リュミナテ魔術学院にて

第9話 約束

「ふぁ~~~、あぁ。」

 大きなあくびと伸びをする。

 ここはマールク国内にあるドメルから比較的近い場所にある村。そこでキョーヤとその親友であるナオキはその村に住まわせてもらっている代わりとして村の警備を担当していた。


「おっきいあくびするねぇ、まぁ退屈ではあるんだけどさ。」

「ドメルであった戦闘から1週間が経過してるけど・・・、なんか村の周りの魔獣減ったか?」

「うん、明らかに減ってるね。」


 キョーヤとナオキは1週間前、村の周辺にある森の奥で褐色肌で紫色の長髪をした少女が倒れているところを見つける。その少女は名前をウルニと言い、それ以外の記憶が全て思い出せないと言いだした。彼らはウルニの捜索依頼が出されていないかと思い、マールク国首都であるドメルへと足を運んだ。

 そこでキョーヤとナオキは学院時代の同級生であるムギと出会い、魔獣の襲撃に立ち会わせてしまう。キョーヤたちは魔獣を一度退けたかと思われたが、突如として現れた馬型の魔獣にキョーヤは腹を貫かれて死の淵に立つ。その時、その場に居合わせていたウルニが魔術を使って魔獣を倒し、キョーヤを蘇生したのだった。

 その時の戦闘から1週間が経過していたが、明らかに村の周りに現れる魔獣の量が減っており、普段の業務が圧倒的に暇になってしまっていた。警備中に世間話すらできてしまうほどだ。


「ウルニ、どんな感じだ?」

「え~?特に普通だよ、ちゃんとご飯食べて運動してお風呂入って寝てるし。」

「それもそうだけどさ、魔術だよ。」

「あ~・・・。見ないね。あれから魔術を使ってるところは一度も見てない。」

「意図的に使ってないのかな・・・。でもあの時の事はウルニは覚えていないって言うしな・・・。」

 ドメルでの戦闘を思い出しながら話していると、正面から小さい影が近づいてきているのが見えた。


「ナオキ~!」

「んぉ、おかえり。ちゃんと買い物できたか?」

「うん、頼まれてたものは全部買ったよ!あ、キョーヤさんこんにちは!」

「ん、こんにちは。」

「ナオキ、ご飯用意しとくからね。ちゃんと時間通りに帰ってきてよ。」

「ありがと~~じゃあね~~」

 どうやらウルニがドメルの方へと買い物に行ってきていたようで、帰ってきていたらしい。なんだか明らかにナオキとウルニの間の関係が何というか、出会った当初とは反転しているように感じてしまい、思わずナオキに聞いてしまう。

「お前尻に敷かれてないか?」

「う~~んウルニちゃんがしっかりしすぎてるっていうか・・・。」


 今日の業務は終了。今日も魔獣は村には現れず、ここ1週間連続で見ていない。魔術の訓練にも使っていたため来てほしいわけではないのだがこうも来てくれないと腕が鈍ってしまいそうだ。装甲を外し、自分の衣服入れの所に直して鍵を閉める。さて帰ろうとしたとき、同じく魔術師でこの村を警備しており、後輩であるミズキから呼び止められた。


「キョーヤ先輩、ナオキ先輩!お手紙来てますよ!」

「んぇ、俺たちに?どこからだろ。」

「ん~~?リュミナテ魔術学院・・・。あれ、学院から?何で?」


 リュミナテ魔術学院。マールク国の隣国であるミシル国にある言ってしまえば魔術師の養成学校だ。数十年ほど前までは魔獣はこの世に存在しておらず、唐突に現れた魔獣を倒すためには、同じく魔力を持つ魔術師が魔術をもって打ち倒すしかないという研究結果がでた。すると、魔術師を雇う国が多くなり魔術師を騙る輩もそれに伴って増えていってしまった。そのため、このリュミナテ魔術学院を卒業したものだけが正式に魔術師として認められるようになっている。


「あ~・・・あ゛!!これ、魔術使用許可証の更新のやつじゃん!!やべ、もうそんな時期だっけ!?」

「え゛、うわマジだ。え、何時までだこれ。」

「え~とあと1か月くらい・・・?一応ギリ間に合うか・・・。よかった~~。」

「・・・こういうのって置いといたら無くすからな・・・。無くす前に早めに行って更新しとくか・・・。明日の警備担当ってミズキたちだよな確か。」

「え~っと明日は・・・ハイ。私たちですね。先輩たちは特に無いです。」

「よし、ナオキ。明日行くぞ。」

「え~~~~!!!急すぎるって~~!」

「さっきも言ったけどこういうのは早くて悪いことは特にないんだよ。というか前更新通知書来た時にまだ間に合うかとか言って、行くの忘れてクソほどめんどくさい手続き踏まされたのはどこのどいつだっけなぁ~?」

「ぐ・・・それ言われると・・・。はぁ、そうだね。明日行っとこっか・・・。ウルニちゃんどうしよ・・・。」

 ナオキがウルニの預け先に困っているようで、それを見ていた時に一つ案が浮かんだ。

「なぁ、ナオキ。一つ提案なんだが・・・。」


 その日の夜…

「ねぇ、お兄ちゃん。話があるんだけど・・・。」

「ん、どうしたの?」

「あの、明日さ、ナオキと一緒にリュミナテ魔術学院に魔術使用許可証の更新しに行くんだけどさ。」

「あぁ、あれ無いと魔術師名乗れないんだっけ。うん、気を付けていってらっしゃい。」

「うん。それでね、ウルニを魔術学院に連れて行こうと思うんだ。」

「ウルニちゃんを?何でまた・・・」

「その、魔術に精通してる先生も多いから、ウルニの隠してるというか、あの時俺たちに使ってくれた魔術の正体が分かるんじゃないかなって思ったんだ。そんでさ、また1週間前みたいにならないとも限らないじゃん。あ、もちろん気を付けはするけどね?だからもしかしたら帰るのが想定より遅くなるかもしれないって言っとく。」

「・・・うん。」

「ごめんね、こんな約束したくないけど。でも絶対生きて帰ってくるから。これだけは絶対守るよ。お兄ちゃんより先に死ねないもん。絶対、絶対帰ってくるから。」

「うん。気を付けてね。僕もキョーヤの帰り待ってるよ。それでリュミナテまで行くんだったら明日も早いでしょ?今日はもう寝なさい。」

「うん。お兄ちゃん、ありがとう。おやすみなさい」

「はい、おやすみなさい。」


 いつも通りの少し固めの枕に頭を預け、息をいつもより深く吸って吐いてを繰り返す。明日への不安と久しぶりの学院に対する何とも言えない緊張感を感じながら、瞼を閉じキョーヤは静かに眠った。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 翌朝。家を出る前に忘れ物が無いかの確認をする。更新のための通知書、魔術使用許可証、杖、財布。一通り必要なものはしっかり持っている。

「ん、そろそろ行く?」

「うん。忘れ物も無い。・・・それじゃ、行ってきまーす!」

「行ってらっしゃい、気を付けてね。」

 手を振って送ってくれた。今度こそ、心配させないように気を付けようとその姿を見て改めて思ったキョーヤだった。


 門前でナオキとウルニと合流する。

「お、キョーヤおっはよ~」

「おはようございます、キョーヤさん」

「ん、おはよ。ナオキ、通知書と許可証とちゃんと持ってるよな?」

「うん、バッチリ。ウルニちゃんも一緒に確認してくれたし。」

「よし、それじゃあリュミナテ魔術学院に行くか。」

「なんだかんだ言って久しぶりだね、何年ごとにやるんだっけこれ」

「確か4か5年ごとだったはず。先生たちも元気かな。」

「あの、あたしのこと診てくれるところに行くとしか説明されてないんですけど、具体的にはどこに行くんですか?」

「あ~それは、まぁ歩きながら話すか。」

 こうしてキョーヤ、ナオキ、ウルニの3人はリュミナテ魔術学院へと向かった。

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