スキルの存在する世界にて

第27話 別世界

 ゲートをくぐりぬけると、妙な浮遊感を少しだけ感じた後、地面が無いことに気づく。

「うわぁっ!?」

 バシャーン!!!!

 顔から水の中に入ってしまい、慌てて顔を水上に出す。

「ゲホッゲホッうぇっしょっぱ!!なんだここ!?」

 顔を上げ、周りを見渡しても全く地面が見つからず、海の真ん中に転移してきていることに気づいた。

「おや、すまんな。まさかこういった場所とは。」

 遅れてやってきたウルニが魔法を使って俺たちを水中から引き上げ、空中に立たせる。これも魔法なのだろうか、地面が無いはずなのに立っている感覚に違和感が拭えない。

「うぇーぺっぺっ。海水飲んじゃった・・・。」

「ゲホッ、びっくりした・・・。というか・・・。」

 改めて周りを見渡したり、遠くを細めで探しても地上が無い。

「ふむ、何もないな。こういったのは初めてだ。」

「分身の場所とかわからないのか?」

「いや、分身の近くにゲートを開けたはずなんだがな。どうやらゲートは高さに関しては設定ができないようだ。というか、今までは地上につながっていたからな。」

 高さ・・・。じゃあ上だったりするのかと思い、空を見上げると大きな島が浮かんでいるのが見えた。

「も、もしかして・・・あれか?」

 どうやらその分身が立っている島の真下にいると思われる。地面を下から見上げるといった新体験に面白くも思ったが、あの島が落ちてこないかという心配が後からやってきて、少し怖くなった。

「なるほど、上だったか。次からゲートをくぐる時はお前たちに浮遊魔法をかけてからくぐることにしよう。危ないからな。」

 掴まれと言われ、ウルニの右手を握り、ナオキが左手を握ると高度が上がり、どんどんと海面から離れていった。やがて下を見るのが少し怖くなり、バッと顔を上に向けるといつの間にか島にかなり近づいていた。

「ふふふ、もう少しだ。我慢できるな?」

 ・・・どことなくウルニは俺の事を子どものように見ている感じがする。この年になってからかわれることもあまりなかったので、どう返していいのかあまり分からないがとりあえず大丈夫とだけ返しておいた。


「そら、もう手を放してよいぞ。」

 ウルニがそう言ったので手を放し、地上に立とうとしたのだが。

ギュ~…

 なぜかウルニが俺とナオキの手を掴んで離さない。キョロキョロと周りを見ながら分身を探しているようで、俺たちの手を握ったままなことに気づいていない様子だった。そんなことあるのか。

「ウルニちゃんが手掴んでるから俺たち放せないけど、どしたの?」

「・・・むっ?あ、あぁすまない。ほら、放したぞ。」

 表情に焦りが少し見え、慌てて手が解放された。ホントに人間を嫌ってるのかとふと思ったが、俺たちだからなのだろうかと少し自惚れる。

「ここらへんに分身のウルニちゃんがいるの?」

 先ほどは見渡す限り青だったが、今度は緑色で埋められてる。わざわざ森の中で合流するのかとも思ったがゲートを見られても確かに面倒くさいし、人目のつかない場所がちょうどいいのだろうと納得した。

「ふ~~~ん・・・なんか、あんまり俺たちの所と変わんないね。もっと機械とか見たことも無いものがいっぱいあるのかなって思ってたけど・・・。」

「人の文明の違いはあるが、自然はどこでもほぼ同じだな。木があって、水があって、生物が存在する。強いて言うのならば生物の違いはあるかもしれないな。例えば・・・ほれあそこに。」

 そういってウルニが指差した方を見ると、緑色のゲル状の生き物なのか分からないものが、粘液を通った跡に残しながら動いているのが見えた。何だあのキモイのは。

「うわっ何あれ!?確かに見たこと無いけどちょっと気持ち悪い!」

 ウルニがそのバケモノを手で触れないように魔法で浮かして自分たちの元に近づける。浮かされているのも分かっているのかそもそも知性があるのかもわからない。ずっとボタボタと粘液を地面に落としているのが怖かった。

「ふむ、これと似たやつは幾度か見たことがあるな。そいつは水色をしておったし、こんなに汚くはなかったような気がするが。」

 目も口も見当たらない。声に若干反応しているような気がするので、目や耳が無い代わりに振動で場所を探知しているのだろうか。魔獣と家畜以外にも生物が存在するのかと思い、じろじろとそいつを観察していた。すると足元が少しひんやりと感じ、なんだと思い下を向くとその緑色のバケモノから出ていた粘液が動いて俺の足に張り付いていた。

「ウワーーーッ!?何なにナニ!?だ、誰か助けて!」

「落ち着け、我が取ってやろう。」

 ウルニが魔法で取ってくれたが足がひんやりとした感覚がまだ残っているような感じがして少しゾワゾワする。

「先ほどから粘液を垂らしていると思ったが、これは分裂だったのか。まぁこういったように見たことの無い生物もいるから、あまりうろつかないようにしておくのだなナオキ。・・・ナオキ?」

 ウルニがナオキを呼ぶが全く反応が返ってこない。どうしたのだと思い後ろを振り向いたのだが、誰もいなかった。どこ行ったアイツ!?

「ナ、ナオキーーッ!!?どこ行ったーー!!??」

「・・・あれか。」

 ウルニが何かを見つけたのか森の奥を睨みつけ、俺を置いて飛んでいく。

「あっちょっ、ちょっと待て!!」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 キョーヤとウルニちゃんと一緒に異世界を楽しむはずが、俺は今誘拐されていた。もごもごと口を動かそうにも猿轡を噛まされて喋れない。

「・・・静かにしていろ、暴れるなよ。お前の命は私の手の中なのだからな。」

 目隠しをされているので分からなかったがどうやら声の感じから女性のようだ。抵抗しようにもしっかり手足も縛られているし動けない。あのウルニちゃんがいるなら多分大丈夫だと思うけど、攫われてる途中でキョーヤの悲鳴がちょっとだけ聞こえていた。何があったのかまでは分からなかったので、大丈夫だろうか少し不安になる。


「おい、連れて来たぞ。」

「うむ、ご苦労。見張りに戻ってくれていい。」

 どうやら目的地に着いたらしく、床に下ろされた。

「少々手荒になってすまないね。おい、目と口は自由にしてやれ。」

 少し乱暴に目隠しと猿轡を取られると、暗闇に慣れていた目に光が差し思わず瞼を閉じてしまう。

 光に慣れてきたのでゆっくりと前を向くと、そこにはまるで山賊のような風貌をしている金髪の男が椅子に座っていた。髪色は金髪で眼帯を左目に着けている。座っているので明確な背丈は分からないが、明らかに僕よりは大きいだろう。

「さて、俺の質問に答えてくれ・・・あの森でお前たちは何をしていた?」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「ウ、ウルニ・・・ちょ・・・ちょ、ちょっと・・・待って・・・」

 ウルニがナオキが居たであろう方向へビックリするような速度で飛んでいくのを走って追いかけるが、あまりの速さで飛んでいくので一瞬で粒のような小ささになってしまった。息も切れて、足がもつれそうになる。

「おっ・・・あいてっ」

 急いで追いかけたせいで足元の注意がおろそかになり、木の根に足を引っかけてしまった。

「!!!だ、大丈夫か!」

 向こうに行ってしまったウルニが慌てて戻ってきて俺を立たせる。

「す、すまない・・・。大丈夫か?」

「あぁいや、こけただけだから・・・。大丈夫だよ、それよりナオキがどこに行ったのかは分かってるんだよな?」

 ウルニは頷き、改めて魔力を霧散させ周囲を感知する。


「・・・!キョーヤ、危ない!」

 何かを見つけたようで背中に手を回され、ウルニの傍に引き寄せられる。するとさっき立っていた場所にどこからともなく矢が飛んできた。


「・・・え?」


 明らかに命を狙った一撃が俺のいた場所に飛んできたという事実を確認し、一気に血の気が引いた。何かも分からない誰かに命が狙われてる恐怖。

「・・・絶対に離れるなよキョーヤ。」

 何かができる感じでも無さそうなので黙って抱かれていることにする。しばらくそのままにしているとどこからか声が聞こえてきた。

「・・・お前たちは何者だ、何をしにこの森へと足を踏み入れた。」

「チッ・・・背丈は小さく、我と同じ肌と髪の色をしている者がこの付近にいるはずだ。そいつを回収しにきただけだ。」

「ふん、やはりお前たちがあの厄災の仲間か。ちょうど今1人が捕まったところだ。」

 ・・・もしかして、ナオキのことか。

「!!!・・・貴様ら、もしそいつに傷をつけたら許さんぞ・・・。」

 ウルニがぞっとするような殺気を放ち、威嚇する。周りの音が急に止み、静寂が場を包んだ。

「・・・お前たちの仲間が無事に済むかどうかは、お前らの態度次第だということを忘れるなよ。」

 おそらく女性と思われる襲撃者の声でハッとする。そうだ、ナオキがもう捕まっているのならば安全ではない。

「ウ、ウルニ。ここは大人しく従うしか無いかもしれない・・・。もし逆らってナオキが殺されたらそれが一番最悪だ。許せないのは分かるけど、殺気は仕舞ってくれ・・・。」

「む・・・。」

 明らかに納得のできない表情をしながら殺気を収め、無抵抗の意思表示のため2人で両手を上げた。


「・・・ふん、最初からそうしていろ。愚図が。」

 しばらく経って俺たちに抵抗の意思が無いことに気づき、姿を現した。こいつがナオキを攫ったのだろうか。背丈は俺ほどで金髪が森の中でも輝いて見えた。髪色も綺麗なものだったが、特に目を引いたのが、頭から生えている獣の耳だ。これが本物なら、あの森の中でも寸分違わずに矢を射ってきたのにも納得がいく。


「抵抗するなよ、目隠しと手に縄をかけさせてもらう。」

「・・・その男は丁重に扱うことだな。我がお前たちに何をしでかすかわからんぞ。」

「・・・まだ立場が分かっていないようだな。」

「痛ッ!?」

 突然前髪を掴まれ、羽交い絞めにされる。ぴたりと首元に何かが当たり、ピクリとも動かせなくなってしまった。

「分かるか?貴様のその不用意な発言でこの男が死ぬかもしれないんだぞ?口に気を付けることだな。」

「貴様・・・!!!!」

 ギリィッと歯ぎしりの音が聞こえ、明らかに一触即発の雰囲気になる。

「ちょ、ちょっと待って!俺が謝るから!ウルニ!落ち着いてくれ!大丈夫だ、俺たちは別に何もしない!ただ貴方たちが捕まえたっていう男に会わせてくれればいいんだ!頼む、抵抗はしないから!」

「フン、お前がその女の飼い主か?ならしっかりと手綱を握っていろ。さもなくば全員死ぬだけだ。」

「分かった、約束する。だから殺すのだけは、どうか、やめてください。」

「・・・チッ。おい、さっさと連れて行くぞ。」

 パッと手を離され、腰が抜けて地面にへたり込んでしまいそうになったが、縄を引っ張られ強制的に歩かされる。ただウルニの分身を引き取りに来ただけなのに、どうしてこうなってしまったんだ・・・。

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