第43話

 ブレイズが昇級試験を受けてから数週間後。ブレイズとライは仲介所で依頼書を見ていた。ライがふと一枚の依頼書を手に取る。ブレイズもその依頼書を覗き込んだ。


「それ、受けるのか?」

「ああ。」


 ライが手にしていたのはある商隊の護衛依頼で、ブレイズ達が今いる国からやや離れた国までの護衛を依頼するものだった。


「他の冒険者と組むことになるが、条件は悪くない。目的地も行きたい方向だしな。」

「俺達二人だけだと護衛できるのは馬車一台までだもんな~…。」

「そうだな。」


 ライはそう返事をすると、さっさと依頼書を受付カウンターへ持って行ってしまった。受付の女性と何やら会話を交わした後、ブレイズの元へと戻ってきた。


「出発は一週間後だそうだ。それまで、魔術の修行と素材収集の依頼をこなすぞ。」

「りょーかい。」


◇◇◇◇◇


 ブレイズとライは素材収集の依頼を行った後、いつも通り魔術の修行をしていた。ブレイズは水属性と土属性の魔術を両手でそれぞれ展開させていた。


「良し。水と土の属性魔術も安定して展開できるようになったな。」

「ほんとか?良かった。」

「後は樹の属性魔術と同じように戦闘にどう活かすかイメージしておけ。」

「銃弾に魔力を込めるのもありだよな。」

「ああ。相手としてはどの属性魔術が来るかわからないから、敵を攪乱させるのに適しているだろうな。」


 ライがブレイズの言葉に頷いた。


「ここまでくれば、各属性魔術の特性を活かした魔術を覚えても良い頃合かもな。」

「属性魔術の特性?」

「ああ。以前、水属性は治癒魔術が使えると言っただろう。治癒魔術に適性があるのは水属性と光属性だ。心身や物質の強化に適性があるのは炎と土、弱体化に適性があるのは風と闇、というようにそれぞれの属性によって特性がある。」

「へえ。じゃあ、ライは炎属性と闇属性だから、強化・弱体化それぞれが使えるってことか。」

「そうなる。応用させれば自分の体限定だが、小さな傷の回復や毒消しなどもできるようになる。」

「あ、それなら前にテオに睡眠薬飲まされた時に効かなかったのは…?」


 ブレイズの疑問にライは答えた。


「闇属性の特性を活かして睡眠薬の効果を弱めたからだ。」

「なるほど。そんな使い方があるのか。」


 ブレイズは感心した。


「オレが教えられるのは強化と弱体化の魔術だけになる。治癒魔術に関しては自分で調べて勉強しろ。」

「わかった。」


 ブレイズの返事を聞いて、ライは立ち上がった。


「それじゃあ戦闘訓練を始めるぞ。」

「う、はーい…。」


 ブレイズも銃弾をゴム弾に詰め替えると、のろのろと立ち上がる。


「ルールはいつもどおり。今回は水と土の属性魔術も使って来い。」

「りょーかい。」


 ブレイズが答えた途端、ライが切りかかって来た。ブレイズはゴム弾で応戦するが、全て弾かれてしまう。ゴム弾は弾かれた先でにょきにょきと枝葉を伸ばすが、ライには届かない。


「フォン!」

〈うん!〉


 ブレイズはフォンを呼び出すと周りの樹木の枝を操ってライの進路を妨害させた。ライは炎の剣を出現させると、その枝葉を切って進んでくる。


「やっぱり効果ないな!」


 樹の魔術があっさりと破られていくのを見て、ブレイズは次にレスタを呼び出した。


「レスタ!」

〈おう!〉


 レスタは地面に手をつけると、ライの足元をボコボコと隆起させた。バランスを崩したところを狙おうとしたが、ライは地面の隆起を避けるようにして走って来た。そのままブレイズの前まで来る。


「げえっ!トア!」

〈は~い!〉


 慌ててブレイズはトアを呼び出し、大きな水壁を出現させた。だが、ライはそれすらも一撃で叩き切ってしまう。ブレイズは水を纏わせたナイフでライの炎の剣を受けた。


「相変わらず容赦なさすぎじゃないですか、ライさん…!?」

「これくらい凌いでみせろ、ブレイズ。」


 ニヤリ、とライは綺麗な顔に悪そうな笑みを浮かべると、剣を押す手に力を込めてきた。


「ぐっ…!」

「どうした、これで終わりじゃないよな?」

「当然…!!」


 ブレイズはそう言うとフォンとトアの二人掛かりで樹を操らせ、ライを捕まえさせようとした。だが、ライは樹が届く寸前でまたしても剣で切り落としてしまった。それでもどうにかライから距離を取ることに成功したブレイズは思考を巡らせた。


(樹は炎との相性が悪すぎる。水と土の属性魔術でどうにかしないと…!)


 そう考えたブレイズは水の玉を空中にいくつも浮かべ、ライに向かって射出した。だが、ライは水球を剣で切り落としてしまう。


「何で切れるんだよ!」

「魔術の核が見えている。隠すようにしろと指導したはずだ。」

「うぐっ!」


 ライに指摘され、ブレイズは丁寧に魔術を展開することを心掛けた。再び水球を空中に浮かべ、ライに向かって飛ばす。今度は切り落とされることなく、ライは避けるようになった。飛ばした水球のうちいくつかはライに的中し、ライの体にまとわりつく。水はずるずると剣の方へ移動し、ライの剣を包み込んで炎を消してしまった。


「…ぬるいぞ、ブレイズ。」


ライは一言評価すると、今度は勢いよく燃え盛る炎を剣に宿して、水球の水を全て蒸発させてしまった。


「そんなことできんの!?」

「属性魔術は相性があるが、魔力を多くつぎ込めば不得意な属性でも打ち勝つことができる。覚えておけ。」


 そうライが言った瞬間。バシャリと上から大量の水が落ちてきた。ライは不意をつかれ、ブレイズはその隙を逃さずライの頭部に水を集中させた。


「これでどうだ!」


 ブレイズは得意気に言ったが、ライは即座に影を出して水を吸収した。ポタリ、とライの髪から水が滴る。


「…オレの不意を突くとはなかなかやるじゃないか。」

「ほんとか!?」

「ああ。オレも本気を出させてもらうぞ。」


 その言葉に、ブレイズの笑みが固まった。


「え、ちょ、これ以上マジでやるの?」

「当然だろう。むしろこれからが本番だ。」


 ニヤリ、とライが不敵に笑った。


「安心しろ。多少の怪我は後でちゃんと治してやる。」

「い、いやあああああ!」


 ブレイズの叫びが森中に響いた。

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