第23話 嵐の前の静けさ

 訓練場に魔術を撃ちあい、相殺される音が鳴り響く。

「ベル!」

「了解!」

 後ろから氷の矢が放たれ、まっすぐ相手の前衛へと向かって行くが全て華麗にいなされてしまう。相手の杖が振り上げられているのを見てから、下から槍を振り上げ敵を後ろへと下げさせる。

「お嬢様。」

「えぇ、分かっているわ。」

 後方へと下がり、風の加護を受けてからもう一度打ち合いに向かう。炎の槍と風の加護を受けた土の剣がぶつかり、そのまま硬直する。

「へへ・・・甘いっ!」

 炎の槍に魔力がこもり、鍔迫り合いになっていた場所に爆発音が鳴る。

「ぐっ・・・!」

 体勢を崩したところを見逃さず、杖を弾き飛ばし、槍を首元に沿える。


「しゅ~りょ~!勝者ジーク&ベルチーム!」

 ナオキの間延びした声が勝敗を告げ、模擬戦が終了した。

 ここは、マールク国の隣国であるミシル国との国境の近くに存在する、リュミナテ魔術学院の訓練場。今日もまた生徒同士の模擬戦が行われていた。

「よっと、大丈夫か?」

「あぁ・・・やはり接近戦ではお前に分があるな。」

 ジークがグロウの手を持って立ち上がらせ、服の土を払う。お互いに握手をしてから、全員が俺の元へと集合してきた。

「おし、今日の模擬戦も終了だ。最初のころに比べてだいぶキレもよくなってきてるし、戦況の把握もできてきてるな。」

 俺たちがこの学院に来てから満月を4回見た。最初のころこそ全員の魔術は拙いものだったが、今やもう立派な魔術師を名乗っても良いほどの実力がついてきている。

「さて、今日は敗因は何か分かるかな。」

「はい、自分の有利な立ち位置を維持できずに相手のテリトリー内に入ってしまったことです。」

 戦闘の基本は自分の有利を押し付けること。相手にとって有利な場所で戦えば、一瞬で倒されてしまう。そのため自分の得意な距離や立ち位置を理解することが重要だ。


「よし、次は・・・ウルニ&ナオキと、ジーク&ベルだな。」

 生徒の総人数が5人のため2人組を組んでしまうとどうしても1人余ってしまう。そのためナオキに緊急で助っ人として来てもらい、模擬戦に参加してもらっている。

「ナオキィ・・・あたし大丈夫かなぁ・・・」

「暴発しなきゃだいじょーぶだって!それに俺もサポートに回るだけだし、ウルニちゃんが主役なんだから、頑張ってね!」

 ウルニはこのクラスの中で一番魔術が使えていない。初授業でナオキにウルニのことを任せていたのだが、魔力を込めることで色がつくガラス玉が白色に光りだしていたらしい。基本魔術を込めてもガラス玉に色が綺麗につくだけなので光るのは見たことが無かったし、それも赤色や青色でなく、白色に光っていた。俺とナオキでも見たことのない魔術を教えることは流石にできないので、何もできない。そのためウルニは魔術を探り探りで使い続けている。


「それでは・・・始め!」

「相手がウルニなら楽勝だな!行くぞベル!」

「油断はしないでよ!」

 ジークが炎の槍を発動してからまっすぐ突っ込んでくる。

「うぁぁ・・・!どどどどうすんのー!」

「落ち着いて!ほら加護あげるからしっかり見て避けたら大丈夫だから!」

 ナオキがウルニに風の加護を付与し、避けさせる。

「ほらほら!避けてばっかじゃ戦えねぇぞ!」

 炎の槍を中央で割り2つの剣のようにして扱う。連撃を繰り返し、ウルニを攻撃しようとするが、風の加護のおかげでそのほとんどが空振りになっている。

「くっそぉ!あたしだって!!おりゃ!」

 杖を振るが、魔術は発動しない。魔力はあるのになぁ・・・。

「おらっ!」

 何も起こらないのを確認した後にジークが槍でウルニの杖を弾く。魔術が使えていないのでウルニはずっと負け続きだ。あの時使っていた魔術の正体を掴むためにここに入れたところもあるのだが、この調子ではなかなか使えるようになる気がしないな。


 授業を早めに終わらせ、教員室へと戻る。夜のミーティングまで明日の授業の準備をしておこうと思うと、ミデルさんが俺を呼んだ。どうやらウルニが来ているらしい。

「どうしたんだウルニ?」

 場所を変えて空き教室に行き、1対1で話す。何をしに来たのだろうか。

「あ、あのさ・・・。あたし魔術使えないじゃないですか。」

「あぁ、うん。」

「その、何でなのかなぁって・・・。」

 何で、何でと来たか。単純に自分たちが知らない魔術を教えることができないと言うのもある。一応資料を探してみてはいるがそれっぽい資料が全く見つからないので、教えるのが難しい。

「何でっていうか、そのみんなはどうやって自分の魔術見つけたんだろうって思ったんです。みんな既に魔術を見つけた状態でここに入学してたみたいだし・・・。キョーヤさんは自分の魔術ってどうやって見つけたんですか?」

 なるほど・・・。自分の魔術ねぇ・・・。

「・・・俺ってさ、お兄ちゃんしか家族がいないんだ。お母さんとお父さんが魔獣に襲われて亡くなっちゃってさ。死にかけだった時お母さんとお兄ちゃんを守るって約束したんだよ。そんでそっからもうずっと魔術の練習してたかな。衛兵の人達が魔術を使ってるのを見たっていうのと、魔術が使えないと魔獣から助けられないじゃん。だからそのために死に物狂いで練習してたかもな・・・。んで人が戦ってるのをしっかり見てこの魔術を俺も使えたら戦えるだろうっていうので魔術の練習したな。」

「へぇ・・・。もしかして模擬戦の観戦とかをさせるのってそういう目的もあるの?」

「そうだな。技はできる限り盗めれば強くなれる。手数が多いほど動ける範囲も大きくなるからな。あと、俺の魔術は見て真似しようと自分で作ったのがほとんどだ。魔力消費がやばかったりするものは使ってみて体感しないと分からないからな。作ったけど結局使わなかった魔術もいっぱいある。ナオキにももう聞いたのか?聞いてないならあいつにも聞いてみろ。俺よりかはあいつの方がこういうのを教えるのは得意なはずだ。」

「なるほど・・・ありがとうキョーヤさん。ナオキにも聞いてみるね。」

 扉を閉めて廊下を走っていくウルニを見送り、ここ最近忙しかったので久しぶりにお母さんの事を思い出した。あの日の光景が脳に焼き付いて離れない。思い出したくもないが、それ以上に忘れてはいけない思い出だと感じている。


「ナオキー!」

 大きな声で僕を呼ぶ声が聞こえた。どうやらウルニが来ているみたいだ。

「どしたのウルニちゃん?」

 ウルニに連れられて1対1になれる場所へと連れてかれる。どうしたんだ一体。

「ねぇナオキ、ナオキの魔術ってどうやって見つけたの?」

「だいぶ急だね、俺の魔術・・・どうやって見つけたっけなぁ。」

 俺の過去について話しても良いけど、こんな小さい子に聞かせる内容じゃない気もするしなぁ。適当にごまかしておくか・・・。

「う~~ん、そうだね。魔術師ってさ今もそうだけど迫害されてるじゃん。それで自分が魔術師だって知ったときさ、俺嫌だったんだよね。何で魔術師なんかになったんだろって思ってたんだけど、幼少期に魔獣に襲われかけた時があってさ。その時に助けてくれた魔術師がすっげーかっこよかったんだよね。そこから憧れるようになって、その助けてくれた魔術師に近づきたいって思ってから学院にも来たんだよね。んで自分の魔術を見つけたのはその学院での授業中だったね。先生が丁寧に教えてくれたから時間はかかったけどしっかり自分の型に合う魔術を見つけたよ。」

「ふーーん・・・はぁやっぱり練習しかないのかなぁ。」

 ウルニが机に顔を乗せ、だらんと脱力をする。どうやら自分だけ魔術ができていないのが不満らしい。

「分かるなぁ。自分だけ魔術ができないのは誰でも焦るよ。周りができてるんだもんね。」

「そうよ!周りのみんなができてるのに自分だけ魔術が発動できないんだもの、魔力はあるのにこれじゃ意味が無いわ。」

「でもまぁ、さっき言った通りコツコツ練習するしかないかもね。それにキョーヤも言ってたでしょ。魔術師たるもの焦ってはいけないって。」

「できることもできなくなるぞって言われたけど・・・。ぶぅ。」

 あの時俺たちを助けた魔術を見せる素振りも無いから、あれはやはりウルニでは無かったのだろうか・・・。

「大丈夫だって。魔力がある以上いつか絶対に魔術は見つかるんだから。」

 そう言って頭を撫でようとした次の瞬間。


ビーッビーッビーッビーッ!!!


部屋全体にアラームが鳴り響いき、続けて放送が流れる。

『緊急事態発生!緊急事態発生!学院にいる教員と生徒はすぐに教員室に集まってください!繰り返します!緊急事態発生!』

「なっなに!?何なの!?」

「とりあえず放送通り教員室に集合しよう!行くよ!」

 ウルニの手を取って教員室へと急ぐ。一体何があったんだ。

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