第21話 魔術の授業

「ど、どうだ・・・やっと綺麗に染まったぞ・・・!」

 ジークがふらふらになりながら綺麗な赤色に染まったガラス玉を見せつけてきた。あれからしっかり毎日この練習をしていたのだろう。ただ自分がふらふらになるまで練習するのはやめておけと前も言ったはずなのだが、聞いてくれる様子が無いな。

 初授業の夜は立派な満月が見えていたのだが、今はもう月が隠れているくらいの時間が経った。ナオキが日が昇り切るまで魔術に関する講義を開き、俺が日が隠れるまで魔術の実践訓練をする毎日。ようやく生徒全員が珠を綺麗に染めることができるようになり、進んでいる者は2色の珠を綺麗に作っていた。ウルニも、0からのスタートのはずだったのだが珠を綺麗に染めることができていたため、全員と一緒に訓練している。今はレイナと一緒に2色珠の作り方を教えてもらっているようだ。

「よし、これで全員染めれるようになったな。全員集合!」


 個別で魔術の訓練をしているみんなを呼び、次に行う訓練を伝える。

「全員が綺麗に珠を染められるようになったところで、この訓練の目的が何なのかというのは覚えているか?グロウ、答えてみろ。」

「はい、魔力調整ですよね。自分の任意の魔力を魔術に込めれるように。」

 正解。

 魔力を杖などの媒介となるものに通し、呪文を唱えて発動する魔術。魔術には魔力をいくらでも通すことができ、魔力を込めれば込めるほど発動した魔術の硬度が上がる。これによって同じ魔術を放ったとしても魔力をしっかりと込めた方が飛距離が伸びるし、相殺されにくくなる。

「ということで、お前たちがしていた今までの訓練は自分の魔術の硬度を上げるという目的があった・・・。ただ、戦闘において魔術に魔力を込めるというのはすぐにできるものではない。止まって集中した方が魔力は込めやすいが、それでは隙が大きすぎる。かといってしっかりと魔力が込められていない魔術は威力負けしてしまうことだってある・・・。さて、ではここで問題だ。魔力を込める以外の魔術の硬度の上げ方を答えてみろ。」

 おそらくこれはナオキの講義でもしっかり触れているはずだ。そう思っていると、レイナが手を挙げて答えてくれた。

「はい、他の魔術と組み合わせて使えば、魔術の硬度が上がります。」

 正解。

 と言ってもこれも簡単にできることでは無いのだが、魔力を立ち止まってずっと練り続けるよりかはマシだ。そう教えようとするとジークが手を挙げていた。

「どうしたジーク」

「質問なんだけどさ、何で魔術組み合わせるだけで硬度が上がんの?それこそ俺のファイアランスみたいにさ、炎ずーっと纏わせて魔力込めて維持したらよくない?」

 どうやら質問だったようで頭の後ろで手を組みながら俺に聞いてくる。こいつには俺の話を聞くこと以前に先生に対する礼儀から教えなきゃいけない気がしたきた。

「良い質問だが、敬語使えればもっと完璧だったな。そんでその質問の答えはな、それをできるやつが限られてるからだ。」

 ジークのファイアランスや、ムギが使う炎の剣のように魔術を何かに纏わせたまま戦うというのは、簡単そうに見えてかなり難しい芸当だ。まず魔力を継続して纏わせ続けるのと、魔術を持続的に発動させ続けるのにはかなりの集中力がいる。ムギ曰く1度コツを掴めば後は簡単だと言うが、そのコツを掴むまでが難しい。習得までが難しいが、使えれば強力であり、魔術師は基本近接戦が苦手なので相手の意表を突くのにはばっちりだろう。ただデメリットとしては燃費が異様に悪い。いわば魔力をずっと使い続ける魔術のようなものなので、一瞬で魔力が切れてしまう。実際前ジークが盗賊と戦ったときも魔力が切れて危うく殺されるところだった。

「へぇー・・・じゃあ俺ってスゲーってこと!?」

 こいつ何の話も聞いちゃいないな。まぁ凄いのは凄いんだが・・・。コイツのやってることムギの劣化版と同じだし・・・。ここで自惚れられても困るんだが、まぁ一応言わせとくか。

「ただその凄いやつを、もっと凄くできる方法がある。それが魔術の併用だ。ナオキが教えたとは思うが、改めて何故魔術を2つ以上複合して使うと強くなるか説明しておくぞ。」


 1個の魔術に必要な魔力を簡単に数値として100として説明するぞ。魔術を撃とうとすると、100の魔力が自動的に一気に消費され、即発動する。そして失った魔力は空気中に存在している魔力を吸収し、徐々に回復していく。ここまでは普通の魔術だ。

 そして魔力を込めるというのはだな。魔術を即発動するのを抑えて、杖に魔力を留めることで100の魔力消費を120にまで押し上げるものだ。100は魔術を発動するのに使われるが、余剰分の20が魔術の硬度を上げるのに使われる。

 それでは本題で、魔術の併用が何故魔力を込めるのと同等の意味を持つのか、だ。例えば俺の土魔術のストーンショットと、土と水の複合魔術のマッドシュートで話そう。どちらの魔術も土魔術で土の塊を作るのに100の魔力を使うところまでは同じだが、マッドシュートはその土を泥にするために水を魔術で加える。それに使う魔力が20であったとしたら、マッドシュートで使う魔力量が120となる。魔力量の違いも重要だがここで必要なのは発動にかかるまでの時間だ。ストーンショットで120の魔力を使おうとするとどうしても溜めの時間ができてしまうので、戦いの場で後手に回ってしまう。だがマッドシュートで120の魔力を使えば、魔術の併用なので溜めの時間が要らず、即発動ができる。これが魔術の併用の強みだ。ただ、もし相手がいつまでも詰めてこないような相手なら溜めて相手を焦らせたっていい。場合によって使う魔術を使い分けるのが一流の魔術師だ。


「さて、分かったか・・・、オイコラ。」

 船を漕いでいたジークとウルニの頭を叩く。そんなに俺の声は眠たくなるか。

「せんせー話長ぇよ。ナオキ先生に教えてもらうしそんなんいいって。」

 ムッカつくなぁ・・・。ウルニは反省しているようなので良いとして、こいつには今一度色々と教えてやった方が良いかもしれないな。

「よーし分かった。ジークお前、1回俺と模擬戦するか。お前が勝ったら俺はお前の態度についていちいち言わないし、好きにやらせる。ただ、俺が勝ったらお前は態度改めろ。」

「えっ!・・・あいや、せんせー実戦経験圧倒的にあるじゃん。ハンデ無いと俺絶対勝てないし。」

 それもそうか、相手は魔術覚えたての子ども。俺がボコボコにするのは流石に大人げが無さすぎるな。ふーむ・・・。

「よし分かった。ならハンデは、俺は最初に立つ場所から1歩も動かない、だ。そんくらいでちょうど良いだろ。」

「・・・へぇ、そんなになめられてんの俺。ちょっとムカっとしちゃった。ホントにそれでいいの?」

「ダメならもっと付け足しても良いが、お前のプライドが許すかな?」

「ムッカーーー!!!じゃあ良いよそれでやってやる!!早く構えろ!!!」

「ちょ、ジーク・・・!」

 ベルが慌てて引き留めようとするが、ジークはもはや聞く耳を持たず、訓練場の中心に向かっていた。よし、やるか。

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