第6話 救け

「はぁ・・・はぁ・・・」

 ムギが息を切らしながらも、魔獣へと剣を向ける。魔獣が炎を纏って突進し、それをギリギリで避ける。

(クソ・・・ジリ貧すぎる・・・!あれから何分くらい戦ってる?増援はまだ来ないのか・・・?クソクソクソ、どうなってんだよ!)

「―ヤ!キョーヤ!!!」

「え」


空が見える。何が起きた?何だ、体の感覚が変だ。腹が冷たい、いや熱い。

視界の端でナオキが何か言ってる。何言ってんだ、全然聞こえねぇ。なんか、泣いてんのか?左側がなんか見えない。

なんだこれ、滅茶苦茶気持ち悪い。あー、やば、魔獣、倒さなきゃいけないのに。お兄ちゃんと約束したじゃん。死なないって言ったのに。まだただいまって言ってないのに。まだ何も返せてないのに。

あ、死ぬのか、俺。やだな。

「お・・・・・・に・・・・・・ちゃ・・・」


「キョーヤ!!!!おい!!!!目覚ませって!!!!」

「クソッ!!!ナオキ!!!キョーヤを連れて街に行け!!!まだ助かるはずだ!!!早く!!!」

 ナオキが必死にキョーヤに治癒魔術をかける。腹から流れる血が止まらず、目が虚ろになっていく。必死に呼びかけても返答が無い。ここでキョーヤに早く治療を施さなければ死んでしまう。だがナオキが私と戦えばキョーヤだけではなくなる。もし奇跡で倒せたとしても、どちらかを失う絶望。ナオキはパニックになってしまい思わず涙を零した。どうすればいい、どうすればいい。ここで全部終わるのか。


「誰か、助けて・・・。」



「ナオキ」

「・・・ウルニ、ちゃん、なんで、ここに」

 ウルニの手がキョーヤの首に触れる。

「・・・まだ脈はある。これなら間に合うはず。あの時の礼をしっかり返せてないからな。」

「へ・・・?」

 そう言ってウルニは今度はムギの方へと歩いて行った。ウルニであるはずなのに、何か雰囲気が違うような、足取りが違う気がする。あれは本当にウルニなのか?


「クソ・・・もう・・・!」

 明らかに遊ばれている。格下だと魔獣に遊ばれている。無理だ。これ以上耐えるのはもはや無理だ。

「ムギ」

「!?ウルニ!?何故ここに!いや、そんなことよりも早く逃げろ!!」

「どいておけ、巻き込まれたらただではすまんからな。」

「何を―」

 そう言うと、ウルニが魔獣に向けて手を向ける。見ても分かるくらいの膨大な魔力がウルニの手に集まり、周りの空間が歪んで見えた。

(なんだ・・・!?この魔力の量は!何が起きている!?ウルニは魔術師なのか!?いや、にしたってこの魔力はおかしい!人間の扱える量じゃないぞ!!)


 明らかな魔力が集まっている異変を察知した魔獣が慌てて炎を放とうとするが、それよりも早くウルニの魔力が放出され魔術が発動する。

「堕ちろ、デバイド」

ばつん。ウルニが一言呟くと同時に魔獣の四肢と首がちぎれ、バラバラになる。

「ふん、こんなものか。」

ウルニは魔獣の前脚を持ち、キョーヤの元へと急いだ。


「ウルニ、ちゃん・・・?」

「急いで治療するぞ。キョーヤをそこに寝かせろ。」

「な、なにを・・・」

「キョーヤ、助かるにはこれしかない。・・・恨むなよ。」

 魔獣の前脚とキョーヤを並べ、キョーヤの腹に手を添えて呪文を唱える。

「直せ、リカルド」

すると、魔獣の前脚の肉がキョーヤの腹を直すかのように動いていき、傷口が塞がっていった。

「・・・は?」

「ナオキ、あとは、頼んだぞ・・・」

 そう言い残してウルニは倒れた。全てを見ていたムギとナオキは困惑した表情でその場に取り残されていた。腕に眠っているウルニとキョーヤを抱えて。

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