第14話 兄との約束
「・・・これは、あり得ない。まさか、こんなことがあっていいのか。だとすれば、彼女は・・・。」
魔術出力検査の日から2日が経った。今日が確か魔術使用許可証がそれぞれの家に送られてくる日のはずだ。ただ、学長先生に頼まれた教師になってくれという頼みを受けるかをあの日からずっと悩んでいる。あの日の帰り、ナオキに改めて話していた内容を伝えるとナオキは「え、面白そー!いいじゃん!やろーよ!」と快諾していた。いや、俺も面白そうというか、楽しいだろうというのは否定しないが、あの日その場で受けなかったこととして心配な要因が2つある。
1つは俺の教え方の下手さだ。
俺は教えるのがびっくりするくらい非常に苦手だ。教えるのが下手なエピソードとして、学院時代にナオキが教科書の分からないところを俺に聞いてきた時に、余計わからないことを増やしてしまったのだ。あの日ナオキに「ごめん、ぜんっぜんわかんなかったからもう1回言って」と3回続けて言われたのは今でも覚えている。
2つ目はもちろんお兄ちゃんだ。
わざわざ毎日家から学院まで馬車を使って通うわけにはいかない。金だってかかるし時間が無駄すぎる。あちらには教員用の寮もあったはずなのでもし教師になるのであればそこに住むことになるだろう。ただ、お兄ちゃんをこの村に置いていくのは・・・不安だ。今こそ魔獣は来ていないが、何時大量の魔獣が村を襲ってくるかもわからない。ミズキみたいに優秀な魔術師がいないわけではないが、村全体を守ることはできないだろう。もしお兄ちゃんに何かあれば俺は・・・。
「キョーーヤーー!」
そう考えていると外からナオキの大きな声が聞こえる。考えるので忙しいというのに・・・。
「・・・なんだよ。」
ドアを開けるとナオキが2つ封筒を持ってドアの前に立っていた。
「魔術使用許可証のやつ来てたよ!渡しといてって言われたから、ハイ!」
「あぁ、そうか、ありがと。」
そういってドアを閉めようとしたが、お兄ちゃんが2階から降りてきた。
「あれ、ナオキくん?」
「あ、お兄さん!こんにちは~!」
「何か届けに来てくれたのかな?ありがとね。そうだ、お茶でも飲んでいくかい。」
「え、良いんですか!やった~お邪魔しま~す!」
「あ、おい」
俺の横を通り抜けていって家の中に入られてしまう。まぁ、お兄ちゃんが良いなら良いけどさ・・・。
「どうだい、キョーヤが何か迷惑かけていないかな。」
「え~迷惑とかなんも無いですよ!キョーヤと一緒じゃないと仕事もあんま楽しくないし、むしろお世話になってます。」
「そうか・・・それなら、良かった。これからもよろしく頼むよ。」
俺を抜きにして世間話をするお兄ちゃんとナオキ。なんだか気恥ずかしいというか、気まずい気がする。
「あ、そういやキョーヤ。あれどうすんの?先生なるやつ。」
「あ、お前それは・・・」
「先生?誰かに教えに行くのかい?」
「あれ、キョーヤ話してなかったの?一昨日の許可証の更新に行ったときに学長先生に頼まれたんですよ。若い先生が少ないから、キミたちが先生になってくれれば生徒の刺激にもなるだろうって。俺寝てたから全部キョーヤから聞いた話なんですけど。」
「・・・へぇ、そうなんだ。ナオキくんも先生をするのかい?」
「俺はキョーヤがするんだったら俺もしようかな~って思ってます。こういうのって自分で決めた方が良かったりするんでしょうけどね。でもキョーヤと一緒じゃなきゃ別に傭兵だって始めてないんで・・・。あ、日降りてきてる。ウルニちゃんと一緒におやつ作る約束してるんで、そろそろお暇しますね。お茶ありがとうございました!」
ナオキがあわただしく家から出ていく。
「・・・さて、何で黙ってたのかなキョーヤ?」
「だ、だって・・・。」
「まだ僕のことが心配?」
そりゃそうだ。お兄ちゃんは魔術が使えないんだから、もし魔獣と対面してしまったらすぐに食い殺されてしまう。唯一の家族であるお兄ちゃんを失えば、俺はもう生きる理由すら失ってしまうじゃないか。お母さんとお父さんとの約束なんだ。お兄ちゃんを守れるのは俺だけなのだから。お兄ちゃんだって、知ってるはずだろ。
「キョーヤは優しいね。お母さんたちとの約束をずっと覚えていてくれてる。」
「当たり前でしょ。たった一瞬も忘れたことなんてない、お母さんからのお願いなんだから。」
「じゃあ、僕からのお願い聞いてくれる?」
「・・・中身による。」
「キョーヤにはね、自由でいてほしい。もし何かを頼まれて悩むのなら、僕のために悩まないで、自分がやりたいかで悩んでほしい。もししたいことを僕のせいでできないんだったら、それは僕も苦しいよ。ねぇキョーヤ、正直に答えて。学院の先生は、したくない?」
「・・・」
「もししたいんだったら、迷わないで。僕の安全はキョーヤの後輩ちゃんが守ってくれるんでしょ?それともその後輩ちゃんたちはそんなに信頼できない?」
「信頼できないわけじゃないけど・・・。」
「僕の願いはね、キョーヤが楽しく幸せに暮らしてくれることだよ。」
「・・・うん。」
「もっかい言うけど、もしキョーヤが先生をやりたいって思ってるんだったら、迷わずやりな。何も魔獣に突っ込んでいくほど自分の力を勘違いしてるわけじゃないんだし、僕の心配は大丈夫だよ。」
その日の夜、お兄ちゃんと話していたことを思い出していた。
お母さんたちとの約束を違えるわけじゃないとはいえ、心配は心配だ。ミズキたちのことを疑ってるわけではないし、村の事をしっかり守ってくれるとは思っている。でももし、万が一のことがあればという考えがずっと頭をぐるぐるしている。やりたいんだったら迷わずやれ・・・か。
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