第3話
採掘場で働く子どもたちの肌の色は様々だ。
マルやバツのような黄色っぽい肌の人もいれば,真っ白な肌や黒い肌,褐色肌の人もいる。
皆,4歳から5歳の時に連れてこられて,12~15歳くらいまでずっと働かされる。
仕事は10歳未満は三人一組,10歳以上は二人一組で行うことになっている。
年中無休で,労働時間は決められていない。あるのはノルマだけだ。
働き始めて最初の三カ月は青色鉱石3個,10歳未満は青色鉱石6個,10歳以上は青色鉱石10個。青色鉱石は,子供の握り拳程度の大きさがあれば1個としてカウントされる。極たまに小さすぎて1個として認められなかったりすることもある。1個採掘するのに平均1時間30分~2時間かかる。
ノルマが達成できれば,その時点でその日の仕事は終わりだが,同じチームの人達全員がノルマを達成するまでは帰れず,ノルマが達成できなければ夕食の時間以外はいつまでも働かせられる。流石に徹夜で働く羽目になった人を見たことはないが,真夜中に泣きわめいている声を聞いたことは何度かある。
多分,ブラックな職場だ。
ちなみに,大広間から採掘場所までの地図があって,毎朝その地図に沿って,どの組がどのあたりで採掘するか割り当てられる。地図は監督官だけが持っているため,大広間でしか確認できないが,毎朝確認しているので,ほとんどの子ども達は地図の内容を覚えている。採掘の早いチームほど奥の方を任される。
「おっ,バツ兄ちゃん。来てくれたんだ。あれっ?マルもいるのか。珍しいな。」
つるはしを振るっていた黒い肌の男の子─シカクが近づいてくる俺とバツに気が付き,手を止める。
シカクは俺たちから見て右側の岩壁を掘り進めており,左側の岩壁には二台の猫車と二人の男の子が座っていた。猫車には,両方ともこんもり砂利が積もっている。
「おいっ,俺は呼び捨てかよ。」
「当たり前だろ。マルは尊敬できないもん。」
「殴るぞてめぇ。」
「あれ,サンカクとゴカクは休んでるんだ。ノルマ終わったの?」
「いや,サンカクと俺は終わってるけど,ゴカクのノルマは終わってないよ。ゴカクのやつ,またいじけてるんだ。」
褐色肌の男の子─サンカクはつるはしを壁にかけてくつろいでおり,その隣では色白の男の子─ゴカクがつるはしを地べたに置き,うずくまっている。ゴカクは先月新しくやってきたばかりの男の子で年齢は5歳だ。ちなみにサンカクとシカクは9歳,俺とバツは13歳だ。
「おかげで,まぁーた俺がゴカクの分まで掘る羽目になってんだぜ。おいっ,サンカク!お前も手伝えよ!」
「・・・。」
サンカクは岩壁にもたれ,両腕を枕にして目をつむっている。シカクの呼びかけにピクリとも反応を示さない。
「まぁーた無視かよ。ぜってぇ寝たふりしてるだろ。ほんと嫌になるぜ。」
「そっか。それは大変だね。」
バツはそういうと,ゆっくりとゴカクの下へと近づき,しゃがんで目線の高さを同じにした。
「ゴカク,どうしたの?疲れちゃった?」
「ごかくじゃないもん。マー君だもん。」
ああー,そういう感じね。
マルは同情するような目つきでゴカクを見下ろす。
来たばかりの子どもに,ときどきこういう奴がいる。元の呼び名を覚えている奴だ。普通子供たちはここに連れてこられる前に,ハウスで新しい名前を付けられる。物心つく前に付けられて,以降その名で呼ばれ続けるので,元々の名前や呼び名を覚えている奴は滅多にいない(かくいう俺も,元の名前は覚えていないし,マルという呼び名もしっくり来ている)。しかしたまぁに,来たばかりの子どもで,ここに来る前の呼び名を覚えている人がいて,こうやって新しい名前で呼ばれるのを嫌がることがあるのだ。まぁ,そういう奴も大体1,2年もすれば慣れてきて,元の名前も忘れてしまうことが多い。
ちなみに,ハウスで与えられた名前以外で呼んでいるのがばれると,殴られたり,夕食抜きにされたり,最悪殺されたりするので(俺たちの先輩の何人かは見せしめで殺された),相手が嫌がってもみんな新しい名前で呼ぶことにしている。
「ごめんね。ここでは君のことを『ゴカク』って呼ばなきゃいけない決まりなんだ。君のことをゴカク以外の名前で呼ぶと,僕たち殴られちゃうかもしれないんだ。理不尽だとは思うけど,そういうルールなんだ。だからさ,ゴカクって呼ぶの,許してもらえる?」
「・・・うん。」
「ありがとう,ゴカク。君はほんとに優しいね。・・・それでさぁ,ゴカク。シカクのことなんだけど,彼がどうして今採掘してるのか分かる?」
バツは,優しい口調でゴカクに問いかける。
「・・・僕のお仕事が終わってないから。」
「そうだね。ゴカクの分まで青色鉱石を手に入れるために掘ってくれてるんだよね。それって,やりたくてやってることだと思う?」
「・・・ううん。」
ゴカクは小さく首を横に振る。
「そうだよね。シカクはやりたくてやってないはずだよね。でも,ゴカクやサンカクと早く一緒に帰るために,頑張って掘ってくれてるんだよね?」
「・・・うん。」
「それじゃあさ,シカクのためにも,一緒に掘ろうよ。僕もマルも手伝うからさ。」
「・・・でも,うまくできないもん。」
ゴカクは俯きながら小さく答える。
「大丈夫,僕が教えてあげるよ。だから一緒に頑張ろう。ね?」
「・・・うん,わかった。」
「よし,それじゃあ一緒に頑張ろうか。さっ,つるはしを持って。・・・よーし偉い偉い。それじゃ,掘りに行こっか。」
そうして,ゴカクはつるはしを引きずりながら,バツと共にシカクのそばまで行くのであった。
すげぇな。バツ。前々から皆に好かれてんなぁとは思ってたけど,あんなに人の扱いうまかったのか。
マルは感心しながら,バツの後姿を見つめている。
「フッ。」
そのとき,鼻で笑う声がして,マルはサンカクの方に目線を移した。サンカクはニヤニヤしながら,バツとゴカクの後姿を見ている。
「・・・バツ兄はすげぇなぁ,子供の扱い方をよくわかってる。」
「お前も子供だろ。ってかやっぱ起きてたんだな,手伝わなくていいのか?」
サンカクはマルの言葉を受け,ウーンと伸びをしてあくび交じりに答える。
「マル兄ならわかるだろぉ?必要以上に働きたくない俺の気持ち。」
「はぁ・・・。お前,そんなだからいろんな奴らから陰口言われんだぞ?」
「それはマル兄も一緒だろ?」
「・・・。」
俺,いろんな奴らから陰口言われてたんだ・・・。
ちょっぴりショックを受けるマル。
「それに,他人からどう思われようと知ったこっちゃねぇっていうのが俺なんでね。」
「・・・気持ちは分からんでもないが,そんなだと,困ったときに誰も助けてくれねぇぞ。」
「大丈夫。俺はもともと誰かに助けてもらいたいなんて思ってないから。」
「そうかよ。・・・そんじゃ俺は掘るぜ。シカク!あと何個見つければいいんだ?」
「あと2個。そっちの奥の方掘ってくれるか。サンカクがそこら辺で三個見つけてた。まだあるかもしんない。」
「オッケー。」
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