第2話
この洞窟は,青色鉱石採掘場
30人の人間の子ども達と,リザードマン達が働く場所。
俺とバツは─っていうかここで働いている人間の子ども達は,物心つく前から4,5歳くらいまで庭のある白い家─ハウスで過ごし,この世界の言語を覚えたあと、この場所に連れてこられ,働かされることになる。
リザードマンは監督官(トロッコで青色鉱石を運んだり,俺たちの仕事ぶりを監督するのが仕事。トラブルが起きた時の対処もしてくれる)が二人,給仕係(朝と晩に俺たちの食事を台車で持ってくるのが仕事)が二人働いており,警備員(子供たちが夜逃げや不審者の採掘場への侵入防止のために洞窟の入口で見張っている)も二,三人夜中に働いているそうだ。その他にも何人か働いているらしいが,洞窟から外に,というより大広間から先には行ったことがないため,見たことがなく,詳しい人数は分からない。
監督官は大体2年で,給仕係は3年くらいで人が入れ替わっている。スペクタとケルンは今年から新しく来た監督官だ。
・・・確かに,あの二人は今までの監督官よりかはましだ。滅多なことで暴力は振るわねぇし,青色鉱石をわざとぶちまけて拾わせるみたいな嫌がらせをしてくることもない。でも,だけどよ・・・
「ねぇマル,ちょっと早いって。」
「お前は何とも思わねぇのかよ!」
マルの声が洞窟内に反響した。
「・・・マル,落ち着けって。そんな大声出すとみんなに聞えちゃうよ。」
「・・・ちッ。」
再び歩き出したマル。神妙な面持ちで,その後について行くバツ。
「・・・そりゃあマルの気持も分かるよ.無理やり食べさせられて.」
その言葉に,マルはイラつく。
「それだけじゃねぇだろ.」
「えっ?」
マルは再び立ち止まり,バツの方を向いてまくし立てた。
「あいつはッ!俺たちに残飯を喰わせたんだぞっ!?100%善意で!食わせてやるって態度でっ!完っ全に俺らを下に見てるじゃねぇか!」
「・・・何言ってるのマル?実際下じゃん.スペクタさん達は言ってみれば僕らの上司でしょ?」
「・・・ああー,もうっ!お前じゃ話になんねぇよっ!」
マルは再び歩きだす。
「・・・逆にマルはどうしてそんなにそのことに苛立つのさ。そりゃあ確かに,見下されるのはプライドを傷つけられると思うよ。でも,別に見下されてたとしても,普通に生きていけるんだからそれでいいじゃん.」
「『普通』って,お前はそれが普通でいいのかよ!見下されながら,いつまでも暗い洞窟でつるはし振るう生活が普通でっ!お前はほんとにいいのかよ!」
「・・・なんでよくないのさ。こうして友達と話ができるだけで楽しいじゃん。」
「おまえは幸せの閾値低すぎなんだよっ!」
マルはバツの言葉を全力で否定し,顔を前に向ける。
「・・・俺はぜってぇに今の暮らしじゃ満足しねぇ。いつかぜってぇ自由になってやるんだ。」
「・・・。」
二人の距離がだんだんと開いていく。
足音だけが,静かに狭い洞窟内を反響していた。
「・・・そういえば,僕らもそろそろ卒業だね。」
「あっ?なんの話だ?」
「・・・ん?もしかして聞いてないの?・・・そっか,ノルマ終わったら大体すぐに帰ってたもんね。まだ話してもらってないのか。もう四日くらい前にスペクタさんから聞いた話なんだけど,もうすぐ僕ら,この仕事場から離れるんだって。」
その言葉に,マルは仰天して足を止める。
「えっ!?そうなのかっ!?いつっ!?」
「ん,いつかは分からないよ。もうそろそろって聞いただけだから。・・・めちゃくちゃ驚いてるね,マル。」
「そりゃあそうだろっ!?俺たちの大事件じゃねぇか!卒業したらどうなるのかは聞かなかったのか?」
「うん。まぁ『別の場所に案内される』とは言ってたけど,場所についての詳しい説明はなかったよ。それ以上は教えられないんだって。」
「・・・そっか。そういや俺らの上の世代の人達も卒業した後どうなるかは聞かされてないっぽかったよな。・・・なるほどな。ここよりもひどい場所につれていかれる可能性もあるわけだ。・・・こりゃあさっさとアレ完成させないとな。」
「まぁ,ここよりもいい場所に行く可能性だってあるんだからそんなに気負わなくてもいいんじゃない?」
「おまえは楽観的だなぁ,バツ。」
「まぁ,そうかもね。・・・ところでさぁ,」
「ん?」
「アレって何?」
バツはマルの顔を真っすぐ見つめ,そう尋ねた。
しまった!と目を白黒させるマル。
マルの言うアレとは,隠し通路のことである。ひょんなことから見つけた通路で,秘密裏に掘り進めている最中なのだ。まだ外まで繋がっておらず,ここで知られてしまうのは具合が悪い。マル達の先輩の中には,夜逃げしようとして見せしめに殺されたものもいる。バツを信頼していないわけではないが,どこからか噂が広まり,スペクタ達に知られてしまえば一貫の終わりである。
「あっ,えっとぉ,こっちの話だよ。」
マルはしどろもどろにそう答える。
「・・・そっか。教えてくれないのか。傷つくなぁー僕。」
前を向きながら,わざとらしくそう答えるバツ。
「そんな言い方すんなよ。いつかは教えるから。」
この言葉に嘘はない。マルは,もし開通出来たら真っ先にバツに知らせるつもりだ。
「えぇーほんとにぃ?」
「ほんとにだよ。」
「・・・はぁ,そこまで言うなら信じるよ。絶対いつかは教えてよ?」
「おう。・・・ありがとなバツ。」
「どういたしまして。」
二人は,足並みをそろえて歩き始める。
「・・・それでさ,・・・話し戻すけど,僕たちもうすぐ卒業するだろ?」
バツは前を向いて話し始める。
「おう,そうだな。」
「だからさ,僕たち離れ離れになっちゃうかもしれないだろ?」
「ああ,・・・確かにそうだな。」
「だからさ,・・・最後の日まで,喧嘩せずに仲良くしたいなっていう話をしたかったんだよ。」
「・・・。おまえ,よく恥ずかしげもなくそんなことが言えるな。」
「後から言えばよかったって後悔するのはやだからね。」
「・・・そうか。」
「うん・・・。」
二人の間に静寂が流れる。
kーン,カーン・・・
そのとき,前の方から岩壁を砕く音が響いてきた。
「おっ,やってるね。・・・この音はシカクっぽいな。」
「えっお前,音で誰が掘ってるのか分かるのかよ。」
「そりゃ,何回も手伝ってたら覚えるさ。この人はこんなテンポで叩くんだなぁとか,このくらいの強さで叩くんだなぁとか。」
「・・・すげぇな,お前。」
「ありがとう。称賛は素直に受け取っておくよ。・・・それじゃ,手伝いに行こっか。マル。」
「おう。」
カーン,カーン・・・
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