第16話 面談
「ズバリ聞こう。キミは何故魔術師になりたい?」
「・・・え・・・。」
「私はあの時、魔術師の歴史について話したね。魔術師が虐げられた歴史を。あれは入学希望者全員に話していることなんだ。キミたちが目指す魔術師はこういった歴史があったのだと。さてその上でキミたちに聞くのだ。何故キミは、魔術師になりたいんだい?」
「私が・・・何故・・・」
ウルニは黙り込む。
「初めてキミと会った日、キョーヤくんとナオキくんからキミのことについて聞いたね。キミはキョーヤくんたちに助けられて、ナオキくんと共に暮らしている。そして彼らのピンチを助けたが、それは覚えていなかった・・・。」
「それは・・・はい。」
「キミからすればまるで夢のような話だろうね。自分が覚えていないのに感謝をされるなんて、変な感じだろう。」
「そう、ですね。覚えている限りではあの時、あたしは魔獣にやられるキョーヤさんたちを見ていることしかできませんでした。」
「見ていることしかできなかったと。キミは彼らを助けようとは思わなかったのかな。」
「・・・でも、ムギさんのように剣を持っていたわけでもない。足手まといになるだけです。そんなこと考えている暇なんて・・・。」
「フム。ならば魔術師になることはオススメしないな。」
「えっ」
「当然だ。魔術師はね、何もできない者が成るものでは無いのだよ。不安定な者が魔術を使えばね、その魔術は弱くなる。魔術は強い意思を持つ者にだけ呼応する。そしてこの魔術学院にやってくる子たちはね、皆願いを持っているのだよ。」
「・・・願い・・・」
「そう、願い。それが良いものか悪いものかということは置いておいて、ここに来る子たちはみんな成し遂げたい何かがある。ある子は約束を守るため、ある子は復讐のため、ある子は伝統のため。みんなが何か強い意思を持ってこの学院へ魔術を学びにやってくる。
さて、キミは先ほど恩人たちが倒れていく様を目の前にしていながら足手まといになるから何もしなかったと言ったね。では何故ナオキくんの治癒魔術があったのに、自らキョーヤくんの看病をしたのかな。キミは足手まといなのだろう。魔術が関わる場面でキミは何もできない。居る必要はない。」
「・・・それ・・・は・・・」
胸が締め付けられそうなほどに苦しい。怒られているかのようで、鼓動が早く感じる。まるで槍で突かれているかのように言葉が体に刺さっていく。全くもって学長先生の言う通りだった。何故、今あたしはキョーヤさんとナオキについていっているんだろう。何故、ナオキと一緒に住んでいるんだろう。何故、あの時ナオキが居たのにキョーヤさんの看病をわざわざしようと思ったんだろう。何故、魔獣が現れたあの時、逃げなかったんだろう。あたしが居なければ、キョーヤさんとナオキは魔獣の戦いに巻き込まれなかったかもしれない。あの時あたしが現れてドメルへと向かったからあの戦いに巻き込んでしまったのかもしれない。キョーヤさんが死にかけたのは、他でもないあたしのせいだ。あたしが現れたから。
・・・でも・・・。この前、キョーヤさんに聞かれた。
『なぁウルニ、ナオキ元気か?』
『え?はい、いつも笑ってて元気そうですよ。今日も朝から声おっきかったし・・・。』
『!・・・そっか・・・。あのな、ここだけの話なんだがな。あいつ、あれでもウルニが来る前は寝坊助だったんだ。よく警備の仕事には遅れてくるし、昼まで平気で寝てるようなやつだったんだよ。それがウルニと一緒に住むってことになってから、張り切ってるっていうか、元気になったっていうか・・・。とにかく、ありがとな。』
『・・・?』
あの時、ナオキに言われた。
『ウルニちゃ~ん!はい、これキョーヤから!』
『・・・?何これ?』
『あの時看病してくれたお礼としてドメルで買ってきたフルーツだって!すごく助かった、ありがとうって言ってたよ~。』
あの戦いの後、ムギさんに言われた。
『ウルニ。君がどんな力を持っていてどんな奴なのかはまだ私は掴みかねている。もしかしたら今は安全なだけで本当は途轍もない危険人物なのかもしれない。ただ、これだけは言っておきたい。あの時、キョーヤとナオキを助けてくれて、本当にありがとう。君の助けが無ければ、キョーヤとナオキだけではない、このドメル全体が滅んでいただろう。改めて礼を言うよ。本当に、ありがとう。』
例えあたしがどれだけ居なければ良かったと思ってても、キョーヤさんたちはあたしにありがとうって言ってくれた。だから、それに応えたい。今度こそ、あたしが守るって約束したい。
「あたしは・・・あたしは、今は足手まといです。魔術なんて全然わからないし、あの時助けたって何度言われたって、実感なんて沸きようがありません。
でも、キョーヤさんたちはそんなあたしにありがとうって言ってくれました。キョーヤさんたちからしたら見覚えのない魔術を使う不審者だって思ってもいいのに、それをしませんでした。あたしはあの人たちに助けられたんです。その恩をほんの少しも返せていないのに、あの人たちの元を離れるなんて、あたしにはできません。あの人たちのありがとうに応えたい。あの人たちを今度は、誰でもないあたし自身が守りたい。それがあたしの願いです。そのためにあたしはこのリュミナテ魔術学院へと来ました。」
思わず立ち上がり、右手を握りしめる。まっすぐ学長先生を見て、自分の思いを、願いを伝える。これがあたしの答えだ。
「・・・合格、じゃ。」
「・・・あっ?」
「ようやく、自分の気持ちを全て伝えてくれたの。人を守るため。ウム、立派な願いじゃ。ただ、再度言うが魔術師は虐げられた歴史を持つ。そして今も決して魔術師を見る目が良いという訳ではない。キミはそれでも人を守るというのかな。」
「・・・自分の言葉は、曲げたくありません。もしかしたら守った人があたしに石を投げる時だってあるかもしれない。でもそれを怖がって何もしないのであれば、それは魔獣がキョーヤさんたちを襲ったときのように、あたしが殺したのと同然になります。だから助けることだけは迷いたくありません。」
「・・・よかろう。強い願いを持ったな。その願いを努々忘れることなく、魔術師としてキミが成長することを祈っているよ。改めて、リュミナテ魔術学院へようこそ。キミの入学を、歓迎しよう。」
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