第2話 先輩、ゲームをしませんか?
その日の放課後。店内で三〇分ほど過ごし、会計を済ませた四人は喫茶店を後にしていた。
街中を移動していると、
それは周りの視線である。
同じ部活のメンバーといえども、数人の美少女らを引き連れて街中を歩いていると、まじまじと目を向けられることが多い。
幹真は表情が硬くなっていた。
「あなたって、歩くのがぎこちなくない?」
「そ、そんな事は無いと思いますけど。でも、皆と一緒に街中で遊ぶのが、なんていうか、新鮮というか。緊張しているかもしれないですね」
背後にいる
「幹真は、どこに連れて行ってくれるの?」
右隣を歩いている
「すぐ近くの場所だよ」
幹真が目的としている場所は、喫茶店から少し歩くことになるものの、そこまで遠いところではない。
おおよそ、五分くらいのところにある一般的なデパート。
七階建てで屋上もあり、たまの休日にはイベントも開かれたりするのだ。
デパート内に入ると、数人ほどの人らとすれ違いながら店内を歩く。
平日の今日は騒がしくもなく、適度に買い物に来ている人らを見かける程度。
四人はデパートのエスカレーターに乗り、上のフロアへ向かって行く事となった。
「もしや、五階フロアに行くんですか?」
後輩の
「そうだよ。このデパートって言ったら、そこで遊ぶのが一番適していると思うからね」
大人数で遊ぶなら、ゲームセンターがいいに決まっている。
デートスポットとは程違うが、今回はデートというよりかは部員らで遊ぶという流れでいこうと思う。
彼女らと気兼ねなく遊び、その過程で誰と正式に付き合うか決める。
ゲームセンターといえば、ちゃんとした大型施設もあるのだが、街中からは結構離れていて、平日という事も相まって手短に入れるところを選んだのである。
五階フロアに近づいてきた頃合い、次第にゲームのBGMが聞こえてくる。
「結構、色々ありますね。私、クレーンゲームとか好きなんですよね」
衣織は目を輝かせていた。
「幹真先輩は、クレーンゲーム好きですか?」
「……俺は普通かな。好きかどうかだと、嫌いよりかもな……」
ゲームセンターといえば、確かにクレーンゲームが定番だろう。
幹真的には、そこまで得意じゃない事も相まって敬遠したいゲームだった。
昔、四〇〇〇円近く消費したのに、何一つ獲得できなかったことがあるからだ。
あとで聞いた話だが、そのゲームセンターは色々と仕組まれていたらしい。
それが今になってもトラウマになっていた。
「そうなんですか、私やりたいんですけど。行きましょう、先輩」
普段は比較的大人しいが、ゲームセンターに来てからは彼女の様子が変わった気がする。
「ね、行きましょ!」
後輩は強引な感じに、幹真の左腕に抱きついてくる。
彼女の柔らかい感触が腕に当たり、妙な気分に追い込まれつつあった。
「私は格闘ゲームをしたいんだけど。多分、あっちの方にあるよね、幹真。一緒にやろ!」
早紀も負けじと右手首を掴んで、別のエリアへと誘導しようとしている。
幹真は、その場で板挟みに合う形となった。
「ちょっと待って、急に同時にはさ。無理っていうか」
幹真の両腕がピンチに陥り、自己主張する。
「そうよ。同時には無理でしょ」
依馬先輩が幹真の目の前にやってきて、割り込んでくる。
この現状を仲裁してくれるのかと思い、一安心していると、どこか違った。
「最初は部長の私からに決まっているでしょ」
「「え?」」
先輩の発言に、幹真の双方にいる彼女らは疑問気味な表情になる。
すぐに現状を把握し、それはないですからと、早い者勝ちだと彼女らは主張していた。
「絵馬先輩、抜け駆けするつもり?」
「それは無しですから。私たちは正々堂々する約束ですよね?」
しまいには、早紀と衣織からジト目を向けられる絵馬先輩。
「そ、そうね。ねえ、こういうのは幹真がしっかりと言わないと!」
「え、あ、う、うん。そうですね」
急に修羅場みたいな構図になっていて、幹真は動揺しながらも三方向を見る。
「じゃあ……順番通りに回っていくから。最初は衣織からで、いいかな」
幹真は周りにいる彼女らを見、確認するように聞く。
衣織以外の二人はしょうがないと呟きつつも受け入れてはくれていた。
「では、決まったからには、クレーンゲームが出来る場所に行きましょう」
幹真は衣織から導かれるように、先へと進むことになった。
全体を見渡す限り、クレーンゲームは五階フロアの半分を占めている。
クレーンゲームには、ぬいぐるみ系やお菓子系など色々と種類があり、衣織がやりたいのは、お菓子が景品となっているゲームのようだ。
クレーンゲームのガラスの先には、長方形の箱に入ったお菓子が並べられてある。そろそろ、状況によっては下に落ちそうなモノもあった。
「幹真先輩にやってほしいんですけど」
「俺はさっきも言ったけど、できないから。下手なんだって」
「でも、幹真先輩にとってほしいので」
「え……」
あまり乗り気ではなかった。
けれども、後輩からの求められている瞳を前には抵抗しづらい。
それに、先ほどから後輩との距離が近く、変に意識してしまっている。
心が揺れ動いている際――
刹那、背後から目を感じる。
しかし、振り返る事は出来なかった。
幹真は後ろにいる彼女らに監視されたまま、それを背に感じながらも、衣織とのやり取りを気まずげに続ける羽目になった。
「お願い、できませんか。私も少し苦手で」
「そうなのか。じゃあ、別のゲームにするか?」
「いいえ、このゲームで! 私、お菓子が欲しいんです。だから、一回でも挑戦してくれれば」
「わ、分かった」
しょうがないと思い、一回だけならという気持ちで挑戦する。
筐体に一〇〇円を投入した。
ボタンを押し、筐体内にあるクレーンを移動させながら、目的となるお菓子へと向かわせていく。
「ここからだと、もう少し左ですかね」
「左?」
「そうです。これをこうやって」
「⁉」
幹真がボタンのところを触っていると、衣織からさりげなく手を触られる。
「どうしたんですか?」
「いや、な、なんでもないけど」
「そうですか? なんか、少しほっぺが赤い気がしますけど?」
「気のせいじゃないか」
後輩の前で心を引っ張られすぎだと思う。
ここは背後からの視線も踏まえながら、真剣に取り組もうと思った。
「これで、一応達成か」
「ありがとうございます、幹真先輩!」
「まあ、これでいいか?」
「はい!」
後輩からの幸せそうな声を聞けて、幹真の心は多少楽になっていた。
衣織が手にしているのは、ポッキーの小箱が一〇セット入った比較的大きな箱。
取りやすそうに思えたが、意外にも取りづらく、結構時間がかかった。
合計で一五〇〇円ほどかかり、結果としてスーパーで購入するのと同額だった。
「でも、幹真先輩も上手かったと思いますよ。センスがあると思いますし」
「そ、そうかな」
前回は四〇〇〇円ほどかかったのだ。以前よりかはマシになっているのだろう。
だが、今回は衣織のちょっとした手伝いがあったからこその結末であり、次、自分一人でどこまでできるか不安である。
「終わったのなら、次は私の番だから。幹真、次は格闘ゲームで対戦ね!」
早紀がその場で挑戦状を叩きだしてくるのだ。
早紀との対戦後は、絵馬先輩が行きたいエリアへ向かうことになっている。
普段から部活ばかりで日ごろのストレスを吐き出すかのように、それから二時間近く、夕暮れ時になるまで、そのデパートの五階に居続けることになったのだ。
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