第28話 牢獄そして壊滅
「オラ、大人しくしてろよ!」
乱暴に背中を押され、手を動かすこともできないのでそのまま倒れてしまう。
「いって・・・ナオキ、大丈夫か?」
「俺は大丈夫だけど、キョーヤ、ウルニちゃんも何もされなかった?」
目隠しをされながら連れてこられたので明確な場所は分からないが、どうやらここがあの金髪の獣耳の少女たちの拠点らしき場所なのだろう。手の縄も思ったよりキツく締められているので、解こうにも解けない。
「あんな混じり物共、我にかかれば赤子の手をひねるようなものだが、キョーヤとナオキが危ないのならば話は別だ。」
「そっか、魔法あるんだったね・・・。でも分身のウルニちゃんもここに居るかもしれないんでしょ?穏便に返してもらうためにも下手な真似はできないしね・・・。」
・・・俺たちを捕まえに来たあの少女は、俺たちの事を厄災の仲間と言っていた。もし厄災というのが分身のウルニのことを言っているんだとしたら、同じように投獄されているのか?近くにいないだけで、もっと厳重な牢屋に閉じ込められているんだろうか・・・。
「安心しろキョーヤ、ナオキ。何があろうとお前たちは我が守ってやる。」
「おい、長がお呼びだ!早く出てこい!」
何があったのかの情報交換をしていると、牢屋の檻をガンガンと叩かれた。話が通じるようなやつだと良いんだが。目隠しをされ、縄を引っ張られる。牢屋に連れていかれるときもそうだったが、よほど何かを見せたくないようだ。
「ご苦労、目隠しを取ってやれ。」
どうやら長とやらがいる場所に着いたらしい。膝をつかされ、目隠しを乱暴に取られる。中央に座っているのが長だろうか。というか、今気づいたが周りにいる人達も全員金髪だ。獣耳は生えている人と生えていない人がいる。
「もう既にそこの赤い髪をした男とは一度話したのだがね。改めて聞いておこうと思ってこう呼び出したのだ。さて聞こうか、お前たちは俺の森で何をしていた?」
刺すような視線で俺たちを睨みつける。だが、先ほど間近で感じたウルニの殺気に比べればまだマシだ。怯えること無く、しっかりと言えばいい。
「俺たちは、ある少女を探しに来た。仲間のウルニと同じ肌と髪の色をしている少女だ。調査でここの近くにその少女がいると分かり、探していた。あの森があなたたちの所有物だとは知らずに探していたんだ。なので勝手に足を踏み入れたことは謝る。申し訳ない。」
「ふん、同じことか・・・。結局、厄災を取り戻しに来たわけだ。」
「厄災・・・?」
あの少女を俺たちを捕まえる前に厄災の仲間だと言っていた。分身のウルニが厄災だと言われているのはこれで確定したが、何故あの子が・・・?
「白を切るつもりか!?お前たちが俺らの村を滅茶苦茶にしたんだろうが!!」
突然大声で怒りだし、胸倉をつかまれる。
「最初こそ善意で助けたさ、まさかガキが森の中で倒れてるなんてこと今までに全然なかったからな。だが助けた恩を仇でこうもあからさまに返されるとは思いもしなかったぜオイ!!お前たちのせいであの化け物が俺たちの家族まで殺していきやがった!!守ろうと何度も戦った!だがあの化け物の肉に俺たちの矢も槍も刺さるどころか、むしろ槍が欠けやがった!」
化け物はおそらく、魔獣の事だろう。魔獣は魔術でないと魔力の鎧を貫通して倒すことができない・・・。そして魔獣がこの村にやってきたのはおそらく、分身に含まれている魔力に反応して集まってきたのだろう。そして話を聞く限り、この人たちは魔力が扱えないのか・・・?
「あの厄災はな、今はここに居ねぇよ。」
え。
でも、ウルニの探知でここに居るのが分かったはずじゃ・・・。
「お前らが森に来る少し前にガキが連れ去られたんだ。音も被害も無く、な。これもお前らの仕業か、なぁオイ。」
長が立ち上がり、後ろの壁にかけてあった斧を取り外す。
「こんなことしたって俺の家族が戻ってくるわけじゃねぇのは分かってんだけどよ・・・。それでもテメェらがあの仲間だって言うんなら、一撃でも食らわせなきゃ俺の気がすまねぇんだよ。」
ゆっくりと片手で斧を振り上げ、俺をまっすぐと見る。
「だからよ、テメェら全員ここで終わってくれ。」
斧が俺の脳天をめがけて振り下ろされる。と同時にウルニがナオキを引き連れながら俺の前に現れ、斧を腕で弾きながら縄を魔法で断ち切る。
「キョーヤ、ナオキ!情けをかけるな!全力で戦え!」
慌てて杖を取り出し、構える。
「その棒は・・・!やはりお前らを疑って正解だった!!お前らこそが厄災だという事か!!!総員、戦闘許可する!全力でコイツらを排除しろ!!!」
四方八方から鉄の矢が飛んでくる。土の壁を前に建てるが、かなりの威力のようで何本かが突き刺さっている。
「ナオキ、離れるなよ。それと躊躇うな。こいつ等は俺らに情けをかける気が無いぞ。」
「わ、分かってるけどさ・・・。」
屋内戦はあまり経験が無い。下手に動けば分断されて1人ずつやられるのが最悪のパターンだ。
「火矢を放て!敵を外に出すな!」
外から大きな声で指示が出され、周りに火矢が撃たれる。まだ長もいるのに、諸共やるつもりか。
「そうは・・・させないよっ!」
ナオキが大きな風を呼び、飛んでくる矢の軌道を大きく変える。何本はその場に落ち、多くは呼び出した風に乗って射手へと返された。魔力を扱えない以上、人数差がこれほどにあっても戦力の差が埋め切れていない。
「うおおおぉぉっ!!!」
槍や剣を持った突撃兵が俺たちの元へ向かってくる。出来る限り殺したくはないが、しょうがない。動けないくらいにはしておこう。
「マッド・・・シュートッ!」
泥の弾丸を作り出し、突撃兵の顔や足をめがけて放つ。敵に当たった泥の玉は魔力を失って急速に乾いていき、敵の動きを鈍らせる。そのまま動かないでいてほしいが。
俺たちを狙ってやってくる兵はあらかた無力化した。残りはウルニの方だが、あいつが苦戦するとも思えないが、一応見に行くことにしよう。
「このっ化け物めが!!」
長の振り下ろす斧を平然とした顔で殴って弾き返す。弾く前に少しだけ炎の残影が見えたので前に城に襲撃してきた男の魔法を真似ているのだろうか。
「ほれどうした、少し遅くなっているぞ。我を殺すのではなかったのか?」
けして長の振る斧が遅いわけではない。俺やナオキが戦ったら普通に負けそうなくらいには早い斧だ。しかも長の体格もかなり大きいはずなのに、攻撃を避ける時に見えるステップや、次の攻撃へと移る速度は見惚れるものがある。
ただ相手が悪い。魔法という未知の力を使い、攻撃を全て無力化してくる敵なんて想像しただけでも戦いたくない。
「・・・ここだっ!『シャドーロカム』!」
長が斧を後ろ手に持ち、何かを発動した。といっても何かが起きた感じはしない。
「今更小細工か?無駄な・・・ことを!」
ウルニが長の腹に向けて掌底を放つ。これで決まりだと思っていた。
掌底が腹に打ち込まれたと同時に、長がウルニの背後から現れた。
「何・・・?」
「これで終わりだ厄災!はぁぁぁっ!!!!」
斧の刃はウルニの背中をしっかりと捉えていた。だが、その刃はウルニに届くことは無く、あと指1本分という所で魔力の鎧に阻まれていた。
「ふん、面白い力を使うな。殺すのは、やめだっ!」
ウルニの後ろ蹴りが長の腹に直撃し、大きく吹っ飛ばされる。監視塔と思われる建物に激しく激突し、長は気絶してしまった。
「ウルニって体術できるんだな・・・。」
「魔法もできて接近戦も大丈夫ってすごいね・・・。絶対逆らえなくない?」
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