第10話 学院生と、商人

「え~っとな、俺たちが今から行こうとしてる場所はな、リュミナテっていうところにあるリュミナテ魔術学院って場所なんだ。んで、リュミナテがどこにあるのかっていうとマールク国の隣国のミシル国ってところがあって、その国境の近くにある。」

「場所としてはミシル国なんだけど、もうほんとにマールクとの国境の近くにある。マールクとミシルが友好国だから良かったけどさ、これで仲険悪だったら多分学院あそこ建ってなかったよね。」

「なるほど。それで、どうやってそこに行くの?」

「ドメルからリュミナテに直通の馬車が出てるんだ。だからそれに乗せてもらう。」

 そういう訳でキョーヤ一行は魔術使用許可証の更新とウルニの魔術に関する才能を診てもらうためにもひとまずドメルへと向かっている。

「それで、そこであたしのこと診てもらうって言ってたけど・・・。」

「まぁ言ってしまえばそうなんだが、基本魔術師を目指すやつは全員そこに行くことになってるんだ。」

「というか今のとこリュミナテの学院以外の魔術学院ができてないっていうのが近いかなぁ・・・。それぞれの国が魔術師に対して好意的なわけじゃなくてさ。魔術師には魔術師でしか対抗できないのにもし国に反逆されてしまえば何もできずに滅びちゃうでしょ。だからあまり安易に扱えないみたいなんだよね。」

「んでまぁ、魔術学院っていうから学校みたいなところではあるんだけど、同時に魔術に関する研究機関でもあるんだ。」

「学校・・・。けんきゅう・・・。」

 ウルニは次々と新しい単語が出てきたことに困った様子で首を傾けていた。


「あーえーと、だから今日行くのは、俺とナオキの許可証の更新とウルニの魔術の才能を専門の人たちに見てもらうってだけだ。だから特にウルニがすることは無いはず。」

「せっかくだし学院の中とか色々見せても良いかもね。」


 そうこう話しているうちにドメルへと着いた一行はドメルからリュミナテへと行く馬車を探し始めた。そして、ちょうど3人分の空きがある馬車を見つけて乗せてもらえるかの交渉をしに行った。


「すんません、この馬車リュミナテに向かいますか?」

「うん?あぁそうだよ。あんたらも乗っていくかい?」

「ハイ、よろしくお願いします。」

「オッケー。ならもう今から出発するから早く乗りな。」


 気前のいい御者に馬車へと乗せてもらうと中にはウルニと同じくらいの年齢の子どもが2人と大人の女性が1人既に乗っていた。この女性も許可証の更新に行くのだろうかと考えていると馬車が動き出した。


「リュミナテまでどのくらいかかるの?」

「んぇ、そーだな・・・。どんくらいだろ・・・」

「この馬車の速さなら約2時間ってところだろう。そこまで長くは無いはずさ。」

 大人の女性が腕を組みながら教えてくれた。

「ありがとうございます。あなたもリュミナテに?」

「あぁ。そこに荷物が置いてあるだろ?魔術師じゃないから私にはよくわからないが、連中にはそれが入り用らしくてね。魔術学院に運んでいくために乗せてもらってんのさ。」

「商人の方ですか。大変ですね。」


「そういや自己紹介がまだだったね。私の名前はパウル。そこの兄ちゃんが言った通り商人をやってるんだ。ドメルに店を置いてるから良かったら見に来ておくれよ。ってコラ!!そこのガキンチョ何やってんだ!」

 急に怒られたので何かやらかしてしまったかと勘違いしたが後ろを見てみると俺たちとパウルさん以外に乗っていた子どもがその商品を覗こうとしていた。

「それはちゃんとした商品なんだ!傷をつけられでもしたら私が責められるんだよ!触らないでおくれ!」

 その子どもは謝罪も言わずに元居た位置へと戻っていった。こういう子どもも今では少なくない。魔獣が現れて魔術師が普及してからも、魔獣に狙われる人が未だに絶えない。何故魔獣が人間を襲うのかも、俺たちが学院に居た頃に何人かの先生が共同で研究していたがその結果も出たのだろうかと考えていると、馬が立ち上がって馬車が急に止まってしまった。何事かと思って顔を出すと、見える範囲で5人ほど仮面を着けた人が馬車の前に立ち止まっていた。


「何があったの?」

「多分・・・盗賊。魔術師ではない、はず。」

「「盗賊!?」」

俺がそういうと座っていた子ども2人が急に立ちあがった。

「おい、ベル!行くぞ!」

「うん!戦うよジーク!」

そして立ちあがったかと思うと後ろの出入り口から出ていき、盗賊たちの前に走っていった。

「バッ・・・!!クソッナオキ!行くぞ!」

「うん!ウルニちゃん、パウルさんたちと一緒にここで待ってて!」

「は、はい!」


 外に出ると、盗賊が子どもに襲い掛かっていた。

「ベル、合わせろよ!ファイアランス!」

 ジークと呼ばれていた子が炎を杖に纏わせ、槍の形にして盗賊たちに向かって行く。

「任せて、アイスアロー!」

 そのフォローをするかのように後方から氷の矢を空中で形づくり、盗賊たちの脚を狙って撃つ。後衛が氷を使って盗賊たちの動きを鈍らせてから前衛が止めを刺すのだろう。

「あれは・・・ダメだな、ベルが浮いてしまってる。しょうがない、カバーするぞ。」

「うん。見せつけちゃおっか。」

 味方から見てあまりに分かりやすい戦略は敵からも見破られやすい。キョーヤの予想通り、ジークの攻撃を一人が受け止めている最中にベルの方へと盗賊が2人向かってくる。

「やべっ、ベル!そっち2人行ったぞ!!」

「えっちょ、ぼ、僕は近接技無いんだって!!」

 ピンチになり急に焦りだすベル。

 盗賊が目の前まで迫り、ここで終わりかと思わず目をつぶってしまった。いつ攻撃が来るのかと身構えていたが、いつになっても衝撃がやってこないため目を開くと、ベルと盗賊の間に土の壁ができていた。

「お前ら、まるでダメだ。戦闘の基本はな、各個撃破だよ。」

 土の壁を建てて守っている間に作っていた魔力を纏わせた石の弾丸を浮かせ、ベルに向かっていた盗賊2人に向けて放つ。

「そーーらっ!!ウィンドハンマーー!」

 上からナオキが勢いよく魔術を盗賊に向けて放ち、気絶させ無力化する。

「常に多対1の状況を作る。これが戦闘の基本であり、連携の基本だ。さ、ジークくんとやらを助けるぞ。」


「クソッ遠くからチマチマチマチマと・・・!」

 盗賊2人がジークの炎でできた槍を防御し、回避を織り交ぜながら応戦し、遠くから弓使いがジークを狙う。見ても分かるように、ジークの魔力切れを狙っているのだろう。魔術師を相手にするのなら当然の戦い方だ。当然戦いが長引いてしまい、炎の槍を形成していた魔力が途切れ、武器を失ってしまう。

「なっ、しまっ・・・!」

 その隙を逃さず、盗賊3人がジークに襲い掛かる。明らかな油断に合わせて、魔術を発動し、カバーする。

「ストーンニードル!!」

 盗賊たちに向けて地面から石のトゲが生え、全て撃破する。どうやらこれで盗賊は全てのようだ。

「んじゃ、縛っとくね。」

「おう。・・・さて、ジークくん怪我は無いかな。」

「あ、あんたら魔術師だったのか・・・。」

「あの、助けていただいてありがとうございます。僕はベルでこっちはジークって言います。」

「ベルは礼儀がなってるな。俺はキョーヤでもう一人の方がナオキ。俺たちも魔術師だ。まぁ馬車に戻ってから話そうか。」


 御者のおっちゃんに礼を言われてから馬車はリュミナテへと再出発した。その途中で、俺は大人げなく子ども2人に説教をしていた。

「さて、ジークとベル。一つ先に聞いておきたいことがある。何故盗賊の前に飛び出した?」

「何故って・・・、盗賊だろ。倒さなきゃ進めないし、今更遅れをとる相手じゃないと思って・・・。それにあんたたちが魔術師なのも知らなかったし・・・。」

「俺はな、魔術師では無いはずとだけ言ったんだ。確信があったわけじゃない。もしさっきの相手が盗賊ではなく魔術師だった場合、お前たちは前に飛び出していた時点で負けていたぞ。」

「その、ごめんなさい・・・。」

「戦闘の基本も習っていないやつが戦場に出るんじゃない。いたずらに命を無くすだけだ。そして魔術師を隠していたのはな、お前たちだって知っているはずだろう。世間の魔術師を見る目は未だに厳しいからだ。」

 そういうとジークとベルは俯いて黙ってしまった。


「キョーヤ~。言葉強いって~。この子たちのこと何も知らないのに怒るのはダメだよ。」

「だがな・・・」

「キョーヤの言い分は正しいよ、間違ってるところなんて何にもない。けどそれ以上に気持ちが先に来ることだってある。それはできる限り減らさなきゃいけないことだけど、どうしても超えちゃいけないラインが人によってあるじゃん。キョーヤだってお兄さんの事になったら後先考えずに行動するでしょ。だからその子たちに最初に言うのは、守ろうとするのは偉いって褒めてあげるべきだよ。」

「・・・はぁ。そうだな。」

「ごめんね~、不器用で。一応心配してるんだけど伝わりにくいでしょ。さっきも言ったけど御者さんとパウルさんとウルニちゃんを守ろうとしてくれてたんだよね。ありがとうね。」

「い、いえ・・・結果的に迷惑をかけてしまったのは事実です。ごめんなさい。」

「気に病まなくて良いよ~。改めて自己紹介しよっか。せっかくみんなリュミナテ行くんだしね。俺はナオキ。魔術師だよ。」

「・・・ジーク。リュミナテ魔術学院生だ。」

「ベルと言います。ジークと同じく、リュミナテ魔術学院生で、今日から入学なんです。」

「あたしも自己紹介しときますね。ウルニと言います。よろしくお願いします。」

「キョーヤだ。ナオキとバディを組んで魔術師をしている。」

「さっきも言ったけど、パウルだ。商人だよ。よろしく頼むね。」


 こうして多少のいざこざに会いながらもリュミナテ魔術学院へと進み、少しだけ仲が深まった一行だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る