第29話 罪悪感?

「ぐ・・・ぅ・・・」

「おっやっと目覚めたか。」

「なっ貴様ら・・・!」

 長には悪いが気絶したところをしっかりと縄で拘束させてもらった。動けないように足首にも縄を巻いておき、柱に括りつけておいた。

「くそっ動けん・・・!貴様らぁ・・・!」

「さて、立場が変わったわけだ・・・。言葉には気を付けることだな?」

 ウルニが髪を掴んで長の頭を柱に叩きつける。他の兵たちも無力化して縄で縛っているので助けが来ることもおそらく無いはず。

「ではまず聞こうか。お前たちが厄災と呼んでいたその少女はどこに連れ去られた?」

「・・・知るかよ・・・!」

「ふむ、そうか。」

 ウルニが長の腹を殴りつける。長が思わず蹲るが、髪を掴んで無理やり顔を上に向けさせる。

「もう一度聞こう。その少女は、どこに連れ去られたのだ?」

「し、知らねぇホントに知らねぇんだ・・・!牢屋に入れてたが、見張りが昼に見に行った時にはもういなくなってたんだ!」

 嘘はついてなさそうだが、どこかも分からない場所を探すのは無理だ。適当に周辺の地図とかもらえないだろうか。


「なるほどな、それは分かった。では、もう1つ別の質問だ。先ほど我と戦っていた時に使っていた技は何だ?」

 あのいつの間にかウルニの後ろに動いていたやつか・・・。確かに今まで見たこと無い技だった。魔術っぽくも無かったし、多分魔法なら似たことはできるんだろうけど、ここの世界の人たちは魔力を扱えないはずだ。

「・・・あれが俺のスキルの『シャドーロカム』だ。」

「スキル・・・?ふむ、なるほど。で、どういった能力だ?」

 スキル・・・。それがこの世界での魔力のようなものか?

「クソッ・・・『シャドーロカム』は、幻影を作り出すスキルだ。相手の目の前に幻影を作り出し、攻撃が幻影に繰り出されたときに、相手の背後に姿を現して攻撃する。俺のスピードを極めたスキルだ。最も、今まで破られたことは無かったがな・・・。」

 あれを実践でしかも1対1で使われたら確かに倒せないかもしれない。今まで負けていなかったのも納得いく技だ。

「ふむ、それ以外の技はあるのか?」

「・・・?何を言っている?スキルはそう複数個持てるものではないだろう。」

 ならあの時ウルニと討ち合っていたのは、素の能力ということなのか・・・。余計に強さが際立つな、少なくとも俺ではウルニのように戦える気がしない・・・。


「なるほど。貴様、碌な情報持っていないな。キョーヤとナオキは何か質問はあるか?」

「いやぁ特には・・・と思ったけど、その人、ここら辺の地図とか持ってないのかな?無いとどこ探していいかも正直わかんないけど・・・。」

「む、盲点だったな。おい、地図は無いのか。」

「だ、だれが

「もう一度殴っても良いんだぞ?」

 わ、分かった分かった!!俺の家にあるから持っていけ!!」

 犯罪紛いの事をしている気分になるが、これも分身を助けるためだ。多少の犠牲は許してほしい。それに一応1人も殺してはいないから、ギリギリセーフなはずだ、多分。


「よし、これでここで強奪れるものは全部奪ったな。」

「クソッ、屑どもが・・・!お前らのせいで・・・!」

「・・・我々の話も聞かずに勝手に厄災だと決めつけ、攻撃を始めたのはどこのどいつだ?」

 呆れた顔で長にそう言い捨てる。

「貴様のような愚図が長と持て囃されているのも納得がいかん。長というのは民をまとめ、導く絶対的強者で無くてはならない。だが貴様には皆を黙らせるような技、力、威厳も何もかもが無い。我らを捕まえに来た少女も、貴様の在り方にウンザリしている様子だったな。」

(・・・そういや俺のこと捕まえたのもあの子だったよね・・・。長に向かって「おい」とか言ってたし威厳が無いっていうか、舐められてるというか・・・。)

「もとより貴様には民を束ねる才などは無い。力にものを言わせた統治はすぐに滅びる。」

 かなりイライラしているようで、そう言うとすぐに長に背を向けて歩き出す。別世界に来て初日から牢屋に入れられ、村を1つ壊滅させた。やはり分身を取り戻すためとはいえ、少々やりすぎた感は否めないな・・・。



 情報収集のために、この世界の都心部に行こうと地図を頼りに歩いて行った。当然半日で着くような距離でも無さそうだったので、結局その日は野宿で夜を過ごした。傭兵時代に依頼が長引くこともあったので、野宿のコツや注意することなどを一通りウルニに披露してから床に就いた。


 (・・・寝れねぇ・・・。)

 どうにも眼が冴えてしまい、まったく眠れない。初めて見るものが多かったのもあるが、あの村の事だ。あれは正しかったのだろうかと少し悩む。もちろん何も聞かずに攻撃をしてきたのは長の方だ。ただ、あれ以外にもやりようはあったのではないかと考えてしまう。


「どうしたキョーヤ、眠れないのか?」

 焚火を見つめていると、辺りを見張っていたウルニが戻ってきた。

「・・・まだあの村のことが気がかりか?」

 思わず伏せていた顔を上げる。なぜ言い当てられたのかと思っていたが、前も俺の思考を読んで話してきたことがあった。とりあえず聞かれたので頷く。実際悩んでいたのはそのことだし。

「確かに思考は読めるが、キョーヤから話してくれなければ嫌だな。対話は人間の基本だろう?」

「・・・その、俺だって話を詳しく聞かずに攻撃してきたのは、怒って無いわけじゃないけどさ。もしかしたらあれ以外にもやり方があったんじゃないのかって思うと・・・。」

 人間の事が嫌いなお前が人間の基本を説くかとも思ったが、思っていたことを全て伝える。この眠れない感じは何というか、幼少期にもいくらか感じたことがある気がする。確か、お兄ちゃんに買ってもらった手袋を落として無くしてしまった時、無くした時にすぐに言えば良かったものをなぜか言えずにお兄ちゃんにいつか怒られてしまうんじゃないかという罪悪感というか、いつ怒られるかの恐怖というか。


「ふぅむ、キョーヤは優しいな。優しすぎるくらいだ。」

「えっ」

「今この世界にはキョーヤを知る者は我とナオキだけだ。もちろん我やナオキにとって許さないことをすれば、怒ることだってあるかもしれぬが、それ以外にキョーヤを叱る者はおらん。ならばもっと自由に生きたって良いのではないか、と我は思う。」

 ・・・自由・・・。勝手に自分の行動を制限していたんだろうか。

「まぁ最悪の事態になれば我々はこの世界の住人でも何でもないから、元の世界に変えれば良いだけなのだがな。」

 最悪すぎる。壊すだけ壊して消えてなくなるのなんて物語でも許されないぞそんなの。

「もちろんそれがナオキもキョーヤも嫌なのは分かっている。ただ本当に嫌になったときや最悪の事態になったとき、我々は逃げれるということを覚えておくと良い。向き合うことはお前の美しいところだ。だが偶には、その荷物を降ろしてみてもいいのではないか?」

 荷物を降ろすねぇ・・・。

 ・・・そうだな、もうちょっとだけ、今くらいはあんまり何も考えなくても良いのかな。

「我はそう思う。お前はあの世界で充分に頑張ったはずだ。少しくらいは、誰かに甘えて休むのも大事だと思う。我に甘えても良いのだぞ?」

 フフンと胸を張り、少しドヤ顔で彼女は俺にそう言った。・・・少しくらいやり返すか。

「なぁ、ウルニ、こっちに座ってくれ。」

 隣をポンポンと叩き、三角座りをさせる。頭をウルニの右肩に預け、ゆっくりと呼吸を始める。

「!・・・おやすみ、キョーヤ。」

「・・・ん、おやすみ。」

 どうやらこのくらいでは動じることは無いらしい。左側から感じる体温と焚火の熱でだんだんと瞼が重くなってくる。分身のウルニも見つけなきゃな・・・。腕と脚が意識の外へと持ってかれるように重くなり、そのまま、眠りについた。


「ふふ・・・。これが終わったら、3人で共に暮らすのも良いかもな・・・。」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「んぐぁ~~・・・・あ!?ちょっと~~~!俺が寝てる間になんか仲良くなってるし!!!」

 ナオキの大声と陽の光で目が覚める。何と仲良くなったんだ・・・?

「ふふ、起きたかキョーヤ?」

 ウルニが俺の顔を見下ろすように見ている。後頭部が柔らかく、空が半分だけ見える。膝枕をされていることにようやく気付き、バッと起き上がると、ウルニが少し頬を膨らませ、不服そうに俺を見てきた。

「まだ寝ておっても良かったのだが・・・。」

「い、いやなんで膝枕・・・」

「座って寝させるより、しっかり横にして寝かせた方が休めるだろうと考えたまでだ。何もやましいことをしているわけでもあるまい?」

「ちょっとー!俺にも膝枕してよーー!」

 ナオキが地団駄を踏んでウルニに要求する。お前俺とウルニしかいないからってそれはちょっとキモイぞ。

「ふふ、ナオキには今夜またしてやる。だからそう怒るな。」

「わーい!」

 

 薪を集め、ウルニが焚火を魔法で再点火する。昨日村で強奪した干し肉を炙り、パンに乗せてナオキに渡す。野宿にしては少し豪華な朝食を食べ、都心部へと移動するために焚火を消火する。

「さて、行きますか。どっちに行けばいいんだろ。」

「えーと、多分あっちの方かな?道も続いてるし、かなり遠くだけど建物見えるから多分合ってるはず!」

「それでは行くか。早めに終わらせて元の世界に帰ろうではないか。」

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る