第8話 ただいま
「いや~~帰ってきた帰ってきた。・・・会いたくねぇなぁ、怒られたくねぇ~・・・。」
お兄ちゃんに怒られる場面を想像し思わずうなだれてしまう。
「キョーヤが無理したのが悪いんだからね、ちゃんと怒られてきなよ。」
「が、頑張ってきてください・・・。」
「む、待てこの村に何の用・・・。キ、キョーヤ先輩ナオキ先輩!お疲れ様です!」
「あ、ミズキさん。警備お疲れ~」
「俺が倒れてた時代わりやってくれてたんだってな。ホントにありがとな。」
「いえ、キョーヤ先輩に比べればこれほどのこと屁でもありません!魔獣討伐ご苦労様でした!」
「あ、代わりといっちゃなんだけど・・・はい。ドメルで有名なパン屋のパンいっぱい買ってきたから他のやつらと食べてくれ。」
「あ、ありがとうございます!」
「あーー!!それ俺も買えば良かったーー!!!それめっちゃ美味しいパンのやつじゃん!!」
「これ美味いよな、これ間違いないから。」
村に帰ってきてナオキとウルニと別れた後、自分の家の前まで帰ってきた。
「・・・開けたくねぇ・・・。」
そう思い、家の前で何分かうろうろしていると痺れを切らしたのかお兄ちゃんがついに家から出てきた。
「いつまでそうしてんの。・・・入りなさい。」
「あ・・・お、お兄ちゃん・・・。」
テーブルを挟んで2人が座る。何を言われるかわからず、困ったようにお兄ちゃんを見るがお兄ちゃんも俺が話し出すのを待っているかのように俺をまっすぐ見ている。
「あ、あのお兄ちゃん・・・。」
「・・・なぁに?」
いやこれもう絶対怒ってるじゃん。なんか圧というか、凄いもん。今までに見たこと無いくらいの圧かかってきてるもん。
「そ、その・・・ごめんなさい・・・。」
「・・・それは何に対しての謝罪なのかな」
「それは・・・何も言わずに3日も家空けちゃって・・・」
「はぁ・・・あのね。そんなことに怒ってるんじゃありません。僕が怒ってるのはね、帰ってきたのにも関わらず言うべきことを言ってないからです。いつも言ってることを。」
「え・・・?あ、・・・た、ただいま?」
「はい、おかえりなさい。」
お兄ちゃんは俺がそういうと同時に俺に抱き着いてきた。
「ホントに、おかえり・・・。心配したんだからね。」
「お兄ちゃん・・・。うん、ごめん・・・ごめんね・・・。」
緊張の糸が切れたのか、なぜか涙が出てくる。思わず、お兄ちゃんを抱きしめる力が強くなってしまった。何も言わずに3日も家を空けたこともそうだが、お兄ちゃんはずっと俺の帰りを1人で待っていたのかと思うと、胸がきゅっと苦しくなる。たった1人しかいない家族を悲しませてしまったことへの怒り、死にかけていたことへの恐怖、家に帰ることのできた安心感、全てが入り混じった感情で心がぐちゃぐちゃになる。
1分くらい抱きしめあいながら泣いていただろうか。落ち着いて腕を緩め、お兄ちゃんを離す。
「お兄ちゃん、ごめんね。」
「うぅん。キョーヤが帰ってきてくれたことが何よりも一番だよ。死にかけてたって聞いたときはホントに倒れるかと思ったけど。」
「ホントにごめんね・・・。でももう体もばっちりだから。ウルニが俺の身体を治してくれたんだ。そこから悪くなることも無かったし、不調といえばお腹が減ってるくらいしかないよ。」
「うん、無事でよかった。あ、それじゃご飯用意しよっか。ちょうどいい時間だしね。」
「やった、お兄ちゃんの料理だ!手伝うことある?」
「う~ん、特には・・・。あ、それじゃあ食器とか運んどいてくれるかな?」
「任せて!」
3日ぶりのお兄ちゃんの料理に舌鼓を打ち、その日はお兄ちゃんと共にゆっくりと休んだキョーヤなのだった。
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