第22話 決闘

「それでは改めてルールを確認しますわ。」

 ここはリュミナテ魔術学院の訓練場。ここでは若き魔術師の卵たちが魔術を学び、扱えるようになるための訓練をする。そこに赤い短髪をした少年と茶髪の青年がお互いに杖を右手に持って向き合い、まさに一触即発だった。

「キョーヤ先生とジークくんの魔術模擬戦。キョーヤ先生はハンデとしてその立ち位置から一歩でも動けば問答無用で負けといたします。そして勝敗は杖を落とした方の負けといたします。双方よろしいでしょうか。」

「「問題ない。」」

 レイナが進行を務め、キョーヤとジークが距離を取って向かい合う。

「それでは・・・始め!」


「最初っから行かせてもらうぞ!」

 炎の槍を発動し、一気に距離を詰めていく。せんせーは動かないハンデがある。であれば、狙うのは死角からの不意打ち。のために、まずは正面から気を引く攻撃を繰り返す!右から大きく振りぬくのを土の壁で防がれる。即座に槍を戻し、連続で攻撃を繰り出す。いつかは隙ができるはず・・・!


 ・・・とでも思ってるんだろうか。盗賊との戦いから何も学んで無いなコイツ。そして初授業での模擬戦の事ももう忘れてるんだろうか。あの時も無作為に突っ込んで連撃を繰り出している最中に後ろから飛んできた石のトゲにやられて負けていたが。とりあえず同じことをしてみるか・・・流石に対処するだろ・・・。

ジークの背後の土に魔力を通し、土を固めたトゲを作りジークの死角から攻撃する。どうやらそれは読んでいたらしく、炎の槍で相殺された。

「それは知ってるぜ!」

 そらそうだ。というか防いでもらわなきゃ困る。


 何度かの打ち合いの後にジークが後方に飛び、距離を取る。ベルは気が気でない様子でその戦いを見ていた。

(勝てるわけないじゃん!いくらジークが魔力いっぱいあるからって炎の槍発動し続けてたらすぐに魔力が尽きちゃうって言ってるのに・・・!しかも相手は魔術師で傭兵稼業もしてるんだよ!?ホントになんであんなやっすい挑発に乗っちゃうかなぁ~~~!!!!あぁ~~~~もう!!!)

 元から喧嘩早いところもあったし、魔術を使えるって知ってからずっとあの魔術しか使ってきてなかったジークが手数が圧倒的に多くて戦闘経験も圧倒的に豊富な先生に勝てるわけがない。

「・・・アイツが勝てる未来が見えないな。」

 そう零してしまったと思っていたが、どうやらそれはグロウの言葉だったらしい。自分の考えを言い当てられたかと思って少し驚いてしまった。

「そうねぇ・・・あの槍の魔術が一生続くとかでもない限り無理でしょうね。一生続いたとしても先生の勝ちでしょうけど・・・。」

 ウルニもそれに賛同する。どうやら見ている全員がジークが勝てるわけがないと思っている。そりゃそうか・・・。


「・・・そろそろかな?お前はホントに授業を聞いていないんだな。」

 せんせーのストーンショットを何度か脚に掠められたり、避けているうちにどんどん体力が削られていき、いつの間にか息が上がっていた。

「魔力回復のために距離を取ったんだろうが、俺は元より遠距離戦の方が得意なんだ。だからお前の取った行動は全部悪手だよ。お前があの連撃をやめずに続けることができたら一突きくらいは食らわせれたかもな。」

 何とか回復した魔力を炎の槍に使う。まだ、負けてない。槍を持つ手に力が入り、魔力を一気に流す。少し、槍が大きくなった気がした。せんせーとの距離を詰め、全力で突きを放つ。

「ぐぅっ・・・ぜぇぇぇやぁぁぁ!!」

泥の壁に阻まれるが、それでも槍は引かず魔力を炎の槍に流し込む。


 最後の魔力を振り絞っての攻撃だろう。言うほど残っていないはずなので威力は弱いはず・・・と油断すると足元をすくわれる。む、炎の槍が少し大きくなってないか?真正面からジークが突きを放ってきた。泥の壁で冷静に防御をするが、どんどんと威力が強くなってきている気がする。泥にとられているのを逆手に魔力を槍に集中させて威力を高めているのか・・・。土壇場で輝くタイプだなコイツ。しかも、別の魔術の併用も無意識でしているなこれ。炎の槍のサイズが少し大きくなっているのと、泥の壁に触れている部分で小規模な爆発が連続で起きている。さっきまでの攻撃には無かった。とか考えていると攻撃が止んだ。防御を解除すると、目の前でぶっ倒れているジークが居る。魔力切れか・・・。


「ジークくん戦闘不能!勝者、キョーヤ先生!」

「はい、俺の事は良いから一応そいつ手当しておいてやって。」

 レイナとグロウにジークの手当を任せて、残りの全員を集合させる。

「さて、俺とジークの戦いを見て気づいたこととか、ジークの勝ち筋があったかを言ってみろ。」

 レイナが手を挙げて答える。

「ジークさんの勝ちはほぼありませんでしたが・・・、彼の最後の攻撃に気になるところが。槍の当たっている部分が少し爆発を繰り返していました。あれも魔術の併用の1種なのでしょうか。」

 よく見えていたな。あれは魔術の併用というか・・・、ムギも似たような魔術を使っているのでムギに聞くのが早いんだが、この場にいないからな。お前たちが2種類以上の魔術を使えるようになってから話すことにする。

「キョーヤさ・・・先生が動いていないから不利かと思ってたけど、その分魔力を込めるのに集中ができるから相殺されることがほとんど無かったですよね。もしかして不利な条件に見えて有利だったんですか?」

 正解。ジークは頭に血が昇っていたようだったのでそこに気づいておらず、魔力の調整が上手くいっていなかった。魔術師たるもの常に冷静でなければ、勝てる戦いや気づける特徴を見落とすことになってしまう。

生徒たちに教えていると、もうチャイムがなってしまった。

「もうこんな時間だったか・・・、おし今日の授業は終了!今日の宿題は、魔術の併用を教えたから、そろそろ珠を2色に染められるように練習しておけ。ちゃんと体力は考えてやれよ。」

「「「「ありがとうございましたー!」」」」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 教員室でのミーティングも終了し、シャワーを浴びて自室に戻ろうとしたとき、ナオキが俺を呼んでいた。

「どうしたナオキ?」

 そう尋ねると、一枚の封筒を渡してきた。

「ハイこれ、お兄さんからの手紙だと思うよ。」

 ナオキの手から封筒をひったくるように取り、急いで封を開ける。

「お、お兄ちゃんだ。やったぁ・・・!」

「俺はもうそろそろ寝るねぇ・・・。明日の授業の用意もあるし、おやすみー。」

 ナオキに礼を言ってから自分も自室に入って手紙を読む。ミズキが助けてくれた話や、ドメルであった屋台のご飯が美味しかった話、昨日自作した創作パスタ料理が美味しかったらしくレシピも書いてくれている。今度暇なとき作ることにしよう。本当ならお兄ちゃんに毎日手紙を送っても良いのだが、そう書くことが無いのと、ナオキにそのことを話したら「お兄さんいつかうんざりしちゃいそうだね」と言われた。その場ではそんなこと無いと反射で言ってしまったが、その後1人でベッドでそのことを考えていると確かに自分が毎日手紙送られてきたら嫌だなと思って毎日送るのはやめておいた。

「んふふ・・・。お兄ちゃんも無事そうでよかった、ミズキもちゃんと仕事してるみたいだし。よし、そろそろ寝るか・・・。」

 兄が安全であること祈って、布団をかぶる。明日の授業も頑張れそうだ。

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