第13話 歴史

 では、改めて説明しよう。

 ここリュミナテ魔術学院はミシル国の端に建てられた魔術師のための学院だ。建てられたのは、いつだったかな・・・私が58歳の時だから、26年前だったか。国王陛下から与えられたこの学園の当初の目的は、言ってしまえばこの世に住む魔術師の教育と、魔術と魔獣に関する研究だった。


 この世界に突如として現れた魔獣・・・。魔獣がもたらした恐怖は瞬く間に世界中に広まり、それに呼応するかのように魔術師が生まれ、立ち向かった。


 もちろん最初こそ世界は魔術師という英雄的存在に目を輝かせ、民衆は歓喜した。あぁ、これにて平和がまたもや取り戻されると確信したものだった。だがそれは間違いだった。


 「特異人」という言葉を聞いたことがあるかな。または「異能人」とも呼ばれていたが・・・もはやその名前もこの学院が設立するより昔の事。キミたちが知りようも無いだろう。魔術師という存在が魔獣によって知られ広まる前に呼ばれていた、魔術師の異名というより、蔑称だな。

 魔術師が英雄として持て囃されるより昔、魔力を持たない人民は魔術を使える我々を畏怖の対象としていた。大多数と違う、人を殺すことのできる力を持って産まれてしまった子どもたちは蔑まれ、処刑されていたのだ。他と違うというだけで、少し力を持って産まれた我々は身を隠して生きることを強いられた。私や、私と共に行動していた同胞たちは無事だったが、世界では魔術師が容赦なく処刑されていた・・・。政府や国のトップが何か苦言を呈すこともなく、ただ民衆にとって脅威だから、処刑される。これが許されていいはずがないと誰もが思っていたよ。私もそう思っていた。

 同胞の間でもしばしば対立があった。この世界を変えるべきだという目的は同じでも、国の上層部に魔術の神秘を理解してもらい、話し合って魔術師としての待遇を変えてもらう穏健派と、この世界の理不尽に耐え切れず、魔術を民衆に使ってでも国全てを変えるべきだという革新派で我々も対立していた。

 私?私はもちろん穏健派だったとも。我々が力を持つから人々が怖がる。なればその安全性を保障してやれば、我々を見る目も変わるはずだろう。もちろんこんなものは綺麗事にすぎない。私だって人間だ。こんな口先だけで変わるはずが無いだろうと思っていたとも。ただ、それが一時の活動であれば無理だ。たとえどれだけかかっても良い。ただとにかく後から産まれてくる若き才能を潰してはならない。若者が自由を奪われていいはずがないと思い、魔術師の自由を願って我々は奮闘した。

 そしてある日、魔獣の大襲撃があった。キミたちが経験したドメルでの魔獣の襲撃よりもはるかに多い魔獣の襲撃だ。私たちとしても初めての魔獣との戦闘だった。上手くいかずに戦いの中で倒れていく者も少なくはなかった。もちろん、魔術師だけでなく民衆の被害だってあった。だが、民衆はこの戦いの中で我々の認識を新たにしてくれた。私たちを否定する意見だってあったが、その時に英雄扱いをされたのはなんだかんだ言って嬉しかったよ。

 ようやく、私たちの夢は実現した。魔術師が民衆に認められ、研究が咎められることも無くなった。魔術を使っても誰も何も言わず、むしろ憧れと感心を持って興味を持ってくれる。革新派だった我が同胞たちも世間の私たちを見る目が確実に変わっていることに気づき、その考えを改めてくれたよ。私たちがやってきたことは無駄ではなかった・・・。あの時ほど嬉しかったことは無かった・・・。


 だが、その日から魔術師を騙る野盗や悪党が各地で現れるようになった。それだけで済めば良かったのだが、その中に本物の魔術師が混じっていることもあったのでね、そしてある日ミシル国の国王陛下から呼び出されたよ。

 呼び出された王の間で伝えられた内容が、魔術師の管理、教育をしろというものだった。魔術師が野盗と共に民を襲っているのを止めるためにも、これ以上悪事に手を染めさせないためにも、後継に教育を施さなければならない。そういった王の命令と私の理念によって建てられたのがこのリュミナテ魔術学院なのさ。



「さて、少し長々と話してしまったが、まぁまとめてしまえば新たな魔術師を生み出すだけでなく、魔術師の犯罪者を生み出さないための場所でもある、という感じかな。何か質問はあるかな?この学院に関することであれば教えてあげよう。」

 学長先生がウルニに聞く。学院の歴史など習ったことは確かあったはずだが、普段の魔術で使う内容でもないためすっかり忘れていた。そしてナオキは先ほどから微動だにしていないのでおそらくあれは寝ている。あとで叩き起こしておこう。

「その、魔術についてとかって教えてもらえますか。」

「ム・・・。簡単には教えられるが、本格的に魔術について学ぶのであればそれこそこの学院に入ることをお勧めしよう。ここの先生たちは全て魔術師であり、経験もかなり積んでいる。私のような老いぼれが多いことだけが一つ欠点かな・・・。」


 そういうと、学長先生が何かを思い出したかのように顔を上げ、俺とナオキの顔を交互に見る。何となく察してはいるが、まさか。

「そうだ、そうだ。そうじゃないかキミたちが今ここにいるじゃないか・・・。」

「ちょっと待ってください、まさか俺たちに教師をやれって言うんじゃないでしょうね。」

「そのまさかだよ・・・。ダメかね、恩師を助けると思ってどうかここは頼まれてくれないだろうか。頼むよ。キミたちが教師をしてくれれば我々の負担が減るだけでなく、今の生徒たちの刺激にもなる。どうか、お願いだよ。」

 うーむ。そうは言うが・・・。だがウルニにもし魔術の才能があると分かってしまうと、魔術を遅かれ早かれ教えなければならないとは思っていた。

 うんうんと悩み、ナオキを学長先生に気づかれないように叩き起こしてから結論を伝える。

「そうですね・・・。その、傭兵の仕事も今はまだいくつか残っています。家内の者に伝えて、結論が出たらまたもう一度ここに来て伝えてもよろしいでしょうか。」

 そう、一時保留だ。

「ウム。もちろんだとも。今すぐに決めてくれというわけではないのだ、ゆっくり考えてから来なさい。あぁそれと、ウルニくんの検査結果はどうしようか。おそらく3日ほどもすれば結果が出るはずなのだが・・・。」

「それなら、その検査結果をこちらに私たちから聞きに行きます。その時に教師になるかの結論も話しますので、それでお願いします。」

「あいわかった。おぉ、もう日が昇りきってしまっているな。引き留めてしまってすまなかったよ。今日はもうお開きにするとしよう。私も今日の業務が貯まってしまっているのでね。それでは、また3日後に。」

「「「ありがとうございました。」」」


 ソファから立ち上がり、学長室を出る。なんだかどっと疲れてしまった。

「ごめん、寝てた。何の話してたの?」

「お前な、学長先生の前で堂々と寝るやつがいるかよ。はぁ・・・とりあえず帰りながら話すよ。」


 さて、どうしようか。

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