第20話 授業後

キーンコーンカーンコーン

 授業の終了を告げるチャイムが響く。空が赤く色づいてきており、知らない間にかなりの時間が経っていたらしい。

「よし、今日の授業はとりあえずここまでだ。そのガラス玉は渡しておくから、綺麗に色がつくようになるまで毎日欠かさず練習すること。もしそれができるようになったら今度は中に別の色を付けることだ。」

「ぜ、全然綺麗につかねぇ・・・!」

 ジークが絶望したような表情でガラス玉と向き合っている。別にすぐにできることではないとは伝えているが、ムキになって濁った色のついたガラス玉を握りしめて魔力を込めている。案の定ベルはしっかり綺麗にできているので、やはり魔力の調節に関してはなかなかのセンスの持ち主のようだ。これは魔術師になった後もかなり期待できる。レイナとグロウも綺麗な色を付けることはできるようになってきてはいるため悪くは無いのだが、色がまばらだったりする。

「ジーク、ムキになるのは良いが、焦るとできるもんもできないからな。」

「分かってるよ!クソッ、ベルは綺麗にできてんのに~・・・!!」


 そういって俺は教室を出て教員室へと戻ろうとすると、途中でナオキと合流した。教員室へと一緒に戻り、今日の本来の授業担当だった坊主の教師に授業内容を伝えた。が、どうやら興味が全く無いようでこちらに見向きもせず適当に返事をして聞いていた。

 その報告が終了したところでちょうどミーティングの招集がかかる。ミデルさんが今日のまとめと明日の連絡事項を伝え、解散が言い渡された。その後にミデルさんにナオキと一緒に呼ばれたので、ミデルさんの元に行く。

「本日はお疲れさまでした。初授業でしたが、いかがでしたでしょうか。」

「良い生徒たちで特に妨害とかがあったわけでも無くて、やりやすかったですよ。みんなちゃんと聞いてくれていましたし。」

「良い子たちばっかりでした!俺たちあんな真面目に聞いてなかったんで偉いなと思いましたね!」

 それを聞くとミデルさんはホッとした様子で俺たちを見た後、明日もよろしくお願いしますとだけ言って教員寮へと戻っていった。俺たちも食堂で夕食を食べてから教員寮へと戻り、シャワーを済ませた後ナオキの部屋へ行く。

「で、ウルニはどんな感じだった?」

「えーとね・・・、想像以上というか・・・。」

 ナオキからウルニと何があったのかを聞いた。軽い検査のつもりだったが光が凄かったことと、その後の残り時間のほぼ全てを魔力の調整に充ててしまったということ。

「なるほどねぇ・・・。で、どんくらいまでできたんだ?」

「何とか魔力込めても目開けれるくらいにまで、眩しくて目が慣れただけかもしんないけど・・・。」

「お前今日だけでよく0からそこまでいったな、凄いよお前。」

「ありがと・・・、んで、そっちはどんな感じだった?」

 ジークとベル、レイナとグロウの魔力の感じを見た率直な感想をナオキにも伝える。

「やっぱ水魔術の氷への変換できてるだけあってベルくん凄いねぇ、グロウくんも聞いた感じ筋良さそうだし、そっちの方はあんまり心配なさそう?」

「まぁそうかもな。実際1から教える手間はレイナお嬢様だけだし、ジークはなんか焦ってた感じだったけど。」

 魔術師になる上で焦りは禁物だ。できる魔術もできないようになってさらに焦りを助長させることにつながることもある。また明日改めて注意しておくことにしよう。

「とにかく初日だったし、そこまで異変も無かったかな。ウルニが魔術を誤発動するくらいまでは想定してたから、まだ安心だな。」

「とにかく徐々に教えていかなきゃね~・・・。とにかく今日は疲れちゃった。もうそろそろ寝よっか・・・。」

「ん、おやすみナオキ。」

「おやすみぃ~・・・。Zzz」

 布団に倒れこむと同時に大きく寝息を立てて寝てしまった。今日で分かったことを改めて日記にまとめておき、俺もすぐに布団に入る。

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 暗い部屋の中に蝋燭の灯りだけが灯り、男女が机を挟んで座っていた。

「ミデルくん、何故キミが呼ばれたのか分かるかな。」

「いえ・・・。業務に関して何か不備がありましたでしょうか。」

 ミデルは少し不安な顔になりながら学長先生と話していた。学長が今までに見たことが無いほど真剣な顔をしてミデルを見てから、本題に入る。

「ここにキミを呼んだのはね、キミを信頼しているからなのだ。そして今から話すのは絶対に他言してはならないことだ。良いかな?」

「え、えぇ・・・?」

 ミデルは困惑した様子で学長の話を聞いていた。

「今から話すのは今年新しく入ったウルニという生徒についてのことだ。彼女の魔力測定のための血液検査をしたのだがね。これが結果だ。」

 そういって学長はミデルに1枚の羊皮紙を渡した。その羊皮紙を見たミデルは自分の目を疑った。

「こ、これは・・・冗談ですか」

「であればよかったのだが。これがキミにだけ伝える真実だ。これを他言してはならない理由も分かっているだろう。」

「・・・分かりました。では、これを知った上で私にどうしろと・・・。」

「今はまだ動くときではない。ただ、彼女に関しての捜査をしなければならない。そしてそれは他の者たちにバレてはいけないのだ。キミにしか頼めないことだ。どうか頼む。」

 学長はミデルに向かい頭を下げながら頼む。ミデルは頭を下げる学長を見慣れた様子で学長を見つめ、頭を上げさせる。

「いつものことでしょう。分かりました、何が必要なのか簡単にまとめておいてください。とにかく本日はもう遅いです。学長もお休みになられてください。私はもう寝ますので。」

「あぁ・・・、ありがとう。おやすみ、ミデル。」

「おやすみなさい、学長。」

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

パタン…

 学長室を出て教員寮へと戻る途中、廊下の窓から月が雲へ隠れていくのが見えた。今日の授業報告を聞いても、彼らなら安心して生徒たちを任せることができそうだ。彼らを騙しているようで少し心苦しくもある。ただ学長の夢を、魔術師の未来のためにも支えなければ、私たちの未来も無い・・・。今年で、全て終わらせなければ。

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