第17話 学院案内

―一方ウルニの面談中―

ガチャ…バタン


「ウルニちゃん、大丈夫かな・・・。」

 学長室を出るなりナオキは心配そうな声でウルニの事を案じていた。

「多分俺たちに聞いたやつとおんなじ面談だろ、何故わざわざ学院に通おうとしたのかってやつ。あれなんて答えた?」

「えー・・・忘れた!」

「俺も忘れた。」

「オホンッ」

 学長室の前でそう話しているとどこからか咳払いが聞こえてきた。

「あなたたちが学長先生が話していた臨時の教師の方々でしょうか。学長室の前で話すのはあまりよろしくないですね。」

「えと・・・どちらさまで・・・」

「む、確かに自己紹介がまだでしたね。初めまして、臨時教師のあなた方の案内を学長先生から任されました、リュミナテ魔術学院の主任を務めております。ミデルと申します。」

 ミデルさんが丁寧に礼をしながら自己紹介をしてくれたので、自分たちも続けて自己紹介をする。

「キョーヤさんとナオキさんですね。ハイ、ではまず学院内の案内をしましょうか。」

「あ、でも俺たちここの卒業生なので知ってるんですけど・・・。」

「・・・何年前でしょうか」

「あぇ、4年前の・・・」

「実は2年前に少し増築があったんです。教室については特に変更点が無いので案内は省くとして、その増築のあった部分の案内をしておきます。あと教員が使う部分については知らないところもあると思いますのでそこについても。」


 そう言ってミデルさんは歩き出した。その後ろをついていき案内を受けている道中、無言だったので少し気まずく思い、ナオキが口を開いた。

「あの、ミデルさんもここの卒業生なんですか?」

「そうですね。」

シーン

 会話が続かない。というより続かせる気が無い返答だったようにも思えるが、ナオキはめげずに質問を続ける。

「その、学長先生とは仲が良かったり・・・」

「そういう訳ではないですね。」

「主、主任に選ばれたってことはやっぱり他の先生からも人気なのかな~なんて」

「違いますね。特に仲のいい教員の方はいません。」


「ねぇキョーヤ、すっごいバッサリ切られるんだけど。」

「逆にお前もよくめげないな。」

 よくもまぁあんなに話したくないというか、話しかけるなっていう感じの人にそうぐいぐい話しかけられるなと思いながら、ミデルさんに新しく改装した部分や、新教室などについての説明を受け、学院内の案内がほぼ終わる。そして俺たちは教員寮へと案内された。


「着きました。ここが教員寮です。あなたたちの部屋は2階の奥の向かい合っている2部屋ですのでそこに荷物を置いてください。日が沈み始めたあたりでまた来ますので、それまでは自由に過ごしておいてください。それでは、案内はここまでですので。」

「ありがとうございました。」 

「ありがとうございました~・・・。」


「結局会話が広がることは無かったな・・・。返答はしてくれてたけど、だいぶウザがられてないかあれ。」

「でもほんとにウザいと思ってたら多分返答せずに黙ってたでしょ、だから多分大丈夫だとは思うけど。」

 お互いに荷物をそれぞれの部屋に置いて再度集まる。

「そういや、ウルニちゃん大丈夫かな。」

「・・・まぁ若干不安なのは分かるけど。ウルニのことを信じてやることも大事だぞ。というか、お前がそう教えてくれたんだろ。」

「そんなこと言ったっけ・・・。まぁ、そうだね。」

 不安そうな顔をしていたナオキが自分の頬をパシッと叩き、気合を入れなおす。

「うし、先生頑張るぞー!とりあえず自由時間なんだよね?」

「あぁ、と言ってもまだやることがある訳でも・・・あ。あれ読んどこうぜ、マニュアル。」

「学長先生が渡してくれたやつ?先生やるためのマニュアルって言ってたけど、何が書いてあるんだろ。」


 ミデルさんが部屋に呼びに来るまでナオキと一緒にマニュアルを読み込んでいた。気づけば日が暮れかけていた。

「う~ん普通のマニュアルだね・・・。というかなんか雑・・・?」

「なんか、ルールが緩いっていうか・・・」

コンコンコン

「キョーヤさん、ナオキさん、夕方のミーティングがあるので呼びにまいりました。」

 夕方に呼びに来るというのはどうやらこのことだったらしい。

「うし、行くか。ミデルさんありがとうございます。」

「いえ、仕事ですので・・・。」


「ついでに案内しておきますが、ここが教員室です。朝と夕にここでミーティングを行いますので、明日からは同じ時間にここに来てください。」

 ミデルさんが教員室に入り、教員全員にミーティングの収集をかける。

「皆さんご存じかと思いますが、明日から臨時の教師として傭兵であるキョーヤさんとナオキさんが入ります。挨拶をお願いします。」

「キョーヤです。よろしくお願いします。」

「ナオキです、教師をするのは初めてなのでご教授の程よろしくお願いします。」

 小さい拍手が場を包み、続けてミデルさんが今日のまとめと明日の連絡など伝えるべきことを伝え、ミーティングが終了する。


「以上でミーティングを終了します。それでは、本日もお疲れさまでした。

・・・さて、これが1日の流れです。マニュアルにもどういった流れで1日が進むのかを書いてありますので詳細はマニュアルを読んでください。他に質問等はありますか?」

「特に・・・あいや、あのマニュアルに書いてあることなんですけど、生徒の教材とかって・・・」

「あぁ、特にありません。若い魔術師が少なく毎年平均5人ほどしかいないのと、新しい魔術がどんどんここの教員や学長が見つけていくため、毎年新しい教材を作るのは非常に手間というか面倒ですので・・・。あと毎日違う教師が生徒たちに教えるので、教える内容も毎日変わります。」

「な、なるほど・・・。」

「そして全て言ってしまうと、全ての教師は魔術の研究のために来ている人がほとんどです。他の場所よりも研究のための施設が整っていますので・・・。そのため授業時間がほとんどの教師にとって無駄というか、教師としての体裁を保つための時間としか思っていません。あなたたちには傭兵ですので、魔術の研究に関しては他の教師たちに比べておそらく興味が薄いでしょう。」

「まぁ、そうですね。無いわけではないですけど・・・。」

「学長も、新しい魔術師が生まれることを期待してこの学院を設立しています。ですのであなたたちにはどうか生徒たちにとって得になる授業をしてほしいと私は思っています。どうか、よろしくお願いします。」


 その日の夜俺はもう一度ナオキの部屋に行き、今日の事について話していた。

「まさかマニュアルに授業の事があんまり書いてないのがそういう理由だったとはね・・・。」

「実際思い出せば俺たちも授業に関しては雑というか、分かりづらいところが多かった気がしなくもない・・・。なぁ、どうせ俺たちが期待されてるなら、度肝を抜くような結果を残してやろうぜ。」

「同感。でもどうやってそんなことすんの?」

「それはだな・・・」

 ナオキと明日からの授業の内容について作戦会議をしてから解散をした。明日が初授業だ。気合を入れていこう。

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