第18話 初授業

キーンコーンカーンコーン

 聞きなれたチャイム音が教員寮に響きわたり、それに続けて放送が流れる。

「起床時間になりました。おはようございます。今日も一日頑張りましょう。」


「おっはよ~~!キョーヤも起きて!」

 ノックも無しに部屋に入り、窓のカーテンを開けられる。部屋に日の光が差し込み、まだ光に慣れていない目に日光が突き刺さった。その明るさに耐え切れずにどんどん布団の中へと潜ろうとするが、そこをナオキに布団を奪われることで阻止されてしまった。

「・・・眠い」

「それは俺もだけど起きて!初日から遅刻したら印象ヤバいから!」


 寝ぼけながら洗顔、歯磨き、着替えを済ませ、朝食をとるために学院内の食堂へと向かう。朝は教員も生徒も同じ食堂で朝食をとることになっており、俺はオムレツとスープとパンのセットを頼み、ナオキは雑穀卵雑炊を頼んだ。

「あぁ、この飯の感じ懐かしいな。学生の時はもうちょっと美味くならないのかって思ってたけど、無料提供ならこんくらいでも十分だよな。」

「分かる、一人暮らしだと余計沁みるよ・・・。はぁ、うちにも起きたらご飯作っててくれる人欲しいなぁ・・・。」

 学生時代を思い出しながら共に朝食をとっていると、ウルニが寝ぼけ眼を擦りながら食堂に入ってきた。控えめに手を振ろうとするとこちらに気づいたようで、こちらに笑顔で走ってきた。

「キョーヤさん、ナオキおはよう!」

「ウルニちゃんおっはよ~!ちゃんと入学できたんだね!」

「うん!入学に必要なやつ色々書いて、今日から授業だって!」

「ウルニおはよ。話すのも良いけど、遅刻したらダメだから先ご飯頼んできたらどうだ。」

「あっ、忘れてた・・・。」


 ウルニはパンの朝食セットを頼み、ナオキとで俺を挟むように右隣に座った。

「そういや、面談はどうだったの?」

「ちょっと怖かったけど、特になんかあったわけじゃないよ。普通に何で魔術師になるのっていうのを聞かれた。」

「ふ~ん、クラスメイトとかにはもう会った?」

「何人かにはもう会ったよ。ジークくんとベルくんにも会ったし。あと学長先生から言われてびっくりしたんだけど、あたしたちみたいな魔術師志望の子どもって少ないってホント?」

 ウルニが疑うように俺とナオキの顔を覗く。

「そうだな。というか、俺たちの時は俺とナオキとムギだけだったな。」

「えっ」

「あ~そうだったね~3人だけだったよ。今思えば俺たちのときの先生ってすごい優しかったよね、元気かなぁ。ミーティングのときに居なかったからもう先生やめちゃったのかな。」

「う~んどうだろうな・・・。多分俺たちみたいに臨時の教師だったんじゃないか?」

 若い魔術師というか、魔力を持って産まれる子どもというのが全く増えないらしい。そもそも魔力を持って産まれる条件があるのかとも考えられているが、よくわかっていないのが事実だ。ただ、俺たちのときは3人だけだったのに、ミデルさんの話によると平均5人になっているという話なのでそう考えるとあまり変わらないにしても増えてはいるなと感じる。


「あ、もうそろそろ朝ミーティングの時間だな。おし、ナオキ行くぞ。」

「ん、おっけ~。それじゃウルニちゃん頑張ってね!喧嘩とかはしちゃダメだよ!」

「しないわよ!多分!」

 そこは言い切ってほしかったなと思いながらナオキと一緒に教員室に急ぐ。ノックしてから入るとちょうどミデルさんがミーティングの集合を呼び掛けていた。

「皆さんおはようございます。本日もよろしくお願いします。本日の連絡事項は、臨時の教師の方が授業に参加いたしますので、本日の授業担当の方は臨時教師に今日行う授業内容を連絡しておいてください。」

 連絡が終了し全員が解散した後、今日の授業担当であろうと思われる坊主頭の人が俺たちを呼んでいた。

「あんたたちが臨時の教師だよな。じゃあ、ハイこれ。」

 そう言って彼は出席簿を渡してきた。

「これは・・・。」

「出席簿に決まってんだろ。俺は室内で適切な気温を保つための空調魔法の研究で忙しいんでね、ガキのために授業してる暇なんざ無いんだ。聞いたところここの学生だったんだろ?ならあんたたちの方が授業については詳しいだろうし、ガキに教えるのは頼んだよ。」

「ガ、ガキって・・・。」

 ナオキは顔を少し引き攣らせながらその坊主頭の言う事に苦言を呈そうとした。

「どうせ俺が説明したところであいつらも聞いちゃいねぇだろ。だからこんくらいしたって誰も怒んねぇよ。」

 俺が想像していた以上に先生たちの授業に関する意識は低いらしい。その心無い言葉に少し怒りを覚えなくもないが、そこをグッとこらえて笑顔で対応する。

「・・・分かりました。何か教えておくべきこととかはありますか。」

「あ?ねぇよんなもん。教材だってないんだから何教えたって誰もなんも言わねぇし。」

「分かりました。それではそろそろ授業時間になりますので、行ってきます。」

「行ってきま~す!」


 少し早歩きでナオキが教員室を出ていくのを追いかけるように教室へと向かうことにすると、誰も聞いていないと思いナオキと話す。

「思ってたより意識が低いな。そう考えたら俺たちの先生って優しかったんだなぁ・・・。」

「ホントにね。にしてもガキかぁ・・・。俄然燃えてきたね、あいつらの鼻へし折ってやるくらいの授業しちゃお。」

 少し大股になっているのを見ていると、教室前についた。少し緊張しているのか深呼吸をする。ウルニもこの教室にいるんだ、下手な姿は見せられない。心の準備をし、教室のドアを開けた。

シーーン

 教室前に居た時はガヤガヤと賑わっている声が聞こえていたのだが、俺たちが入ると一気に教室内が静寂に包まれヒソヒソと俺たちに聞こえないように喋っていた。見慣れない人が入ってきたことで警戒されているというか、珍しいのか視線が一気に俺たちに集まる。

キーンコーンカーンコーン

 教団に立つとちょうど授業開始を告げるチャイムが鳴り響く。生徒たちも椅子に着席していき、さっきまで聞こえていたヒソヒソ声も聞こえなくなり完全な静寂に包まれてしまった。


「はいっみなさんおはようございます!」

 ナオキがパンッと手を合わせながら元気よく挨拶をし、自己紹介に入る。

「えーいつも見る先生たちと違う人が入ってきたので驚いた人もいると思いますが、本日から臨時教師として皆さんに魔術の勉強を教えることになりました、傭兵のナオキです!」

「同じく傭兵のキョーヤです。よろしくお願いします。」

 俺たちが自己紹介を終え礼をすると小さな拍手が場を包んだ。一応歓迎はされているのだろうかと感じ、出席簿を広げ出席確認をする。授業の進行はナオキが率先してやってくれているので、やりやすい。

「さて、俺たちの自己紹介は済んだので、皆さんの自己紹介を今度はしてもらいます!名前と年齢と得意な魔術について教えてくださーい!」

 顔と名前を一致させるためにも生徒にも自己紹介をさせる。今年の生徒数は5人なので覚えれるが、もし10人以上いたらまずかっただろう。


「それじゃぁ、はい左端の子から順番にお願いします!」

「ジーク・ニルム、12歳。得意な魔術は、炎魔術だ。主に杖に纏わせて槍を作り、接近戦で戦うことが多いって、あんたたちも見ただろ。」

「ベル・モングトス、11歳です。得意魔術は水魔術です。水魔術を炎魔術の温度調整で氷にして矢として使います。」

 左に隣り合って座っていた少年たちが前に出会ったジークとベルだった。昔からのコンビなのだろう、相当仲がいいようだ。実際あの時の戦闘も油断をしていただけで戦闘の筋としては悪いわけではなかったと思っている。伸びしろがあるタイプだろう。

「ウルニ・グルモスです。年齢は・・・その、忘れました・・・。得意魔術についてもまだ分かってません。」

 そうだった、ウルニは年齢も魔術も知らないんだった。とはいえまぁ、魔力があるだけで何も知らないやつもたまにここに来ることがあるらしいし、そこまで不思議なことでは無いだろう。ジークが少し怪訝な目でウルニを見ているが、ベルがそれに気づいてジークに注意する。あいつも苦労人だな。

「レイナ・ミシリスです。15歳で、得意魔術は空魔術です。まだ戦闘の経験がございませんので、足を引っ張ることもあることかと思いますがよろしくお願いします。」

「グロウ・ギルガリスです。12歳です。得意魔術は土魔術です。レイナ様の執事をしております。」

 どうやら右側の机に隣り合って座っていたレイナとグロウはお嬢様と執事の関係らしく、こちらも普段からコンビを組んでいるっぽい。俺とナオキのコンビのように戦っているのだろうと思っていたが、お嬢様側が戦闘経験がないと言っていたので執事の方が普段から前線に出ているのだろう。というかミシリスって・・・。

「ま、待ってミシリスって今言った?それって国王陛下とおんなじ姓じゃ・・・。」

 慌ててナオキも突っ込む。

「・・・はい、現ミシル国王陛下の孫です。」

 少し悲しい顔を浮かべながらレイナが答えた。おそらくここに来たのも自分の意思では無いのだろう。大方国王か王子が魔術師を嫌う傾向にあってここに送り込まれた感じだろうな。

「・・・ふ~む、なるほど。ハイ!顔と名前も一致しましたので、早速今回の授業へと入っていきましょ~う!キョーヤ、お願い!」

 ナオキの進行をぼけーっと見てるといきなり任された。それでは、授業開始と行こう。

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