第7話 生還、残る謎

 身体が重い。

 上に何かが乗っているのか、押しつぶされそうだ。瞼を開こうとしたが、差してきた光があまりにも眩しくて閉じてしまった。

「ん・・・ぐ・・・」

 声も思わず漏れてしまう。


 ようやく目が慣れてきたのか、やっと目を開くことができた。目に飛び込んできたのは俺の左手を枕にして寝ているナオキと俺の身体に顔を伏せているムギの姿だった。

「重・・・何やってんの・・・」

 痺れそうだったので左手を抜こうとしたが思ってたより強い力で握られていたので、抜けなかった。面倒なので起こすことにする。

「おい、何やってんだ。起きろ。」

「ん・・・。キョー・・・!キョーヤ!!起きた!!!?」ガバッ

「うるせっなんd

「キョーヤ!!!!起きたのか!!!?」ガバッ

「うるせぇうるせぇ起きたばっかだから声量落としてくれ・・・」

「あっご、ごめん・・・。キョーヤ、キョーヤ生きてる?夢じゃないよね?」

「・・・何言ってんだまだ寝ぼけてんのか?ほら、起きろ」グイー

「い、痛い痛い痛い。つねらないで・・・。でも、夢じゃない。よかった・・・。ホントに、良かったよ・・・。」

「キョーヤ・・・」


 ナオキとムギが泣きながら俺に抱き着いてくる。頭にハテナを浮かべながら2人を見てると、扉が開く音がした。

「キョー・・・キョーヤさん!起きたのね!」

「ウルニ、俺に何があったんだ。こいつらもどうしたんだ。」

「えーっとね、あたしにもよくわかんないっていうか・・・。話によると死にかけてたらしいんだけど。」

「え゛!?」

「そうだよ!!あの時に魔獣と戦ってた時にお腹ぶち抜かれて瀕死だったんだよ!!」

「ホントに死ぬところだったんだぞ・・・。」

「え、じゃあムギたちだけであの魔獣倒したのか・・・?」

「あのね・・・」


 ナオキとムギが自分が瀕死だった時に何が起きていたのかを事細かに教えてくれた。ウルニが魔獣を倒し、俺を治癒したこと。その後にウルニが意識を失い、一緒に病院へと運んだこと。そしてあの魔獣との闘いから3日が経ってしまっていたこと。


「俺3日寝てたのか!?や、ヤバ・・・お兄ちゃんになんも言ってなかったのに・・・!」

「あ、それに関しては大丈夫だよ。俺からしっかり詳細伝えといたし。お兄ちゃんそれ聞いた後倒れかけてたけど。」

「それよりも療養に専念しろ。完璧に回復しきっているわけではないのだからな。」

「そうだよ、キョーヤさん。あ、そういや・・・ハイ!3日なんにも食べてなかったから、パン粥!あったかいうちにね。」

「あぁ、ありがとうウルニ・・・。ズズ・・・ん、美味い。」

「良かった。それじゃタオルとかの替え持ってくるね。」バタン…


 ウルニが下りて行ったのを聞いてからナオキたちと話し始める。

「で、だ。さっき言ってくれたこと、全部ホントなんだな?」

「あぁ、事実だ。私たちがこの目で見た。何よりキョーヤが死にかけていたのに嘘をつけるわけもない。それと、さっきはウルニが居たから言わなかったが、彼女の口調というかが変わっていたんだ。」

「俺も見たよ、全部。あんな魔術を使う魔術師、学院の先生でも傭兵でも見たことなんかなかった。魔獣が独りでにちぎれたり、魔獣の肉を使って傷を塞ぐなんて・・・。倒したのも斬撃を飛ばすとかならまだしも、剣も何も持たずに手をかざしただけだったんだよ。」

「魔術自体にも疑問が残るが、その魔術に使っていた魔力量も異常だった。手の周りの空間が歪んで見えるほどの魔力・・・。今回の魔獣襲撃はこのドメルでも魔術師が公式に認められてからの記録でずっと無かったことだ。そして今回ウルニというイレギュラー、・・・一連の事件がウルニが引き起こしたということは・・・」

「滅多なこと言うな、それにだとしたら俺たちを助けたことと辻褄が合わないだろ。・・・ただ、普通の女の子っていう線は消えたな・・・。隠してることでもあるのか・・・。」

「でも、ウルニが目を覚ました時に一応聞いたんだよ。あの魔術は一体なんだって。そしたら何も覚えてないみたいでさ・・・。身に覚えがないってずっと言うんだよ。」

「それらが嘘という可能性は?そこまで彼女は信頼に値する人なのか?」

「それは・・・分かんないけどさ・・・。」


「・・・ただ、俺たちを助けてくれたことは事実だ。少しくらいは、信頼してやっても良いんじゃないか。少なくとも俺は、助けてくれたやつのことを疑うような真似はあまりしたくない。」

「・・・うん、俺もそう思う。昨日会ったばかりだし、一緒にご飯食べたくらいだけどさそんなに裏があるような子には見えなかったよ。」

「・・・はぁ。まぁ、キョーヤたちがそういうなら良いだろう。ただ、警戒はしておくんだな。もし今度暴走してキョーヤたちに向けて魔術を撃つような人だった場合、私が容赦なく斬る。」

「うん。それにしても、お前たちも無事でよかったよ。市民の被害とかはどんな感じだったんだ?」

「市民の被害はほとんどなかったようだ。どうやらあの馬型の魔獣は私たちの方にだけ現れていたらしく、南門で警護していた魔術師の証言によると魔獣がドメル市内に入っていくことは防いだし、討伐もできたらしい。ますますあの馬型魔獣の正体が気になる。今まで数多くの討伐依頼を受けてきたが、ああいう魔獣が別の魔獣に変わるといったのは見たことも無かった・・・。」

「今度俺たちもああいうことが他の地域で無かったか探しとこうか。もしあったらムギに報告しに行くし。」

「あぁ、よろしく頼む。ともかくキョーヤ、生きていてよかった。ゆっくり体を休めるといい。私は業務がまだあるのでね、ここらで失礼するよ。」

「あぁ、ありがとうムギ。また飯でも奢るよ。」

「じゃ~ね~。」

バタン…


「・・・あいつ目ヤバかったな・・・。斬るって言ってたのもしかしなくてもガチだよな」

「だろうね。いや~~~にしてもマジで生きてて良かったよ・・・。次は無茶しないでよ、俺には・・・キョーヤしかいないんだからさ・・・。」グス…

「ナオキ・・・。うん、すまなかった。次からは絶対気を付けるから。俺もお兄ちゃんがいるのに死ぬわけにはいかないからな。」

コンコンコン

「キョーヤさん、入っても大丈夫?タオル持ってきたけど・・・」

「ん、大丈夫だよ~。ありがとう。」

ガチャ…

「あ、ムギさん帰ったの?」

「うん、仕事の途中で来てくれてたみたいで帰っちゃった。」

「パン粥ありがとな、美味かったよ。」

「良かった。・・・あの、さ。」

「?」

「その・・・いや、なんでもない。体に痛いところとか、変なところとか無い?」

「ん・・・そういや、特に痛いところは無いな・・・。腹ぶち抜かれたはずだろ?触っても痛くない。腹こそ減りまくってるけど、それ以外は特になんもないな。」

「なら良かった・・・。」

「んじゃあ、動いても大丈夫そう?早く一緒に帰りたいし、ご飯食べようよ~」

「そうだな、お兄ちゃんも待ってるし早く帰らなきゃ。3日なんも言わずに帰らなかったからな・・・。多分カンッカンにキレてるだろうな・・・。」

 少し陰鬱な表情を浮かべながら俯くウルニに気づくことなく、そんな話に花を咲かせていたナオキとキョーヤだった。


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