第4話

カーン,カーン,カーン・・・




マルは一心不乱につるはしを振るっている。




(全然見えてこねぇなぁ。青色鉱石。)




カーン,カーン,カーン・・・




青色鉱石の採掘は至ってシンプルだ。




岩壁にいい感じにヒビを入れて,割って崩して掘り進める。青色鉱石が見えてくるまで,とにかく掘り続ける。青色鉱石は硬く,ちょっとやそっとでは傷がつかないため,力加減は気にせず掘り進める。青色鉱石が見えてきたら,その周りにヒビを入れて崩して取り出し,袋に問題なく詰めれるサイズになるまでくっついている岩を砕いて袋の中に入れる。それだけの単純作業だ。そう,単純作業。単純作業だからこそ,




(・・・しんどぉー。)




しんどい。とにかくしんどい。単純作業の肉体労働だからとにかくしんどい。


つるはしは重いし,筋肉痛は痛いし,洞窟の中だから幾分涼しいが,それでも疲れる。そして,飽きる。シンプルだから飽きる。青色鉱石が見えるまで,ゴールが見えないから嫌になる。今やってる採掘は自分のノルマの為でも,バツのノルマの為でもないからより一層嫌になる。ああー休みたい。早く楽になりたい。汗もうざったい。こんな自分のためにならないことしたくない。だるさ,めんどくささが果てしない。分かる。サンカクの気持ちが痛いほどわかる。




(本当なら,今頃俺は別の場所を掘り進めているはずだったのに。・・・まぁ仕方ねぇか。)




カーン,カーン,カッ




ん?




そのとき,今までにない感触がつるはしごしに手に響いた。




(なんだ今の?)




固い感触だ。マルは一旦掘るのを止め,今しがたつるはしを振るった岩壁に近づいていく。




それはところどころひびの入った何の変哲もない灰色の岩壁。一見何の変哲もない岩壁だが,さっきつるはしの先が当たったところはひびが不自然に小さい。少し屈んでよーく目を凝らすと,米粒程の赤が見える。




なるほど,さっきの感触はこれに当たったせいだな。




(しかし,何だこの鉱石。かれこれ10年近く採掘やってるけど初めて見る。黒い鉱石はたまぁに見るけど,こんな赤いの見たことねぇぞ?)




その赤は,向こう側が見えてしまいそうなほど透明感があり,それでいてしっかりとした唐紅色を帯びている。


マルは興味本位でその赤い鉱石に指で触れてみた。




(・・・うん,固い。やっぱり鉱石っぽいな。・・・ん?あれっ?なんかぬくくね?)




「なぁバツ─




「おっ,やったじゃんゴカク!青色鉱石が見えてきたよ!あともう少しだ!」




「うん!」




赤い鉱石が人肌くらいの熱を帯びていることに気づいたマル。すかさずバツに声を掛けるが,バツたちは青色鉱石の採掘に夢中でマルの声に気づいていない。




「・・・」




(・・・まっ,いっか。俺よりもいろんなところで採掘してるバツなら知ってそうだと思って声を掛けたけど,別に今すぐ意見が聞きたいわけじゃねぇし。青色鉱石の採掘の邪魔をすんのも悪いしな。)




そうしてマルは,再び赤い鉱石を見つめ,顎に手を当てる。




(ふーむ。とりあえず,この赤い鉱石を採掘してみて,後でバツたちに見せるか。別に青色鉱石以外は取っちゃだめって決まりはねぇはずだし。どんな形で,どのくらいの大きさなのか純粋に気になるしな。)




「よし。」




赤い鉱石を採掘することに決めたマルは気合いを入れると,再びつるはしを持ち上げ,岩壁に振るい始める。




(ここと・・・)




カーン




(ここと・・・)




カンッ




(ここ!)




カッ,がらがらがら・・・




長年の採掘経験で培った勘で,効率的に岩壁を破壊するマル。


赤い鉱石もろとも岩壁が崩れ,砂利と共に本体が地面に転がる。




(おっ,綺麗に取れたな。)




マルはすかさず,地面に落ちた赤い鉱石を拾い上げた。




触れている指に鉱石の温かさが伝わる。




(・・・あったけぇー。)




マルの手に収まるくらいの単結晶の鉱石。表面の土をぱっぱと払うと,透き通るような赤が露になる。普段,鉱石に魅力を感じることがほとんどないマルでも,心が奪われてしまいそうになるほどの美しさだ。




(すげぇ綺麗だ。不思議だなぁ,この鉱石。・・・よし,とりあえずバツに見せに行くか。驚くかなぁあいつ。)




にやりとするマル。すぐさま,バツに声を掛ける。




「バツ!ちょっと見せたいもんがあるんだ!今からそっちに─




ふっ




その瞬間,マルは気を失い,その場に膝から崩れ落ちた。


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