第12話 お久しぶりです。

コンコンコン

「失礼します」

「・・・どうぞ」

 学長室の大きな扉を3回ノックし、入室許可をもらってから学長室へと入る。部屋は広く、赤いカーペットが敷いてあり両側の壁には大きな本棚が置いてある。本棚にもぎっしり本がしまわれている。魔術に関する本なのだろうか。


「お久しぶりです、リュミナテス学長先生。」

「んむ・・・?・・・おぉ、えぇと、キミは・・・。」

 机の奥に居た見事な髭を貯えたご老人がゆっくりと扉側を振り向く。よく見えていないのだろうか、それとも覚えていないのだろうかなんとも言えない表情で目を細めてこちらを見つめる。

「キョーヤです。覚えていますか、学長先生。」

「んんと・・・あぁ、あぁ!キョーヤくんか!おぉ久しぶりじゃないか・・・。あぁ、お茶を用意しよう。せっかくの懐かしい客人だ・・・確か前買った茶葉がまだ残っていたはず。ちょいと待っておいておくれ。」

「あぁいえお構いなく・・・。」


 学長先生が部屋の真ん中にある机とソファに招き、座らせる。そしてゆっくりと紅茶を淹れ、俺たちに紅茶とお茶請けを出してくれた。ウルニがキョロキョロと周りを見渡して落ち着かない様子だった。


「いやいや・・・久しぶりじゃないか。えぇと、キミが卒業したのは、3年・・・いや4年前だったかな。ホントに久しぶりだねぇ・・・。卒業後はどんな感じかな、確か傭兵になったのだったか。あの時はまさかあんなに優秀な成績を残していたキミが傭兵になるとは、思いもしなかった・・・。あぁそうだ、キミがいつも組んでいたトリオの・・・えぇとムギくんとナオト・・・ナオヤ・・・?」

「ナオキです学長先生。」

「そうそう、ナオキくんだ・・・あぁ、キミじゃないか!こ、これは失礼したな。私ももう老いたか・・・。ナオキくんも、元気かね。確かキミも傭兵になったんだったな、上手くやっておるかい。」

 少しバツが悪そうになりながらもナオキに話を振り、昔を懐かしむように話始めた。

「えぇ、まぁはい。キョーヤと一緒ですので、特にトラブルもなく。」

「そうかそうか、それは良かった・・・。キミたちは、ホントに優秀だったな。あの頃が本当に懐かしい・・・。キミたちのような魔術師全体に革新を与えるような者たちがあれから現れるのを待っているが、そうそう現れないものだ。」


 現在生きている正規の魔術師としても最高齢であり、魔術師の教育を担うという重大な責任が伴う学長先生。やはり普段から忙しいのだろうと思い、本題に入ろうと話そうとしてみるものの

「それは、まぁそうでしょう。あの、それより・・・」

「未だに世間が魔術師を見る目は厳しい・・・。若い魔術師は少なく、老いぼれがずっと残ってしまっている。魔術を持って産まれる子が少ないのもあるが、このままでは魔術師は遅かれ早かれ衰退してしまう。それだけは避けなければいかん・・・。あぁやはりキミたちも魔術研究を共にしてほしかったよ。キミたちがいてくれれば新たな魔術のみならず、魔術に関する道具やいろんなものの研究が今よりはるかに進んでいただろうに。老いぼれが集まってあれやこれやと話したところで、思いつくのはつまらないものばかりでね・・・。どれも自分が楽したいためのものを作ろうなどと宣うのだ。それではダメだ、若い芽をより成長させるための助力が我々の、教育者として、そして魔術の先輩としての責務なのだから・・・。キミたちもそう思うだろう。あぁいやキミたちに聞くことではなかったかもしれないな。ハハハ、忘れてくれ。」


 こうやって話始めると止まらないところを見るとやはりお爺ちゃんになっているのだなと確信する。そろそろ本題に入らせてもらうことにしよう。

「あの、学長先生。その話も大事なのですが、本日は要件があってここに来ました。」

「おぉ、おぉそうか。それは、キミの隣にいるその女の子のことかね。」

「はい、ウルニと言います。ほら、挨拶しときな。」

「は、初めまして学長先生。ウルニと言います。」

「そうか・・・。キミたちももう子どもを持つ歳か・・・。その子を、入学させたいのかな。だがそれは・・・。」

「えぇと、色々勘違いしてますね。まず俺たちの子どもじゃなくて・・・」


 キョーヤとナオキが学長先生にウルニのことと、ウルニの魔術、魔術検査をしてほしい旨を伝える。それらを聞いた学長は驚きからか黙っていたが、しばらくの沈黙の跡に口を開いた。


「そうか・・・。そんなことがあったとはな・・・。考えたくはないが、魔獣がそれほどにまで進化しているとは。ともかくキョーヤくん、ナオキくん災難だったな。そして一国をよく守った。同じく魔術師として鼻が高いよ。それで、ウルニくん、だったかな。その子の魔術検査も今してしまおう。こういうのは早ければ早いほど良い・・・。魔術に関する謎を残しておいて良いことなど何も無いからね。では少し用意するからちょっと待っておいておくれよ。といってもただの血液検査だがね。」


 学長先生はそう言って立ち上がり、学長室から出て行った。おそらく俺たちも血液検査をした研究室に行って血液採取セットを取りに行ったのだろう。少し肩の力を抜いてソファにもたれかかる。目上の人だったのもあって少し緊張していたのだろう、ウルニも同じタイミングでソファにもたれていた。


「緊張したか?」

「ちょっとだけしました。話し方自体は何だか近所のおじいちゃんって感じでしたけど、荘厳って言うんですか、何となくしっかりした感じがあって・・・。」

「ちゃんと学長先生だからね~。しかも魔術の教育の最先端を担ってるってなったら、やっぱナメられたりしたら威厳にも関わるしねぇ。」

「にしてもあんま変わってなかったな。元からあんなもんだった気がしなくも無いけど。」

「ん~~・・・そうね。なんか、不安そうっていうか焦ってる感じあったけど・・・。」

「?それってどういう・・・」

「やぁやぁ待たせてしまったね、持ってきたよ。すぐ終わるからパッパッとやってしまおう。よし、ウルニくん、手を出してくれるかな。」

「は、はい。」

「ちょっとチクッとするよ。我慢しておくれ。」

 学長先生が針をウルニの指に刺し、血を皿に落とさせる。

「・・・よし。はい、もう大丈夫だよ。治癒してあげよう。ヒール。」

 指についた傷が綺麗に治る。ウルニが治してもらった指を少し見つめた後、学長先生に質問をした。


「あの、ここに入学するのって何か条件があるんですか?」

「ム?何だ、入学希望かね。それなら話が早いな。そのことについて説明しておこうか。キョーヤくんたちからここがどういった場所なのかということは聞いたかな?」

「えぇと、魔術を学ぶ場所だとだけ・・・。」

「うむ、それでほぼ正解ではあるのだがね。改めて説明しておこうか・・・。」

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