった。彼女が立っていた場所には、大きなヒビが入っており、一瞬で距離を詰め目にも止まらないスピードでヘルスに攻撃をしたのだと、後にウルニちゃんに解説されてようやくわかった。ウルニちゃんは「あの速さで3回急所を刺すのは中々できることでは無い。あの女、相当な実力者だな。」と言っていた。僕もキョーヤもあの爆音しか聞こえなかったのに、何でウルニちゃんはそれが見えてるし3回刺したって分かってるんだ・・・?

「あ、キョーヤごめん。トイレ行ってきていい?」

「ん、分かった。ウルニと闘技場の前で待ってるから。」

 試合に驚愕していると、退場のアナウンスが流れ尿意を思い出す。キョーヤに行ってからトイレに行こうとしたのだが・・・。


「ここどこだ・・・。」

 迷った。


 幸いトイレに急いでいた訳ではないのでまだ我慢できなくも無いのが救いだ。

「くっそ~・・・。もっと分かりやすい案内表記とかしといてよ~・・・。」

 しかもさっきまで闘技場の中に居たので歓声に耳が慣れたのか、異様に静かに感じる。実際人も全然見えない。いよいよどこなのか全然わからない。

「・・・誰?」

「うぇっ!?」

 誰かに声をかけられるとも思っていなかったので思わず肩が跳ねる。

「今日はもう終わったけど、ここで何をしてるの・・・?」

「あ、あぁ~~~いや~その~・・・」

「ここの清掃の人?」

「い、いや違くて・・・その、トイレに行きたくて・・・。」

 怪しまれてるのかぐいぐい詰められる。実際ほぼ不審者みたいなもんではあるんだけど・・・。

「トイレ・・・?トイレなら、あっちにある・・・。」

「えっそうなの!?来た方向と真逆じゃん!ごめんね、ありがとうマルクさん!」

「えぇ・・・。・・・ちょっと待って、いつアタシがマルクだって名乗ったの?」

「あれ、人違いだった?雰囲気的にさっき見たマルクさんだと思ったから・・・。」

「・・・アンタ、ちょっと来なさい。」

「あぇ?あ、あのトイレ・・・」

 有無を言わさずに腕を引かれ、引きずられるように闘技場の奥へと連れていかれる。トイレってそっちじゃないんじゃ・・・。

 

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