第2話 初めまして
「どんな感じだ?」
「う~~~ん、特に異常は無い・・・かな?というか別に俺治癒魔術使えるだけで診察できるわけじゃないんだけどね」
「とりあえず診てくれればいいだけだから、本格的にヤバかったら医者んとこ連れてけばいいだろ」
ナオキが褐色肌の女の子をベッドに寝かせてから診察して結論を下す。村とお兄ちゃんの安全のためにも聞きたいことは山ほどあるので、早めに起きてもらわなくては困るのだが。
「ま、とりあえず大丈夫かな。治癒も一応し終わったし、村長に今日の報告しに行ってくるわ。」
「ん、俺も行くわ。」
「いや、お前も来たらその子見てるやつがいなくなるだろ。だからお前残っといて、んじゃ行ってくるね。」
「えぇ・・・。」
扉の閉まる音を聞いてまぁいいかと思いながら、引き続き女の子が目覚めるのを待つ。
俺が最初に倒した魔獣が少なかったのも、残りの魔獣がコイツを狙っていたからなのだろうか。そもそもコイツは魔術師なのか?魔術師じゃなかったとしても何故あんな森の中にいたのか。色々と思うところがある。
「・・・ぐ・・・うん・・・」
「おっ」
そうこう考えていると女の子が起きたようだ。
「うん・・・ん?何処・・・ここ」
「ようやく起きたか。」
「!?」ビクッ
女の子が驚いた顔をしてこちらを見る。目が覚めたら知らない場所で隣に知らない男が座って起きた途端に話しかけたらそりゃビックリもするか。とりあえず警戒を解くためにも敵意が無いことをアピールしながら話しかけてみる。
「目は覚めたか?どこか痛かったり変なところはあったりしないか?」
「あ・・・無い、です。」
「そりゃよかった。あんたな、森の奥の岩の裏に倒れてたんだよ。魔獣も近くにいたからそのまま放置してたら危なかったし、見つけてしまったから見過ごせなくて助けたんだ。」
「あ、ありがとう・・・。」
「お礼ならもう1人ここに戻ってくるやつがいるからそいつに言ってやってくれ。あんたを見つけたのも治癒をしたのもそいつだからな。とりあえず、名前とかどこから来たとか諸々教えてくれないか?」
「あ、あたしは・・・」
「あたしはウルニ、ウルニ・グルモス。どこから来たかは・・・ど・・・どこだっけ・・・」
「・・・えぇ?」
「ご、ごめんなさい・・・。その、ほんとにわから」グゥ~~~~~~~
腹の虫が緊張した部屋の中に響く。
「・・・ハハッwwハハハwwwwwww分かったわかった、ご飯な。俺もまだ食ってないし、一緒に食うか。」
鳴らした当の本人はだいぶ顔を赤くして俯いて動かなくなってしまっている。思わず笑ってしまった。少し警戒しすぎていたのかもしれないなと思いながら席を立ち、キッチンへと向かう。村の見回りが終わって帰ってから俺が2人分の昼飯を作ってナオキにも振る舞うのが日常で、今日はまだ昼飯を食べていないことを思い出した。今日も作るのは得意料理であるパスタだ。お兄ちゃんが作ってくれた、お気に入りの、思い出の味。ただどうやってもお兄ちゃんの味の再現ができないけど。
キ「ほい、できたぞ。アスパラとエリンギのペペロンチーノ。」
ニンニクと胡椒の食欲をそそる香りが鼻腔をくすぐる。食卓に俺とウルニの皿を置いてウルニを呼ぶと、目を輝かせて席に着き勢いよく食べ始めた。よほど腹が減っていたのだろう。
「落ち着いて食えよ、喉に詰まらせないようにな。」
しっかり食べているところを確認して、俺も食べ始める。うん、美味い。作るたびに味が濃くなっている気がしなくもないが、好みの味だからしょうがない。
「たっだいま~~。って、あれ!その子起きてるじゃん!しかも飯も食ってるじゃん!俺の分は!?」
「ちゃんと用意してあるから。ほら、席に着け。」
「やったー!ナオキの料理はなんでも美味いからな!」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
からん。フォークを置いて椅子にもたれる。
「美味しかったー!また腕上げたんじゃない?」
「お兄ちゃんに比べりゃまだまだだろ。」
「毎度のことながらお兄ちゃん大好きだね~ホント。あ、そういやキミ名前は?どこから来たの?何で倒れてたの?」
「うぇっ!?あっあの~・・・」
一気にいろんなことを聞かれて明らかにパニックになっている。初対面なのにこんなにぐいぐい聞かれたらそりゃ慌てるだろう。
「一気に聞き過ぎだっつの、一個ずつ質問してやれ。初対面なの忘れんなよ。」
「あっごめんごめん。聞く前に自己紹介しなきゃね!俺の名前はナオキっていうの!18歳で魔術師!この村の魔獣討伐係っていうか警護担当してる。んで、料理作ってくれたコイツがキョーヤっていって、俺のパートナーなんだ!キミが倒れてるとこ助けたのもキョーヤなんだよ!」
「あ、あの、助けてくれてありがとう。ご飯も、ありがとう。あたしの名前はウルニ・グルモスって言います。どこから来たとか、何で倒れてたのかっていうのが、その全然わからないというか覚えてなくて・・・。ごめんなさい。」
「えっ!!?覚えてないってホント!?記憶喪失ってやつー?だとしたらヤバいねぇ。」
のんびりした声で全然ヤバく無さそうにナオキが言う。何というか、気が抜けるんだよな、コイツと話していると。
「村長に報告はしたのか?」
「うん。一応した。とりあえず匿うけど気をつけろみたいなこと言われたよ。な~んかピリピリっていうか、イライラしてた感じしたけど。」
「まぁ言ってしまえば余所者みたいなもんだからな、気をつけろって言うだろ。イライラしてんのは、あれだろ。魔術師が面倒ごと持ち込むなってことじゃねぇの、どうせ。村長がもとより魔術師自体に排他的っていうか、あんま良く思ってない節はあるし。」
「ふ~~~~~ん・・・。だとしても俺たちにぶつけないでほしいねぇ、ちゃんと警護だってしてんだからさ。ま、それよりもウルニちゃんだね。どうしよっか。」
「そりゃ身元分かるまで保護だろ。捜索届とか出てないかみたいなの都市部まで行って色々頼むしかない。」
「あぁいやそれは当然だけど、どこで過ごすの?村の人たちは良く思ってないみたいだし。俺かキョーヤの家くらいしかないし。」
盲点だった。自分たちが保護したからどちらかが見つかるまで面倒を見なければならないのは当たり前だ。
「うちは寝床が俺とお兄ちゃんの分しかないからなぁ・・・。ナオキ、頼まれてくれるか?」
「おっけー!じゃ、ウルニちゃん一旦俺ん家で過ごそうね!明日都市部に行って色々探してもらうし!それでもいい?」
「う、うん。」
「やったー!じゃ、パーティの準備しーちゃお!ウルニちゃんいらっしゃいパーティ!飾り付けは今からだともう遅いし~、料理だけでもちょっと豪華にしよっと!」
そういうとナオキはウキウキでステップを踏みながら自分の家に帰っていき、パーティの準備をしに行った。
「あ、あの・・・」
「うん?」
「その、大丈夫なの?」
「う~ん、まぁ大丈夫だろ。ナオキも料理上手いし。」
「いや、そっちじゃなくて・・・。」
「あぁ、別に気にすることは無いよ。何もしなければ何もしてこないしな。まぁなんか言われたりくらいはあったりするかもしれないけど、大丈夫だよ。」
「・・・そっか。」
ナオキなら別に何もしないだろう。単純に客人が来てくれてはしゃいでるだけだろうし、料理も美味い。村の人も新しい人に警戒してるだけだろう。それにさすがに興味使ったばかりの人に出ていけという事も無い、だろう。多分。きっと大丈夫なはずだ。お兄ちゃんに特に何か不都合が来るわけでもないはずだし。明日都市部に行くことになるし、お兄ちゃんに何か土産でも買うことにしよう。
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